★ リベンジの峠 / 新八坂峠・八坂峠・アンバ峠・地形図の「地蔵峠」・栂ノ峠(地蔵峠)

以前、日没後も山中に取り残され遭難未遂を起こした因縁の尾根を再訪しました。
再び訪れることで前回なぜ迷ってしまったかがよく判りました。

結果、明るい時間に訪れていれば、なんてことは無かった易しい尾根でした。
前回のミスは夕闇が迫る焦りからの混乱と二重山稜という地形上の罠が引き起こしたものでありました。

【新八坂峠】


折八古関林道の新・八坂峠


新設された登山標識

まずは遭難地点を探る前に折八古関林道が越える新八坂峠を再訪します。
この林道は反木川水系の沢集落から折門、八坂地区を通過して芦川水系の古関とを結んでいます。
林道は釈迦ヶ岳の西尾根を分断し、ぐるりとその中腹を巻いて強引に造られた道です。

その分断地点である新たに生まれた新・八坂峠からの眺望は頗る良好で、
南アルプス・八ヶ岳や甲府の盆地が一望できます。
前回訪れた時には無かった「釈迦ヶ岳・釈迦屋敷跡・三方分山→」の登山標識が新設されていました。


西尾根p1161方向を望む


八ヶ岳も綺麗に見える

尾根を西に、旧八坂峠に向かう踏み跡は以前よりもやや明瞭になっています。
林業整備か登山道としての整備か、多少人の手が入った形跡が見て取れます。
しかし、蛾ヶ岳から三方分山・精進湖を縦走する人は、一般には山腹のハイキングコースを歩くのが
ほとんどであり、尾根通しを馬鹿正直に歩く人は少ないようです。
実際歩いてもメリットは無く、植林に眺望を遮られた上にバラ混じりのヤブの手荒い歓待を受けるだけです。


新八坂峠から南アルプスの雪嶺を望む

折八古関林道は今後、林道マニア(?)に人気が出るかもしれません。
反木川側の人工物がまったく目に入らない山深い景観といい、
新峠からの見事な眺望といい、天空を駈け抜けるパスハンター垂涎の的となり得ることでしょう。

【八坂峠】


林道からの旧八坂峠入口


植林地の中の頼りない峠道

尾根通しではなく旧八坂峠の南側から峠を目指します。
新設林道の完成に地形図の修正が追い付いていませんが峠道は地形図通りに残されています。

林道のコーナーから植林地内を抜けて踏み跡が続いています。
(本当は入ってすぐ目の前を横切る立派な山道を左に行くのが正解)
少々ヤブ気味で、猛烈なイノシシの臭いがしますが鞍部を目指すと、前回も訪れた貧相な八坂峠に到着です。 


八坂峠


芦川側の道はブッシュ気味

峠には古い空缶の山と最近の焚火の跡が残されています。
芦川に下る道は、いきなりのブッシュで果たして麓まで峠道が残っているのか疑問です。
立派な折八古関林道が開通した今では、この旧峠道を利用する人もいないことでしょう。

三珠町と旧下部町の境界尾根である芦川南稜尾根をこのまま進んで、
前回の遭難地点を目指そうとも思いましたが、
p1161付近のチクチクトゲトゲ植物混じりのブッシュ帯通過には苦労した記憶があるので今回はパスします。


峠入口を示す標識は錆び果てる

再び南側の林道に戻ろうと引き返すと立派な峠道が残っているのに気付きました。

林道から植林地内を抜けて踏み跡を拾うのではなく、
入ってすぐ目の前を横切る立派な山道を左に行くと上画像の錆びて判読不能な標識があるので、
ここから峠方向に向かうのが正解だったようです。

そうすればイノシシの臭いにたじろぐ必要もなかったのです。

【アンバ峠からp1142、地形図の地蔵峠、栂ノ峠(地蔵峠)】


八坂からの地蔵峠入口


八坂の守り神か?

「地蔵峠のツガ」の標識から山道に入りアンバ峠を目指しますが、
その前に右手の老木の周りに集められた八坂集落の守り神に入山の挨拶をしましょう。
石仏や道祖神が優しく迎えてくれることでしょう。

左手の山道に入り、シイタケ栽培を横目に快調に進みます。
この山道は、蛾ヶ岳と三方分山・精進湖を結ぶハイキングコースなので非常に歩きやすい良い道です。
そもそも正しき登山者は境界尾根などを歩かずに、この道を歩くものなのです。
ただ少数のイカレタ峠マニアや境界尾根マニア、ヤプ尾根マニアの面々にとっては
芦川南稜の境界尾根は関心を引く尾根なのです。


植林帯の背後の鞍部がアンバ峠


アンバ峠

前回訪れた時に、アンバ峠らしき場所は通過したものの、いまひとつ確証が得られなかったので
ずっと心残りになっていました。 今回は地形図の破線道を信じて南側から探ります。

カヤトの斜面から植林地に切り替わってしばらく行くと、植林地の土手に上がる踏み跡があります。
そこが峠の入口であり、p1161とp1142との鞍部に向けて作業道のような道が続いています。
入口は判り難いので、鞍部を意識しつつ地形図を見ながら探さなければなりません。
(入口に99円ショップの透明のレジ袋を付けておきました)
植林地内に入ると炭焼き跡の石積みがあり、枝打ちや伐木されたヒノキが道を隠しつつも
作業道が峠までのびています。

辿り着いた峠は、北側は雑木林、南側は植林の平凡な鞍部で、峠名の標識などはありません。
くたびれたスズランテープが立木に巻かれ、散弾銃の空薬莢が転がっているだけです。
北側の葉を落としている雑木林の隙間から芦川沿いの三帳集落が望めますが、
そちらへ下る道筋は判然としません。


天子山塊の眺め

八坂から栂ノ峠までのハイキングコースからは奥深い天子山塊の山並みを望むことができます。
ビルや工場やゴルフ場、送電線といった人工の大型構造物が目に入ることはありません。
この付近の山々は山岳雑誌やガイドブックに紹介される機会もあまり無く静謐の中にあります。


p1142付近 白樺が姿を出す


クレーター地形の鬼ヶ窪

アンバ峠からは尾根を西に辿って、いよいよ前回不覚にも迷ってしまった地点の探索をします。
遭難した謎を解明しないことにはスッキリしませんし、同じ過ちを再び繰り返すことにもなりかねません。

アンバ峠からp1142に向けては前回は見られなかった整備の跡が見られます。
といっても前半部分のわずかな潅木を除伐したものにすぎません。
依然としてブッシュ気味の踏み跡程度の道であり、夏場は訪れたくない道に変わりはありません。
p1142までは黒色に赤い頭の標界杭が目印となりますが、
のっぺりとしたp1142付近の雑木林帯に入ると標界杭も踏み跡も姿を消してしまいます。

雑木林帯の中に白樺の群林などが現われると北側に流されている証拠で、
南側のカラマツ林と雑木林との境界に向けて軌道を修正する必要があります。
ここは意識的に南側を歩かないと北側に流され続けてしまいます。

前回はこの辺りで日没を迎え、地形把握と方向感覚を失い遭難未遂を引き起こしたのです。
地形図の「地蔵峠」と書かれている地点はスプーンでえぐったようなクレーター状の地形をしており、
二重山稜に挟まれた小さな窪地を形成しています。 (この付近は「鬼ヶ窪」と呼ばれているようです)
意識していなければ歩きやすいクレーター地形の北縁の小尾根に引き込まれ易い場所です。
前回は暗闇の中、その北縁に流され窪地周辺をグルグルと彷徨っていたようです。


地形図の「地蔵峠」


栂ノ峠 (地蔵峠)

明るい中訪れた今回は、二重山稜の罠にはまることは無く、
地形図をしっかり読んで南側の縁の小尾根を拾うことができました。
雑木林帯で踏み跡はありませんが、だんだんと前方に栂ノ峠の大栂のシルエットが見えてくると、
不安ながらに辿った尾根が正しい主稜線だったとの確信に変わりホッとします。

地形図の「地蔵峠」の破線道も残されていて、小尾根を横切る形で凹とした道が確認できました。
到着した栂ノ峠には傾きはじめた陽を受け大栂の巨体が聳えています。

栂ノ峠(地蔵峠)の大栂は何百年もの間、風雪に耐え、峠を行き来する人を見守ってきたことでしょう。
また、府中を見下ろし、府中から仰ぎ見られ、村から街に出た人々の心の拠り所となっていたのかもしれません。


現地標識は「栂の峠=地蔵峠」

栂ノ峠の現地標識は「栂ノ峠=地蔵峠」となっています。
確かに栂の根元には可愛らしい六地蔵が祀られているので
「地蔵峠」なのかもしれません。

しかし、「栂ノ峠=地蔵峠」だとすると、
地形図の「地蔵峠」の位置は誤りで、
図上のp1094が栂ノ峠兼地蔵峠ということになります。

あるいは六地蔵は地形図の「地蔵峠」から
この地に移設されてきたものなのかもしれません?(謎?)
それとも一帯を含めた名称なのかもしれません。


峠の六地蔵

大栂の説明看板には、
御地蔵峠つがん峠と呼ばれ、折門、八坂地区と
市川、甲府方面を結ぶ、重要な生活路であった」とあります。

大栂の樹齢は凡そ500年と推定され、樹高は16.3mもあり、
甲府近辺からも望み得ることができるそうです。

甲府に出た村人は尾根の上に栂の大木を望み、
あの向こうに「おらが村」があると思ったことでしょう。


一般コースから地形図の「地蔵峠」への分岐

栂ノ峠から一般ハイキングコースを利用し八坂に戻ります。
途中、地形図の「地蔵峠」に向かう分岐道を確認することができます。

南側の斜面は近年伐採され素晴らしい眺望に恵まれています。
眺望の無い尾根を忠実に歩く価値などさらさらなく、
素直にこのハイキングコースを歩いた方がどんなにか無難なことでしょう。

しかし、愚かな峠マニアは尾根上に記された峠名を地図で見て、
安易に足を踏み入れてしまうのです。
今回は前回の轍を踏むこともなく、因縁の尾根にリベンジを果たし、
遭難未遂の原因究明と正しい峠位置の確認をすることができました。


八坂から望む富士の頭

● 『続・中高年向きの山100コース』(浅野孝一著・山と渓谷社)では、以下のように栂ノ峠と地蔵峠を区別しています。
  また、この付近では折門峠の位置が地形図と現地とでは異なるので注意が必要です。


『続・中高年向きの山100コース』 (浅野孝一著・山と渓谷社 挿入図 より)

● 折八古関林道は12/01から3/31まで冬期通行止です。
  今回は通行止め期間内でしたが南側の沢集落から新八坂峠まで問題無く走行できました。(少々落石あり)
  芦川側の林道の路面状態、ゲートの有無、またその開閉状況については不明です。

● p1142から栂ノ峠を目指す場合、二重山稜の北縁(窪地の北側の小尾根)に引き込まれやすいので注意が必要です。
  逆方向の西から東へ、つまり栂ノ峠からp1142へ向けて歩く場合は問題は無いと思われます。

● 前回訪問した時のレポートを見る