万歳峠
峠は人との出会いが生まれる場所。
また、峠は人との別れの舞台にもなる場所。
育ててくれた親から離れ、愛する人と別れ、生まれ育った郷土を振り返る場所でもある。
希望に満ちて峠に立つ人もいれば、逃げるようにして郷里を去る人もいたことだろう。
いずれにしても峠を越えたその人の人生が大きく変る転機となった場所でもある。
時代の流れに抗えず峠を越えた人もいた。
止むに止まれず峠を越えた人もいた。
戦時中、各地の峠は出征兵士を見送る場所となった。
民俗学者・宮本常一の名著『忘れられた日本人』の中に出征兵士を送り出す峠についての記述がある。
<略> 万歳峠・・・ -「村の寄りあい」- より <略> 「万歳峠というのはな、村の者が兵隊を見送っていくのに、峠の上までいって万歳をとなえたのでは 「そうでしたのう。他所へいって、万歳峠のところまで戻って来て、わが村の見えて来るのは -「名倉談義」- より |
愛知県にあるこの峠は村人からは万歳峠と呼ばれていた。
出征兵士を見送り、戦勝と無事を祈り万歳を唱え送り出した。
すぐにその後ろ姿が見えなくなってしまうのは名残惜しいと、
峠の頂上ではなく、その数丁手前で見送りをするうちに、峠も手前に移動した。
送り出す親兄弟、恋人に手を振って応えながら
振り返るその胸中はいかなるものであっただろうか。
再び峠を越えて故郷に帰る日を夢見て峠の向うへ下って行ったことだろう。
しかし、何人かは二度とこの峠の上に立つことはできなかった。
戦地で倒れ変わり果てた姿で越えることはあっても。
峠越えは人の一生を大きく左右する。
自分の意志で越える人も、越えることを余儀なくされた人も。