★ 真名井北稜〜赤杭尾根〜弁当尾根

【コース】

JR川井駅-真名井橋-新蔵指ノ丸-雁掛ノ峰-真名井沢ノ峰-布滝沢ノ頭-赤杭山-峰戸山-頭窓山-JR川井駅

 「真名井北稜」、カッコイイ響きです。

「真名井沢北ノ尾根」とも「真名井沢北稜」とも呼ばれ、
地形図にはコース記載の無い川苔山の隠れた登降路として利用されています。
昨年、真名井沢ノ峰を通過したとき北尾根に続く踏み跡と目印のビニールテープを見て
いつかは歩いてみたいと思っていました。

奥多摩一帯がスギ花粉に包まれる前に訪れてみることにしました。


真名井林道入口

午前11時半JR青梅線川井駅着。
こんな時間に登山者の姿は無く、奥地に向かうバスの便も無い。
大丹波川に沿った里道をサクサク歩いて北川橋へ。
橋は渡らず分岐する左手の道に入り、
38号送電鉄塔の巡視路入口前を通り過ぎて真名井橋の袂へ。
ここが真名井林道の起点となります。

まだ奥多摩は残雪の世界かと思っていましたが、
やさしい春の陽射しは奥山にも平等に降り注ぎ
雪はその姿をすっかり消していました。
こうなると、林道入口にあった「熊が出ます」の注意看板の
信憑性がいやがうえにも増すというもの。


尾根に設置された「北稜入口」の標識

林道に入って数分、
右手に送電線巡視路「新秩父線39号」の標柱があり、
植林地の中に斜上する道がのびています。

ジグザグを知らない斜面に真っ直ぐ付けられた道は、
早くも厚着の身に大汗をかかせてくれます。
呼吸が乱れ、足の運びも乱れる頃、
「真名井北稜入口」の標識のある尾根に乗りました。
セーターを脱ぎ捨て呼吸を整え尾根上を進みます。


伐採地で展望が開ける

さすが送電線巡視路だけあって良い道が続きます。
40号、41号と送電鉄塔を過ぎp710に至ります。
この辺が惣岳山と呼ばれる地点なのでしょうか?
自然林のピークで標識の類はありません。

昔は青木神社が此処に奉祀され、
祭典の折には麓の集落からお獅子が登ったといいますが、
その様な痕跡は見当たりませんでした。

42号鉄塔を過ぎると伐採地があり見事な展望が開けます。


伐採地から行く手に真名井沢ノ峰、海老小屋山を望む


振り返ると大丹波川の谷の向こうに惣岳山、岩茸石山

伐採地からは行く手の真名井沢ノ峰や海老小屋山など赤杭尾根を一望することができます。
また、来し方を振り返ると大丹波の谷を挟んで
高水三山の惣岳山らしき顕著な三角ピークを望むこともできます。
伐採地には腰掛けるのに適した切り株があるので、
午後の柔らかい陽射しを受けてボッーとするには良い所です。

しかしながら、赤杭尾根の北面に強引に付けられた痛々しい林道の傷は見るに忍びありません。
赤杭尾根を乗り越す勢いで延長工事が進められている模様です。
何のための林道なのでしょうか?
奥多摩の人気コースである赤杭尾根を歩いている人は
足元で起きているこの現実を知っているのでしょうか?


自然林とアセビの尾根道

尾根から外れている43号送電鉄塔への分岐ピークを過ぎると
自然林とアセビの道となります。

真名井北稜は暗い植林ばかりの尾根道ではなく、
全体的に自然林が豊富で落ち葉の積もった道を歩くところも多いです。
ヤブは無く、巡視路から離れると踏み跡は薄くなるものの
見失うことはありません。
いたって快適な尾根道なのであります。


p1002の分岐にある「←上日向」の標識
新蔵指ノ丸?

p1002手前の急登は落ち葉で滑りやすい斜面を
潅木に掴まりながらの這い上がりとなります。

右手に主稜を外れ45号送電鉄塔に向かう踏み跡があるので
それに引き込まれないように注意して一途に高処を目指すのみです。

登りつめた所には「←上日向バス停」の標識が括りつけられていました。
ビニールテープの目印も付けられていますが、
真名井北稜を下降路として利用する際は、
見落し易い小分岐点となるので注意が必要です。
この辺りを「新蔵指ノ丸」と呼ぶらしいのですが
それを示す標識はありませんでした。


p1168の分岐
雁掛ノ峰?

しばらく平坦地を進み次いでp1168への登りとなります。
踏み跡が大分怪しくなってくる場所ですが、
木々が葉を落としている季節、迷う事は無いでしょう。

辿り着いたp1168には石標があります。
北に分岐する支稜にも踏み跡がありテープも付けられています。
送電鉄塔を経由して大丹波川側に降りることが出来るようです。
この小分岐も真名井北稜を下降路として利用する際は
注意しなければならない地点です。


p1168の先にある平場
馬乗石?

p1168付近は「雁掛ノ峰(カリカケノウラ)」との
呼称があるようですがそれを示す標識はありませんでした。
マイナールートの地誌的名称は忘れられてゆく運命にあるのでしょうか。

『奥多摩』(宮内敏雄著)には、
「脈が二分せんとするあたりの平を馬乗石と謂って、
(畠山)重忠の馬場だったなどの俚伝がある」と書かれています。

こんな山の上まで馬を牽いて、かつ乗馬をしたとは思えませんが
それらしき平場は確かにありました。
不意に山上に現われるだだっ広い平場を見て
昔の人はいろんな想像を膨らませたのでしょう。


「真名井沢の頭」の標識
真名井沢ノ峰(ウラ)・キワダ窪ノ峰

薄くなった踏み跡とテープの目印を拾いながら進むと、
赤杭尾根との合流点に飛び出し、
「真名井沢の頭」の標識と石標が迎えてくれます。

一般道から僅かばかり離れている山頂なので
このささやかな突起が山頂であると気付かずに
通り過ぎる人もいることでしょう。

川苔山に登る人はもちろん、下山してくる人の姿もありません。
時間が遅い為に人気ある尾根道もひっそりとしています。
赤杭尾根は道幅も広く、しっかり踏み固められています。
真名井北稜後半部のような頼りなさは微塵もありません。


布滝沢ノ頭 p1147
(海老小屋山・三道山・クマタカ山)

真名井沢ノ峰から一旦下りきり、
一般道(巻き道)と別れエビ小屋山を目指します。

『山と高原地図』では「エビ小屋山」ですが、
『奥多摩』(宮内敏雄著)には、
「海老小屋山・三道山・クマタカ山・布滝沢ノ頭」の名が紹介されています。
同じ山であっても麓の集落によってその呼称は違っていたのです。
山なのに「海老」とは不思議ですが、川苔山の「苔」同様に
川海老のことでしょうか?

山頂は見晴らしもよく優しい陽射しに包まれていました。
黄色のビニールテープが巻かれ黒マジックで
「布滝沢ノ頭(エビ小屋山)」と書かれていました。

石標に腰掛けて、99円ショップで買ったアップルパンと
テルモスの紅茶で休憩です。
春の訪れとともにテルモスの活躍する機会は減っていきます。


桃ノ木平?

エビ小屋山から少し尾根をそのまま進み、
一般道(巻き道)に戻るため急傾斜の植林地を下ります。
白ペンキの目印がありますが山勘が試されます。
暗い植林地を抜けた後は、少し荒れ気味の急斜面を
木に掴まり掴まりしながら下れば道標の立つ一般道に復帰できます。
(エビ小屋山からp931方向に流されないように注意です)

赤久奈山手前の平坦地は「桃ノ木平」との名があるそうですが
桃の木は無くヒノキの疎林と背の低い笹の平坦道です。


赤杭山 p923
(赤久奈山・笹平ノ峰)

地形図は「赤久奈山」、
手持ちの『山と高原地図』は「赤杭山」となっていますが
ともに「アカグナヤマ」と読むことに変わりはないようです。
西上州にも「赤久縄山(アカグナヤマ)」という山はありますが、
さて、「アカグナ」とはどういう意味なのでしょうか?

山頂はあまり山頂らしくなく北側の葉の落ちた疎林から
わずかばかりの眺望があるだけです。
この赤久奈山頂よりも、その手前のススキの生えたヤブ気味の
小さい突起が展望には優れています。
そこからは南の大塚山、城山、御岳山、大岳山、御前山、などの
一大パノラマを堪能することが出来るのです。


三ノ戸山 p809
(ミノト山・峰戸山)

赤久奈山を過ぎると木々の間からは
北側に棒ノ折山、長尾ノ丸、日向沢ノ峰と連なる尾根を望めます。

次の三ノ戸山へはまた一般道を外れて斜面を攀じります。
山頂には「三戸山」の標識が転がっていました。
標識の作製者は「ズマド山愛好会」とあります。
どんな組織なのでしょうか?
随分とローカルな山名を冠した愛好会です。


ズマド山北峰 p721
(頭窓山・妻戸山)

三ノ戸山からそのまま尾根を伝いズマド山を目指します。
この尾根をなぜか「弁当尾根」と言うそうです。

一旦、一般道に合流して、古里駅と川井駅との分岐標識を過ぎます。
標識には親切にも「△頭窓山→」とマジックで書かれているので
それに従い再び一般道を外れます。

踏み跡とテープに導かれて到着した頂には、
例のズマド山愛好会による
「ズマド北峰」の標識が設置されていました。


ズマド山南峰 △p690
(頭窓山・妻戸山)

ズマド山は双耳峰なのです。
北峰から尾根の急下降で三角点のある本峰(南峰)に到着します。
標高の低い方に三角点は設置されています。

両峰とも展望は無く、パッとする山頂ではありません。
一般道から外れ訪問者も少ないことでしょう。
愛好会の面々はこの山のどこに愛すべき点を見出したのでしょうか?
人の恋愛と同じように、山恋にも他所様からは計り知れない
奥深い愛の形があるようです。


川井下山口 登山標識アリ

南峰からは植林地内の急下降です。
白いビニールのレジ袋が点々とルートを示しています。
汚らしい目印ですが、よく目立ち、暗い植林内で進路を明示してくれます。

ひとしきり下り終えると、一般道と合流し、
明瞭な山道が下山口の川井集落に導いてくれます。
『奥多摩』(宮内敏雄著)によると、
途中、「金平山」、「お伊勢山」を経由するとのことですが、
いまひとつどこのことを指すのか判らぬままに下山してしまいました。

「真名井北稜-赤杭尾根-弁当尾根」の三つの尾根を巡る山歩きは
午後からでも充分楽しめる山歩きでありました。

  【参考文献】 ・『奥多摩』 宮内敏雄 白水社