避難小屋付き峠行![]()
田部重治氏の著『山と渓谷』の中に、
「山に登るということは、絶対に山に寝ることでなければならない。
山から出たばかりの水をのむことでなければならない。
なるべく山のものを喰わなければならない。
山の嵐を聞きながら、その間に焚火をしながら、
そこに一夜を経る事でなければならない。
そして山そのものと自分というものの存在が根底において
しっくり融け合わなければならない。」
という文章がある。
「山のものを喰わなければならない」というのは難しいが、
「山に寝ることでなければならない」というのは避難小屋を利用すれば、
お手軽に実行できる。
重いテントを担ぎ上げる必要もないし、防寒対策も容易だ。
夏ならシュラフなど必要なくシュラフカバー程度で事足りる。
空いたザックのスペースを活かして
贅沢にも大量の食料を運び込むこともできる。
私のような体力に衰えを感じる軟弱ハイカーには利用価値が高い。
なによりも、営業小屋と違い無料で使用できる点が大きな魅力だ。
この避難小屋を山登りばかりではなく、
峠行に利用しない手はない。
大抵の峠は日帰りで越えることができるし、
峠とは本来そういうものであろうが、
避難小屋で一夜を過ごしつつ、
峠道を懐く、深い闇に包まれた静寂の山の中で、
一日の峠行を振り返ったり、
まだ見ぬ峠のむこう側に想いを馳せるのは愉しいことである。
また、ゆっくり流れる時の中で、かつての峠の姿に思い巡らすこともできる。
踏み固められた峠道に耳を傾けたり、路傍の岩や大木に手を当てたりして、
古人の足音や体温を感じ取ることもあるだろう。
急いで越える峠行もあろうが、
山中一泊の峠行は、味わい深いものがあるのだ。
霊感は強いほうではないのだが、
地方のビジネスホテルなどに宿泊する際に
この部屋はなんだかイヤだなぁ〜と思うことはある。
そんなことが避難小屋泊であっては、
逃げ場がないから大変なので、
事前調査はしっかりと行う必要がある。
といっても、大半は写真で雰囲気を確認する程度ではあるが・・・。
ロケーションと建物そのものの清潔度で判断するのだが、
霊感的なものは実際に行ってみなければわからないのが実状だ。
噂によれば、「出る」避難小屋もあるらしい。
しかし、単独で山に入っていて怖いのは、
お化けや妖怪でもないし、獣や嵐でもない。
自分以外の人間が一番怖いものである。
避難小屋付き峠行を楽しめそうな身近な峠を思い浮かべてみた。
三頭山避難小屋で鞘口峠・御堂峠・ムシカリ峠。
御前山避難小屋で小河内峠・大ダワ。
一杯水避難小屋で仙元峠・酉谷峠。
大菩薩避難小屋で丸川峠・大菩薩峠・石丸峠。
湯ノ沢峠避難小屋で湯ノ沢峠・米背負峠。
四里観音避難小屋で十文字峠。
笹平避難小屋で雁坂峠。
白崩避難小屋で清水峠。
犬越路避難小屋で犬越路。
加入道避難小屋で馬場峠・白石峠。
菰釣避難小屋で城ヶ尾峠・忘路峠。
などなど避難小屋を絡めて峠行を楽しむコースはいろいろありそうだ。
最近の避難小屋は、展望の良い立地に、
ウッディな丸太造りで、薪ストーブがあったり、
水場・トイレ完備であったりして、至れり尽せりである。
このままここを住み処にしたいと思ったりもしてしまう。
管理人に成りすまして宿泊料をせしめるという悪知恵も浮かんでしまう。
山では自分以外の人間が一番怖いと記したものの、
避難小屋での人との出会いは、時には楽しいものでもある。
ランプの下で、山について峠について語り合うのも悪くない。
たまには、ゆっくりと峠道を踏みしめ、
山で寝て、山の水を飲み、山で食べるといった
峠の彷徨をしてみてはどうだろうか。
山や峠と融け合ってみてはどうだろうか。
ちなみに避難小屋の一夜でカワイイ女性のハイカーなんぞには
出会ったことがないのが残念である。
もし出会ったら要注意である、
妖怪やもののけ かもしれないからだ。

*避難小屋は緊急避難用に設置されたものであり、計画的に・確信犯的に利用しては
ならないという意見もありますが、猥雑な世間からの避難に用いてもいいのでは・・