はっきりしない峠

 岩戸峠?・秋山峠・本坂峠(道志口峠)・アミバ峠(アミハリ)?

 山名にこだわる人泣かせの赤鞍ヶ岳・朝日山を訪れてみることにした。
両山名は混乱しており、1/25000地形図で1299m峰を赤鞍ヶ岳としているのは誤りであり、
本当は朝日山であるというのが定説となっている。
赤鞍ヶ岳は、その東の1257m峰のワラビタタキと呼ばれる地を指すという。

この山域は他にも、御座入山を今倉山としたり、菜畑裏を菜畑山としたり、
巌道峠を厳道峠・強盗峠としたりの混乱がみられている。
また、「赤鞍ヶ岳」は「赤倉岳」と書く場合もあり、まったくもってはっきりしない山域である。

山名の混乱はさておいて、道志村の峠を求めて春のやわらかい陽光の一日 旅に出た。


大栗からの尾根の途中でマンサクが咲いていた


稜線上はブナも残る

秋山峠や本坂峠(道志口峠)は地図に名前もあり知っていたが、
「岩戸峠」の名は村松昭氏の『丹沢・大山絵図』(1983年・聖岳社)を見ていて発見した。
どこの峠をあらわすのか?
本坂峠の別名なのか、はっきりしない。

また、アミバ峠の名は鉄道省発行の『日本山岳案内』(昭和15年)という古いガイドブックで発見した。
現在の昭文社の登山地図に「アミハリ」と記されている辺りだ。

「岩戸峠」、「アミバ峠」の名が気になって、確認の意味もあり今回の峠行が決まった。

大栗集落から歩き始めるが、不親切にも登山道の案内標識など一切なく入口が分かりづらい。
(それがまたいいのだが)、庭先のような道を通り、小社の前に出て林道を辿る。
コーナーの階段を登れば、はじめて登山口を示す標識がある。

落葉松や樅の混じった杉植林帯のジグザグを登れば支尾根に出て、
ビリビリと音を発する送電線をくぐれば展望が開けてくる。
見上げる山頂部には岩壁が陽を受け輝いており、その肩にはカヤト状の部分が望まれる。
「赤クラ」の「クラ」は岩のことと思われるが、この岩壁を指すかは定かではない。

振り返れば、大室山・加入道山が大きい。
地図に載っていない舗装された新しい林道を横断するのにはガッカリだが、
マンサクの木の間に富士の雪嶺が顔を出している春らしい風景に救われる。


赤鞍ヶ岳先のビューポイント
道志七里と呼ばれた山中谷を望む


岩戸峠なる鞍部か?

上部の明るい雑木林を抜け、急登のヒノキ林を汗して上がれば巌道峠から続く主稜線にとび出す。

稜線北側の谷筋には、まだ一部雪が残っている。
秋山村側から正午を告げるチャイムが風と共に駈け登ってくる。
わずかに遅れて道志村側からもチャイムの音が聞こえてきて、稜線上でぶつかり合った。
秋山側の時間の方が少し進んでいるのだろうか、それとも吹き上げる風の強さのせいか。

赤倉ヶ岳の最後の登りは遠目から見るとカヤト状で、気持ち良さそうに見えたが、
単なるスズタケのヤブ地獄だった。
刈り払いが中途半端であり、残された茎が剣山のようで、転倒すると大怪我をしかねない。
山頂もスズタケに覆われ展望は隠されている。
無人雨量計と三等三角点がポツンとあるだけで山名標識やベンチなど小洒落たものはまったくない。

稜線を進むとウバガ岩だろうか道志山中谷を望む眺めの良い岩場に出るので、
休憩するなら山頂ではなくこちらでしたほうが得策だ。

さて、「岩戸峠」だが赤鞍ヶ岳と朝日山の間にあるのか、
それとも朝日山の先にあるのかはっきりしない。
『丹沢・大山絵図』では赤鞍ヶ岳と朝日山の間に記されているが、
それぞれ標高が違っているので判然としない。
赤鞍ヶ岳と朝日山の間とすると、上の写真部分が最低鞍部となるが、無論、道の形跡などない。


秋山峠


秋山峠の標識 「道峠」の字が読める

『丹沢・大山絵図』では朝日山を赤鞍ヶ岳としているようなので、朝日山の先なのだろうか?
しかし、その先の岩戸ノ峰の手前に朝日山が記されているので、
やっぱり
赤鞍ヶ岳と朝日山の間ということになる???
もうさっぱりわからない・・・はっきりしない峠である。

定説の朝日山の手前に竹之本から上がってくる道がある。
ここが秋山峠といわれる地点である。
笹の刈り払われた明るい峠で南面の展望も良く、昼寝に最適な場所だ。
でも、峠らしくはない。

秋山峠の立ち木に打ち付けられた標識に「ー道峠」と書かれている。
巌道峠を指し示すものなのだろうか?
(帰宅後に、岩戸峠=秋山峠であると知った)


「赤鞍ヶ岳」の標識のある朝日山


岩戸ノ峰

秋山峠からブナ、ミズナラの道を辿ると、
堂々と「赤鞍ヶ岳」としるされた標識のある朝日山山頂である。
北面は落葉松の林で、空の広い頂だ。

これより先の道は笹の中を泳ぐかのような状態で、ほとんど歩かれていないようだ。
しかし、境界杭とテープを頼りに進めば、笹の海に溺れることもないだろう。
そういえば、この日は山の中で誰一人とも出会っていない。
よっぽど偏屈な登山者しか訪れない山域なのだろうか。

笹を掻き分け岩戸ノ峰にたどりつく。
朽ちた標識があるのみだ。
北側のヒカゲ舟方面に続くかすかな踏み跡がある。
まさか、ここが岩戸峠ではあるまいな。


本坂峠 (道志口峠) ちいさな鞍部


本坂峠 (道志口峠) 北面を望む

本坂峠(道志口峠)は、都留市朝日曽雌の道志口から道志村の戸渡に越える峠。
大杉峠、大ドウキの別称もある。
道坂トンネルが大正13年に開通するまでは重要な交通路であったという。

峠の北側は明るい落葉松林、南は杉の植林帯。
北にのびる踏み跡はちょっと頼りない状態だが、
いつの日にか、ちゃんと越えてみたい峠である。

高畑倉山・穴路峠方面が望めるが、ゴルフ場やリニア実験線などで傷付けられた山肌が痛々しい。


ブドウ岩ノ頭


アミバ峠 (網場峠)

ブドウ岩ノ頭を鋭角に曲がり急降下して菜畑山に向かう。
下降すればするほど菜畑山が高くなる。

最低鞍部が古いガイドブックで見た「アミバ峠」と思われる。
昭文社の『山と高原地図』には「アミハリ」の地名が記されている。
かつて、この鞍部に鳥を取る霞網が張られていたのだろうか。
落葉とヤブに埋まってしまったのか乗っ越す道は見当たらない。
これもまた、はっきりとしない峠である。
今はただ、ヤツグラ沢からゴーッと風が吹き上げてくるだけだ。
大旅沢側は林道の延長工事をしているらしく、時折、重機の咆哮が鳴り響く。

道志や秋山周辺の低山など、歳を重ねてから楽しむ山だという人もいるかもしれないが、
それでは山の破壊のスピードが速くて、楽しもうとした時には、
楽しめる山が無くなっているということにもなりかねない。
林道建設、ゴルフ場、リニア建設、宅地造成、不要な観光施設など行く末暗澹たるものである。


菜畑山 (菜畑裏)

菜畑山からは、大室山、加入道山、城ヶ尾山、菰釣山と北丹沢の縦走路が一望できる。
その前衛に鳥ノ胸山、平指山も見定めることができる。
これらの山域には、まだ足を踏み入れていない峠があるので、近いうちに訪れたいものだ。

道志のはっきりしない峠巡りを終えて、次なる目的地がはっきりしてきた。

◆ 道志山塊の山名混乱については、『関東百山』(実業之日本社)、『甲斐の山旅・甲州百山』(実業之日本社)に詳しい。

◆ 後日、古い山の本を見ていたら秋山峠の場所を岩戸峠と記述したものを見つけました。
  はっきりしなかった「岩戸峠」は結局、秋山峠の別名であり、「秋山峠=岩戸峠」だったようです。
  ちなみに「岩戸」は「ガンド」と読むそうです。(巌道峠の音を連想します)

      

◆ 後日、道志口峠・アミバ峠の峠道を辿った時のレポートを見る。