愛鷹連峰の峠 / 富士見峠・割石峠

 丹沢や箱根の山を登って富士山を眺めると、そのお隣りに登行意欲をそそる山の塊があります。
前々から気にはなっていたのですが、なかなか訪れる機会がありませんでした。
峠行を兼ねて愛鷹連峰の最高峰である越前岳の頂きを踏んできました。

【位置概念図】

                十里木峠
                                    ▲黒岳

                                 富士見峠

                  ▲越前岳

                     ▲呼子岳  割石峠
                                  ▲鋸岳

                                           ▲位牌岳

                                            一服峠

                                         ▲袴腰峠

                                            ▲愛鷹山

愛鷹連峰周辺には、上記のように十里木峠、富士見峠、割石峠、一服峠、等の峠があります。<*1>
今回は、愛鷹神社の山ノ神から富士見峠に登り、越前岳、呼子岳を経て割石峠を下り
大沢沿いに起点に戻る周遊コースを辿ってみました。
所要時間4時間ですが、それなりに味のある山旅を楽しむことができました。


登山口の愛鷹神社 山ノ神


愛鷹山荘


富士見峠

愛鷹神社前の駐車場に車を置き、鳥居をくぐり山道へ。
山道はよく踏まれていて歩き易い。 浮石なども無くよく整備されています。
前半はスギ林ですが、中腹からは明るい広葉樹の林です。 
登山口に「熊出没!」の看板があったのも頷けます。
熊が楽しく生活できるような環境が残っています。

特に苦しい所も無く、ほどなくで愛鷹山荘に到着します。 
予約制の山小屋で小屋前には狭いながらテント場もあります。
水場と有料のトイレも設置されています。
小屋から2分で富士見峠に立つことができます。


富士見峠の標識


富士見峠全景


鋸岳展望台からの位牌山

峠は越前岳と黒岳の鞍部になります。 反対側に越える道は あるような無いような・・・
丸太のベンチに腰掛けると木々間から富士を望むことができます。 
日本各地に富士見峠という名前の峠は多数ありますが、
これほど間近に富士を見ることのできる富士見峠も他にはないのではと思います。

峠から越前岳に向けて緩やかな尾根道が続きます。
時折聞こえてくる富士演習場のドンパチが耳障りですが、すれ違う人もいない静かな山道です。


鋸刃のようなギザギザ尾根


北白のガレン


富士見台

鋸岳展望台からは大沢をはさんで鋸岳、位牌岳の山並みが一望できます。
鋸岳は、まさにノコギリの刃のようにギザギザで、ここからではとても尾根上を歩けるようには見えません。

馬酔木や熊笹の尾根を辿ると「危険!」の看板が出てきます。 
「北白のガレン」と呼ばれる崩壊地で南東面がスッパッと切れ落ちていてスリルを味わうことができます。

危険地帯を通り過ぎると富士見台に至り、頗る良望な富士の姿が目に飛び込んできます。
雄大な裾野の広がりを体感することができます。
富士の撮影に一生を捧げた岡田紅陽が戦前戦後を通じて幾度か撮影に訪れたと案内板にはあります。
昭和13年発行の五十銭紙幣の図案はここから撮影された富士が描かれているそうです。


越前岳1504m


大岳への道


呼子岳

富士見台から越前岳への道は、このコース一番のプロムナード。 
背の高さを超える馬酔木の間をすり抜けアップダウンのほとんどない快適な道を進むと
富士の上半身が顔を出す越前岳山頂に到着です。 駿河の国なのに「越前」とはこれ如何に。
赤土が剥き出しの山頂には、真新しいベンチと山梨百名山の標識が設置されています。 
十里木への分岐もあり そちらから入山する登山者も多いようです。
山頂は駿河湾からの風が強く長居はできません。 冬期は厳しい山に化けそうです。

逆コースを辿らなくてよかったと思わせる急降下で山頂を後にします。<*2>
これから進む主稜線からは外れている大岳の大きな山体が存在を主張しています。
呼子岳から大岳へ続く道はあるようですが、昭文社『山と高原地図』には登山道の記載が無く、
現地には「廃道」の標識が立っていました。


呼子岳より越前岳


割石峠


峠から須津へのルンゼ

越前岳から呼子岳の道は変化があって面白い道で、南面の沼津市、富士市の眺望も良好です。
馬酔木や愛鷹躑躅の尾根を進みます。
呼子岳で振り返ると越前岳の肩に富士がちよこっと顔を出している様がイイ感じです。

さて楽しみにしていた割石峠ですが、峠というよりヤセ尾根上のキレットという感じでしょうか。
南側の割石沢側は、まさに石を割ったような深い谷溝となっています。
ここを南に下れば須津川沿いに出て須津神社を経て神谷に至るようですが
実際に歩かれている道なのでしょうか?

ここに本当に乗っ越す峠道があったのでしょうか? 
覗いて見ると通れないこともないようですが、生活の道という感じは全くありません。 
獣を追い求めた猟師ぐらいにしか歩かれていなかったのではないでしょうか?


割石峠


割石峠 大沢側


峠道というよりガレ場
ルンゼのような涸れ沢を下る

割石峠から北側の大沢沿いに下ります。
峠道というよりはガレ場に近く、ルンゼのような涸れ沢を下ります。
間違っても自転車でパスハンの対象にはならない峠でしょう。<*3>

ちょっと下った所に鋸岳への分岐があり、登山を自重するようにとの看板があります。
平成10年の秋の長雨で登山道が崩壊してしまったようです。 
今流行りの自己責任が問われますので、鋸岳、位牌岳の先にある一服峠はまたの機会にします。
位牌岳とは不気味な名前であります。
近づいたら稜線から滑落して位牌になってしまうのだろうか。<*4>

分岐を見送り、涸れ沢の石に飛び移りながら高度を下げていきます。
所々に積まれたケルンと白ペンキの目印を見落さないように進む必要があります。
ガスなどで視界不良の時は要注意です。 


大杉
ここまで来れば林道は近い

下部はブナやミズナラ、カエデなどの原生林で
自然が色濃く残っています。
訪れる前はたいして深い自然などなく、植林地の山だと思って
いたので驚きです。

背の高い笹の繁茂は、熊の恐怖も感じさせます。
単独行で怖かったので、手を叩き、奇声を発して歩きました。
熊に怯える北海道の山に居るような気分を味わうことになりました。

大杉まで来れば林道は近いです。 
沢に水の流れも現われ、瀬音を聞きながら無事に
起点に戻ることができました。

今回は、峠を味わう山旅というよりも、思いの外に深い自然が
残された愛鷹連峰を堪能する山旅となりました。
変化に富んだ愛鷹連峰は魅力的な山域です。

*1 十里木峠は『峠と人生』(直良信夫・NHK出版)に記載があります。

*2 逆コースは、精神的にも肉体的にもキツイような気がします。冬場はさらに厳しそうだ。
   大沢沿いの石ころ道は浮石や落石に注意。石に描かれた白ペンキとケルンとビニールテープを見落さないように。

*3 富士見峠も割石峠も登山者向けの峠で、里人に古くから歩かれた生活の道とは思えませんし、
   まして自転車によるパスハン対象になる峠ではありません。 

*4 『檜原村紀聞』(瓜生卓造・東書選書)を読むと、檜原村の秋川流域にも位牌山と呼ばれる山があることが記されています。
   位牌山とは誰も手をつけない山で、貧乏山とも呼ばれ、山に手をつけると不幸を招いたり、ツキが悪くなったりすると
   いわれています。 (反対に景気山というツキを呼ぶ山もあるそうですが)
   愛鷹連峰の位牌山もこの種の貧乏山話と関連があるのでしょうか。