峠のファッション

 

峠歩きなんかする時は、
よっぽどの険しい所や深いヤブ山でもない限り
町を歩く時のファッションと同じである。

それは、山でもオシャレをしているのか、
それとも街中でも汚い格好をしているのか、
と問われれば、後者であるが。

峠歩きに、ごっついザックなんか要らないし、
重たい登山靴も要らない。

靴は普段から履いているスニカーをちょっと丈夫にしたような代物だし、
ザックも背負わず、ショルダーバックを襷掛けにして
必要最小限の装備を詰め込んでのお気軽な峠行だ。

外目からは決して山野に赴く格好には見えないはずだ。

重登山靴を履いて、スパッツを装着して、ステッキを両手に持った
完全装備の中高年ハイカーからして見れば、
「あんたは、山をナメテイル!」と、
お叱り、お説教の一つでも頂くことになる姿であるのだ。

峠歩きには、山に登る時ほどの気負いも要らないし、
重装備も要らないし、詳細な計画書も要らない。

ぶらっと出掛けて
楽しむことが出来るのは
峠歩きのいいところでもある。

そもそも、峠を越える行為は
昔は人々の生活の一部分であったのだし、
いちいち重装備を必要とする峠では、その用をなさないのである。

普段着で峠歩きを楽しめることは実に都合がいいことで、
山に登りに行くのなら、そのいでたちで家人にすぐバレてしまうが、
峠遊びならバレる心配がないのである。

「ちょっと近所まで買物に」とか「友人と飲みに」とか言い残して家を出ても、
まさか電車を乗り継ぎ、乗り継ぎして、
中央線沿線の峠へ あるいは奥武蔵の峠へと、
峠遊びに出掛けているとは感付かれまい。

隠れてイケナイ事をしているような変な感覚ではあるが、
べつに外に女を拵えて浮気をしているわけでもないし。
(峠という愛人のところに通い詰めている感は若干あるが・・・)

普段着と同様の峠ファッションは、
「また山ばかり行って」などという小言や
耳が痛い批判をかわすことがてきるのだ。

たまに、靴に泥を付けて帰ったり、
衣服に草の種を付けて帰ったり、花粉症になって帰って来たりして、
完全犯罪の目論見が発覚することもあるので注意は必要である。

帰宅して玄関を開ける前に、
シャツに付いた口紅や、香水の残り香をチェックするかのように、
峠帰りをさとられない
細心の用心は必要であろう。

ただ普段着ファッションの峠行では
遭難は絶対許されない。

「こんな軽装で山に入って」というお叱りも受けるだろうし、
なによりも家人に行き先も告げずに峠歩きをしているのだから、
道に迷って遭難しても捜索隊は現われないだろうから・・・

浮気と同じで
帰らぬ人になってはいけないということかな?!

30も半ばを過ぎるとオシャレ感覚も麻痺するようで、
街歩きの格好も、山歩きの格好も大差はないものだ。

それに加えて貧乏となると、
高級ブランドの服も買えないし、
アウトドアメーカーの服も買えないのだ。

ヤブ深い山道にも果敢に突入できる
ユニクロの服だけが頼りです。

ボロボロになっても後悔しないユニクロの服。

ヤブ山の激戦で穴の開いた
歴戦の勇士790円のフリースを前にしての、
峠行ファッションの一考察でした。