旧秦野峠道を探る・2

(松田側・成功篇)

【コース】 稲郷--杉ノ沢--平畑堰堤--杉ノ沢堰堤--大曲り--林道--新秦野峠--ジダンゴ山分岐--ダルマ沢経路--虫沢--田代向

 前回の探索では旧版『山と高原地図』の「ヤブひどし」の言葉に騙されて
早々と林道へ逃亡してしまい探索は失敗に終わった。

帰宅後何気なく目にした『丹沢の谷110ルート』(山と渓谷社)の「杉ノ沢」紹介ページに、
杉ノ沢は「滝らしい滝はひとつもなく、のんびりと気軽なハイキングが楽しめるコース」という
安心の一文を見つけて再度探索に訪れることにした。


錆び果てたバス


第一堰堤上の杉ノ沢

稲郷のミロク山荘背後の吊橋で中津川を渡り、寄沢、中ノ沢、杉ノ沢の三沢出合いから探索が始まります。
スタート地点は錆び果て放置されたバスが目印。
左手の山道を登り、出合いの第1堰堤を越えていきます。

第1堰堤上の杉ノ沢の流れは優しい流れ。
前回は左岸を歩いて第2堰堤で行き詰まってしまいましたが、今回は右岸の道をはじめから辿ります。
右岸には踏み締められた道がハッキリと付けられていました。
こんな良い道があったのか・・・、前回ろくに探索もせずに早々と逃走してしまったのが悔やまれる。


平畑堰堤(第2堰堤)を右岸から越える


杉ノ沢堰堤上の広河原

第2堰堤(平畑堰堤)を右岸から越えて、第3堰堤の杉ノ沢堰堤が見えてきたところで左岸に渡ります。
植林地内の道を登り、大きな杉ノ沢堰堤も左岸から容易に越えることができます。
杉ノ沢堰堤の上は広い河原でキャンプをするには好適地。焚火の跡も見られる。

堰堤上から振り返り見る栗ノ木洞、櫟山の山体が大きい。
杉ノ沢の上空は被さるものが無く空が広い。こんなところで焚火を囲み星空を眺めるのも悪くはない。


河原の奥から沢が再び狭まる


右岸につけられた植林山腹道を進む

広い河原から上流部に向かうと、また沢は狭まります。
このまま流れに沿って歩き通すこともできるようですが、小さな堰堤が幾つもあり、
それを高巻くことは徒労であります。

左から流れ込む小さな沢との合流地点から、植林地内の土手に上がると明瞭な山道が見つかります。
ここには炭焼き釜跡の古い石積みが残っています。

杉植林地内の山道は次第に高度を上げていくので、
沢から離れ過ぎはしないかと不安になりますが、幾つもある堰堤を越える為の道筋です。
途中二箇所ほどガレ沢を横断するところもありますが、山道は明瞭で拾い損なうことはないでしょう。
この植林地内の作業道(山道)が旧秦野峠道(杉ノ沢径路)そのものなのでしょう。


大曲り付近
上部に林道が見えるがしばし我慢


堰堤と標識が見えた

随時、右手には杉ノ沢を挟んで林道が見えています。
林道に架かる二つ目の赤い橋が見えてくると、「大曲り」と呼ばれる沢がほぼ直角に曲る地点は近いです。
いつでも山道から沢底に降りることはできるのですが
堰堤から落ちる沢水の音が聞こえるうちはまだダメです。
最後の鉄製堰堤を巻き終えた所で沢に降りるのが正解なのです。
特に意識しなくても踏み跡もそのようにつけられています。

沢に降りた後は、右手の涸れ沢を辿ります。
「神奈川県水源の森」の標杭やペットボトル等のゴミなどを頼りに進むと、
右手上方には林道のガードレールが見えてきます。

瞬間湯沸器などの不法投棄も見られます。
もうどこからでも林道へ這い上がることはできますが、しばし我慢して進むと、
前回訪れた時に確認した「秦野峠登山道」の標識を見つけることができます。


前回も確認した「秦野峠登山道」の標識


林道上の新秦野峠記念碑

標識の矢印に従い、堰堤脇から踏み跡を拾うと難無く林道上に出ることができます。
林道の道端に「起点から4km、終点から11km」の距離ポストが立っています。
つまり寄大橋からの林道秦野峠線4km地点に飛び出すことになります。
時間的にみると林道を歩くより杉ノ沢径路を歩く方が早いようです。

オンバク橋から旧秦野峠は前回踏破したので、今回は林道をそのまま歩いて新秦野峠へ向かいます。
総工費42億9000万円、1キロ当り2億8600万円の林道はゲートで封鎖されていて、
一般の車両の通行は許されていません。

「寄と玄倉の奥地に広がる森林の活用と集落を結ぶ連絡道として25年の歳月を費やし開通・・・」と
記念碑には刻まれていますが、連絡道として利用されている様子は見られません。


「檜岳・雨山」の標識


「←ジダンゴ山」の標識に従う

新秦野峠には「ジダンゴ山」と「檜岳・雨山」の標識が設置されています。
「檜岳」の振り仮名が、「ヒノキダッカ」となっている点が素晴らしいと思います。

古い資料や文献によると、秦野峠は玄倉峠とも呼ばれていたようです。
秦野峠は山北町にあった河村城の搦め手にもされた古い峠で、
玄倉では寄を「前秦野」と呼んでいたことから秦野峠と呼ばれるようになったといいます。
玄倉側の旧峠道も探索したいところですが暗雲が空を覆い始めてきたのでまたの機会とします。

『山北町史』には、
「玄倉や八丁では秦野峠を介し松田町寄や秦野との交流があった」とあるので
八丁の位置する皆瀬川筋とも峠は結ばれていたのかもしれません。
だとするとヘイソ沢沿いにも旧峠道が隠れているかもしれない。
未知の道の楽しみは次回に取って置いて、今にも雨が降り出しそうな山からの脱出を急ぐべし。


「←ジダンゴ山・↑ダルマ沢経由田代向
→高松山・↓秦野峠」の標識


「↑ダルマ沢ノ頭、秦野峠
←ダルマ沢経由田代向・→ジダンゴ山」の標識

ジダンゴ山の標識に従い、植林地内の急登を行きます。
振り向くと伊勢沢ノ頭、檜岳、雨山の山稜がドッシリと構えています。
雨山に雲がかかると雨が降るとの言い伝えがあります。
雲のかかっていない様子を見ると、降りだすまでには今しばらく猶予があるようです。

登りつめたジダンゴ山分岐には倒れた標識があり、それぞれの方向をかろうじて指し示しています。
耳慣れないダルマ沢(虫沢川の上流)に興味を抱き、ダルマ沢経由で田代向に出る道を選択します。
しかし、植林地内を下る道は不明瞭で、正しい登山道なのか、それとも単なる仕事道なのか、
はたまた獣道なのかハッキリしません。

それでも警察の鑑識課のように踏み跡を丹念に拾うと、手作りの標識が見つかりホッとします。
ここからでもまだジダンゴ山に向かう事ができるようですが、
一度決めたダルマ沢下降路に向かいます。


脚立で鹿柵を越える


右手から高松山・西ヶ尾からの道が合流する

鹿柵を脚立で越えて、ネット沿いの道を進み、また再び脚立で鹿柵を越えます。
所々ビニールテープによる目印も付けられていますが人気のある登山コースとは到底思えません。
地図にもコース表記が無いので、訪れる人は稀だと思われます。

しばらく進むと、また手作り標識があり、高松山、西ヶ尾からの道と合流します。
造林作業用の道が登山道として利用されているようでいまひとつパッとしない道です。
しかしここを過ぎると小尾根に乗り、雑木林の山道となります。


小尾根に乗る
p710が左手に見え、送電線・林道が見える


雑木林内の不明瞭な道にはテープあり
RFの答え合わせをしてくれる

左手にはp710が望まれ、その北鞍部を越えている送電線も見えています。
送電線のみでなく林道も延びているようです。
(p710はタケ山というらしい)
新秦野峠からp871、p821の北側山腹を絡む林道はジダンゴ山西側の鞍部を巻いて
p710の北鞍部に至り、p710の西側山腹を伝い虫沢川沿いの林道と繋がっているようです。
小尾根を進むとスズタケの繁る小ピークがありますが、ダニが居そうなので左手から巻いて進みます。

尾根が広くなり、獣の寝床のような潅木地帯の斜面を下ります。
獣の足跡は豊富ですが人間のそれは見当たりません。
木々に巻き付けられたテープがRFの答え合わせをしてくれます。


送電線新秦野線「←29・30→」の標識
ダルマ沢へはここで尾根を離れ鋭角に曲る
空は一面鉛色


ダルマ沢源頭部
送電線巡視路の標識と
「←秦野峠、ジダンゴ山」の標識がある

送電線巡視路「新秦野線29・30」への案内標識があり、手作りの山道標識が
ここから小尾根に別れを告げて、鋭角に左手に曲りダルマ沢への下降を示しています。
空はみるみる暗くなり、とうとうポツポツと雨粒が落ちてきました。
お気軽ウォークなので雨具の用意などありません。
暗い植林地内を下降し、空中を渡る送電線をくぐるとダルマ沢の源頭部へ導かれます。

雨は降ったり止んだりしています。
植林地内を歩く分にはたいして雨に濡れることはありません。
しかし、沢沿いでは頭の上を覆うものが無いので本降りにならないことを祈るばかりです。
チェーンソーの音や林道開削の削岩機の音がこだましています。
暗い空に加えて、これでなんの音もしなければちょっと不気味な沢沿いの道です。


小さなゴルジュ通過もあるが
沢としての魅力は乏しい


ダルマ沢径路出口
虫沢川沿いの舗装林道となる

ダルマ沢は美しいといえるほどの沢でもなく、かといってまた大荒れの沢でもありません。
p710の西側山腹の林道開削の影響で上部は土砂が流入している模様です。
沢登りの対象にはならないだろうし、ここだけを目的に訪れる人も無いでしょう。
滝といえる滝もなく、数箇所の堰堤があるのみ。
それだから下降路としても使えるのですが、沢歩きの魅力としては乏しい所です。
可愛らしいゴルジュもあるにはあるが・・・

ダルマ沢沿いの道は思いの外に短く、あっという間に林道に出てしまいました。
手持ちの地図が古く、林道延長に対応していませんでした。
付近の植林地では間伐作業をしています。
また虫沢川の支流ヒネゴ沢では堰堤工事をしています。
雨が本降りになってきたので、虫沢川沿いの道を早足で田代向へと進みます。


山の神様へのお供え物

途中、大きな古木の下に石祠が祀られていました。
雨宿りを兼ねて石段を上がると、祠の前には里芋、昆布、蒟蒻の煮染め、赤飯、豆、
キュウリの新香が供えられていました。

正月のおせち料理のお裾分けのようでもありますが、
山仕事の安全や治山工事の無事を山神様に祈願したものかもしれません。
これだけのご馳走だったらきっと願いも叶えてくれるに違いありません。

山神様はこういうものがお好みなのかと観察しつつ、雨に煙る山を後にしました。