ゆうびんねこ

山崎 玲子



 ぼくは、白いレースのカーテンがかかった出まどにすわっていました。
 せっかくの白い毛がよごれるからと、そとには出してもらえません。ペルシャねこじゃなくてノラねこだったらよかったのになあ。なにしろ、こうしてまどからそとを見るぐらいしか、することがありません。
 まどのそとには、いろいろな人や自転車や自動車があらわれます。ときどき大きな犬がとおってほえて、おどかされます。
 空を見あげると、クリームみたいな雲がゆっくりとうごいていきました。
 トゥルルルとスクーターの音がしました。
 赤いスクーターにのった、ゆうびんのおにいさんがやってきます。スクーターがブォンとなってとまりました。
 その音にびっくりして、おきあがると、
「あれ! 生きてるんだ。ぬいぐるみかとおもったよ」
 ゆうびんやさんはそういってスクーターをおりて、ぼくの目のまえに顔を見せました。
「いいなあ、きみは。のんびりしていられてさ。すこしでいいからかわってほしいな」
(ゆうびんやさんこそ、うらやましいよ。ぼくもいろんなところへ行ってみたい)
 ぼくがニャーンとなくと、
「えっ? おれがうらやましいって! ゆうべはちょっと、ねぶそくだったかもしれないな。ねこがしゃべるなんて」
 ゆうびんやさんは、目をこすりました。
 ぼくのすがたが、ゆうびんやさんのひとみにうつりました。
 つぎのしゅんかん、ぼくはゆうびんやさんに、ゆうびんやさんはぼくになっていました。
「びっくりした! でも、おたがい、のぞみがかなったじゃないか」
 ぼくになったゆうびんやさんは、まるくなってねむってしまいました。ぼくは、ゆうびんやさんのせいふくをきて、ヘルメットをかぶり、スクーターにまたがっていました。
 なんだかはずかしいような、うれしいようなきもちでスッとむねをはりました。
「ごくろうさま」
 となりの家のおばさんがいいました。
「おはようございます」
 そういおうとしたはずなのに、ニャーンといってしまいました。
 おばさんは、こちらを見てびっくりしています。どうやら、すがたはゆうびんやさんでも、なかみはぼくのままのようです。
 ぼくはにげるように、赤いスクーターをッーッと走らせました。
 わーい、はやいぞ はやいぞ。
 けしきがとぶようにすぎていくのが、おもしろくてたまりません。おっと、ゆうびんをくばらなくちゃ。
 ぼくは、ゆうびんうけにハガキや手紙をいれていきました。
 つぎは、ここ、コンビニです。
「ゆうびんです」
 ニャニャンニャーン。おっとしまった。おきゃくさんや店員さんがぼくを見ています。
 それにしてもコンビニにはいろいろなものがあります。キャットフードのふくろをみつけ、ちょっとひっかくと、手のつめはゆうびんやさんのつめで、スッスッスッとすべってしまいました。それでもすこしあながあいて、プーンととてもこうばしいかおりがしてきました。クンクンとはながなりました。
「あっ、このゆうびんやさん、キャットフードのふくろやぶいた!」
 ちいさな男の子がいいました。
し、しまった。…ぼくはゆうびんやだったんだ。ぼくは、あわててコンビニを出ました。

 また赤いスクーターを走らせ、おち葉はきをしているおじいさんに、だまってハガキを二まいわたしました。
 おじいさんはぼくをジロッとにらみました。そして、ほうきをもったまま、ハガキを見ました。
「あっ、ゆうびんやさん、こちらの一枚はうちのじゃないよ」
 おかしいな。あっ、そうだった。にんげんも、おなじ名まえの人がたくさんいるんだっけ。
「すみません」
 ハガキをうけとると、そういうつもりで、またニャーンといってしまいました。
 おじいさんが目をパチパチさせています。
 ウーッ、ワンワン!
 おじいさんの家の犬がぼくを見てほえました。ぼくのそばまでくると、ククンとにおいをかぎました。そして、ウーッとうなっています。
 ぼくは、あわててスクーターをツーッと走らせ、そこからはなれました。
 つぎに、黄色いキクの花がたくさんさいている家のまえにスクーターをとめました。
 ポストに手紙をいれようとすると、へいのむこうから、シャッとだいきらいな水がふってきました。ウーッとうなってやりました。
「あらあら、ゆうびんやさん、ごめんなさい」
 おばあさんが、ホースで花に水をやっていたのです。
 ぼくは、ブルブルブルッと顔をふるわせて水をはらいました。おばあさんは、ぬれたふうとうをうらがえしました。
「あら、さっちゃんからだわ。とおくにすんでいるまごなの。わたしの絵よ、ほら。ゆうびんやさん、ありがとう」
 めがねをかけたおばあさんの絵がかかれています。ぼくもうれしくなって、にっこりわらいました。
 ぼくはまた、スクーターを走らせました。
 いっけんの家のまえを、わかい男がいったりきたりしています。キョロキョロしてハーッとため息をつくと、家の中に入りました。入ったとおもったら、すぐにまた出てきました。
 もしかしたら、あの男は、あの家の中でなにか、わるいことをしているのかもしれません。こういうときはおまわりさんです。
 ぼくは、スクーターで交番へいそぎました。
「ゆうびんやさん、どうかしましたか?」
 こんなとき、ねこ語しか話せないなんて。
 こまったぼくは、じけんのほうこうをゆびさしました。にんげんのゆびは、こんなときべんりです。
「あっちでなにか、あったんですね」
 ぼくがうなずくと、おまわりさんはミニパトカーにのりました。
 ぼくのスクーターのあとからミニパトカーがやってきました。
 げんばにつくと、あの男はまだ、さっきと同じようにキョロキョロうろうろしています。
 パトカーをおりておまわりさんが、ききました。
「ちょっと、交番まできてもらおうか」
 その男は、きょとんとしています。おまわりさんは、その男をバトカーにのせようとしました。
「なんだよ。ぼくは、ゆうびんがくるのをまっていただけだよ。あっ、ゆうびんやさん」
 その男は、パトカーのうしろにかくれるようにスクーターにまたがっていた、ぼくをみつけました。
「佐藤けんたあてのゆうびんがきてるよね」
 ぼくはあわてて、はこをさがしました。
 すると、ありました。「佐藤けんた様」とたしかにかいてあります。
 その人は、それをビリッとやぶりました。
「やったーあ。合格だあ。しけんに合格したよ」
 その佐藤けんたくんは、ぼくの手をとると、くるくるまわりました。
「なんだ。じけんじゃなかったんだ」
 おまわりさんは、がっかりしたようにいいました。
「あれ。ゆうびんやさんの手……」
 佐藤けんたくんは、ぼくの手をとってじっと見ました。
「ずいぶん、毛ぶかい手だね。それにどうして、こんなにまるいの?」
 ぽくは、ニャッとさけんでしまいました。
 ぼくの手がねこの手にもどっていたのです。
 ぼくはあわててスクーターを走らせ、家にもどりました。
 ちょうど、ねこになったゆうびんやさんが目をさまし、まどの上でせのびしています。
(やあ、よくねた、よくねた。おかえり)
 ひとみにゆうびんやさんのぼくがうつっています。ゆうびんねこのぼくと、ゆうびんやさんのねこの目があいました。
 ぼくはいつものまどのところにいて、白い毛なみのペルシャねこにもどっていました。
「ゆっくり休ませてもらったよ」
 ゆうびんやさんは、ぼくにバイバイすると、スクーターを走らせて行ってしまいました。
 このまどのむこうには、たのしいことやびっくりすることが、いっぱいです。
 またわらってみようとしましたが、ねこにもどったぼくは、わらえませんでした。

(おわり)



前へ戻る