憧れの峠
/ 穴路峠・立野峠・寺下峠・新大地峠
| 人にはそれぞれ憧れの地というものがあるだろう。 私にとって峠における憧れの地の一つが穴路峠であった。 さほど遠くにあるわけではないので、いつでも行けるだろうと思っているうちに
、 その美しいイメージを創りあげるのに寄与したのが、 憧れと一抹の不安を抱きながら、晩秋の穴路峠を訪れてみた。 |
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「穴路」とは変わった名である。 鉱物を掘る鉱山師が越えた「穴師峠」からきたという説や 穴のような切り通し状の地形である路からきたという説がある。 『甲斐の山山』(小林経雄著・新ハイキング社)によれば、 何となく情景が目に浮かぶのでこの説を採ることにする。 |
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国道の喧騒を離れ、桂川を渡り段丘に上がると、 小篠の集落が静かに肩を寄せ合っている。 昨晩の霜で路面や畑はうっすら白く化粧している。 しばらく行くと、「熊に注意」の看板がある。 |
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「峠文化の森入口」という、不要な看板をやり過ごして進むと、 高畑倉山と穴路峠の分岐がある。 本当は真っ直ぐ進み、逸早く峠に向かいたかったが、 山屋の血がそうはさせず、はやる気持を抑えて「右、山道」へ進む。 しばらくは竹林が続く、以前この辺りには仙人が住んでいたらしい。 一瞬、「熊に注意」の看板が思い出されたが、キャッ!と振り返ると、 |
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高畑倉山からの展望は良いのだが、 あまり前に進むと眼下のゴルフ場が目に入り、 せっかくの情趣を台無しにする。 稜線を東に、待望の穴路峠に向う。 |
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そして、穴路峠。 恋焦がれた峠に辿り着いた。 穴路峠は静かに、そこにいた。 勝手に描いたイメージを崩すことなくそこにいた。 ちょっと看板が騒がしいが、 いまでは炭を背負った村人が越えることはないが、 北西の厳しい季節風ではなく |
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穴路峠に別れを告げて、 ちょっと我慢の急傾斜を登れば、 踏み固められた小広い倉岳山の山頂に着く。 山梨百名山ということで、ちょっとした賑わいだ。 |
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倉岳山からの急下降で立野峠に辿り着く。 明るい南面の雑木林に誘われて、 「無生野」という耳に残るひびきの村落を訪ねてもみたいが、 今日は東方行けるところまで歩くのだ。 北面のヒノキ林に消えた母と息子のハイカーを見送って、 |
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立野峠より先はヤブが道を隠しつつある。 倉岳山の賑わいも、立野峠より先は無縁なようだ。 左にヒノキの植林帯、右は明るい落葉樹林の稜線を進む。 北面の桂川側から正午を知らせる村内放送が、 |
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矢平山手前のコルで、 ふかふかの落葉の上に新聞紙を広げて昼食とする。 葉が落ちる音とガスバーナーの音だけの静かな食事。 |
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そんな心地好い晩秋の憧れの峠をめぐる山旅も、 大地峠付近の林道開削工事で荒れ狂う 重機の咆哮で掻き消された。 ここで終わりだなと思い、 林道工事を見るフィナーレはがっかりだったが、 憧れの峠にきてみてよかったと思った。 |
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