目的地じゃなかった峠 /  曲沢峠・大鹿峠

 夏真っ盛り。
暑い暑いとばかり言っていてもしょうがないので甲斐の風を浴びに峠行に出た。
目的地は笹子峠。
中央線笹子駅で降車して笹子峠を越えて甲斐大和駅までの甲州街道の旅と考えた。

ところが、暑さで頭をやられたのか、「ぼぉーっ」としていて笹子駅手前の初狩駅で電車を降りてしまった。
それでも最初は間違いに気付かず、ひたすら国道20号線を笹子峠目指して歩いていた。
炎天下の国道歩きは非常に辛かった。いくら経っても近づかない笹子峠に疑問を感じ、
地図を取り出し確認して、やっと間違いに気付く有様であった。
とにかくこの灼熱のアスファルト地獄から逃げ出したく、地図と相談して大鹿峠へのエスケープを見出した。


広葉樹の中の曲沢峠

しかし、手持ちの『山と高原地図』では大鹿峠への登り道は
破線で記載されているので少々不安を感じる。
そこで、曲沢峠(平ッ沢峠)から稜線に上がり、
大鹿山を経由して大鹿峠に向かうことにした。
曲沢峠経由で大鹿峠を甲斐大和側の田野集落に
下るという修正案を決定する。

国道から離れ、中央高速を渡り、
大鹿沢沿いの緑に囲まれるとホッとした。
しばらくは杉の植林帯の中の舗装林道が続くが、
国道歩きとは雲泥の差である。

「日通りの姥神」という石造物を過ぎ、
「道証地蔵」の分岐で滝子山へ続く山道に入る。
栃や沢胡桃の大木に囲まれた平ッ沢沿いの道は快適で、
流れる水もすこぶる綺麗なのだ。

次の分岐を左に入り、曲沢峠へ続くジグザグになる。
あまり歩かれてはいないらしく、
蜘蛛の巣やらマムシやらの歓迎がやかましい。
曲沢峠には名前の通りクネクネを繰り返して辿り着いた。
反対側に降りる道ははっきりしていなかった。
変則十字路のようで降り口は離れているようだ。


大鹿峠

MTBのタイヤの痕跡が残る尾根道を南下して大鹿山へ。
さっきまでの酷暑はどこへやら、日川渓谷側の深い底から
ガスが湧き上がってくるではないか・・・。

『北都留郡誌』によると、昔このあたりに百貫(380kg)の
大鹿がいたから大鹿山と呼ばれるようになったそうだ。
百貫はあまりに大きいが、実際には三本足の鹿がいて
神格化されていたともいう。

信州諏訪様が参勤交代の折、行きは中仙道を利用して、
帰りは甲州街道を通ったが、笹子峠は使用せず大鹿峠を
越えたそうである。諏訪の主神の春日権現と鹿の関係
は深いそうな。 (『大菩薩連嶺』岩科小一郎・朋文堂 より)

最前の「道証地蔵」の分岐からのびてきている大鹿峠までの道は、
地図の頼りない破線道とは異なり思いの外はっきりとしていたので、
わざわざ曲沢峠を経由しなくてもよかったかなと思いつつ辿り着いた大鹿峠で一休み。

このまま尾根伝いに行けば笹子雁ガ腹摺山を越えて、
本来の目的地であった笹子峠に辿り着くこともできるなと考える。
しかし、今回は笹子峠には嫌われているようなので大鹿峠道を田野に向って下ることにする。
道は明瞭、勾配も小走りにちょうどよい道で一気に駆け下る。
送電線がまとわりつくのが気に入らないが、送電線巡視路を兼ねているらしい。
最後は氷川神社の背後に飛び出し、ここを通っていいのだろうかと思える民家の庭先を通過する。

車道に出ると、飲んでくれとビールの自販機が訴えるのでそれに応えてグビィとやってしまった。
夏の夕暮れホロ酔い気分で、今は甲斐大和、昔は初鹿野という美しい名前だった駅にむけてゆっくりと歩く。
すれ違う子供達が、こんな酔っ払いに、「こんにちは」と声を掛けてくれた。
たまには目的と違う峠を歩くのもイイナと思った。