再訪の穴路峠と二十六夜さん

穴路峠・楢峠・イヤゲ峠・雛鶴峠・三日月峠

春の訪れが近しい ある晴れた日、
穴路峠の再訪とその周辺に点在する消えかかる小さな峠を訪ねる山旅に出かけた。


穴路峠 (棚ノ入山方面を望む)

何度訪れても素敵な穴路峠。
前回は小篠側から高畑倉山を経由したので、
今回は南面の無生野側から峠への道を辿った。

それにしても「無生野」とは、なんと良い響きの集落だろうか。
なにか哀愁秘めたロマンを感じられずにはいられない。

藁葺屋根と鉄筋4階建てが隣り合う異様さもあるものの、
まだ静かな佇まいを残す無生野集落から
穴路沢沿いにスギの植林帯のジグザグを
息せき切って抜けると、落葉した雑木の明るい山道となる。
早く穴路峠に会いたくて休むことなく駈け登った。


穴路峠 (小篠側を望む)

穴路峠は前回訪れた時のように、
静かに旅人を迎えてくれました。

今回は倉岳山は踏まず高畑倉山から南下し、
地図に残る小峠を巡るのです。

高畑倉山の頂では麗容たる富士を仰ぎ、
ぽつねんと座り込んだ登山者と出会いました。
傍らには小さいスケッチブックがあり、
作品を拝見しつつ、リンゴなど御相伴にあずかりました。
秋山・道志の山旅は静かなる瞑想が似合うかもしれません。


楢峠 (楢山峠)

高畑倉山からの下降はナラの林の急下降。
たどりついた鞍部が楢峠(楢山峠)でしょうか。
峠道は落葉とヤブに埋もれはっきりしません。
道があったとしても、隣のゴルフ場に
吸い込まれる道など歩く気も起きません。

それにしても、
このゴルフ場の名前「ブリティシュガーデン」とは、
笑わせてくれます。


イヤゲ峠

イヤゲ峠の「イヤゲ」とは何の意味でしょうか。
ゴルフ場を見て「嫌気」ですが、
まさかそんな意味ではないでしょう。

左写真の箇所が峠風なのですが判然としません。
ここから南に上った高岩の看板に、
マジックでイヤゲ峠と書かれていたので、
そっちが正解かもしれません。

お昼にコンビニで食べたカレーが胃の中で、
うまく消化されないのか、ムカムカするものの、
せっかく持ってきたビールを飲まずにいるのは、
勿体無いので胃の消毒をかねてグビィとやる。


雛鶴峠

秋山山稜と道志山塊を結ぶ唯一の尾根をホロ酔い気分で辿る。
西方の展望もよく朝日馬場の山中谷を展望できる。
脚下にリニアモーター実験線が見えると、
雛鶴姫の伝説残る雛鶴峠。

雛鶴姫が護良親王の首級を抱き、京都をめざし
険しい山道に挑むが、無生野の里で
峠を越えることなく力尽き果てる我が身の悲運に涙したという。

秋山川と朝日川の分水嶺、秋山村と都留市の境界尾根、
その最低鞍部である雛鶴峠は、
その下に二車線の新雛鶴トンネルがあるせいか、
ひっそりとした峠です。
峠の大きさに比べ大き過ぎる道標が気にはなりますが・・・。


三日月峠

雛鶴峠から日向舟を過ぎる頃から降り積った雪が増えてきた。
場所によっては、四本爪アイゼンの必要性を
感じさせる急登も出現するが、そんな周到な用意はなく、
靴もいつもの如く峠歩きの時はローカットのため
雪の侵入を防ぎようもない。

それでも雪の山道を辿ると、
落葉松の生える明るいサンショ平。
沈み始めた太陽に照らされた雪原の松林もいいものだ。

棚ノ入山に着く辺りから南方に
朝日山・赤鞍ヶ岳の巨体が迫ってくる。
これら巨体の向うに道志の村があると思うと、
道志村とはなんと山奥の彼方なのか。

棚ノ入山から二十六夜山に至る鞍部が三日月峠。
「三日月」は「三明」の誤記ともいうが定かではない。
月待ちの行事、二十六夜に因んで「三日月」としたほうが風流か。


秋山二十六夜山 山頂

三日月峠から二十六夜山への道は
軽い爪先上がりでわずかな距離。

山頂近くには明治期の「廿六夜」の石碑があり、
つい最近まで月待ちの行事が行われていたことを窺わせる。

同名の二十六夜山は都留市にもあるため、
便宜上「秋山二十六夜山」と呼ばれるが、
地元では「高ガネ山」と呼んでいるらしい。

それにしても、「月待ち」とはなんと洒落た行事だろうか。
この日ばかりは、炭焼の火を落とし、料理の詰まった重箱と酒を運び上げて、
寝ずの宴が繰り広げられたのだろうか。

この峠に立つと、息せき切って駈け上がってくる村人の姿が目に浮かぶ。
ここは信仰の場であり、親睦の場であり、なにより出会いの場であったのではないか。
月夜の光に照らされて、近郷の村々の男と女の出会いも幾度となくあったのではなかろうか。
日々の農作業・山仕事から今宵ばかりは開放されて、ハレの場となったのではないか。
テレビもなく、ネオンもなく、夜の闇が畏れられていた往時、
天空から降りそそぐ神秘的な月の光・星の瞬きが、人々の心を癒しもし、高揚させもしたことだろう。

明星平・三日月山などの名が残る山域を後に、雪から落葉の積もった道に変った山道を
浜沢の集落めがけて、木の枝をピッケルにして落ち葉のグリセードで転げ降りた。
車道に辿り着いたときには辺りはすっかり闇に包まれており、
時たま走り過ぎる車のヘッドライトが眩しかった。

●後日、楢山峠・イヤゲ峠・雛鶴峠を訪れた時のレポを見る。