海の見える峠・沼津アルプスの峠

八重坂峠・横山峠・志下坂峠・馬込峠・志下峠・多比峠・多比口峠・山口峠

 春を一足先に感じようと温暖な伊豆の峠を訪れました。
場所は「五山七峠」からなる沼津アルプス、どんな峠たちが待っているのでしょうか。

丹那トンネルを抜け函南駅に列車が滑り込むと、前方左手に特異な山容が姿を現わします。
それが今日訪れる沼津アルプス。
300m前後の低山の連なりにアルプスとは大袈裟ですが、それなりにアップダウンもあり手応え十分です。

沼津駅舎内の観光案内所で資料を調達して、いざアルプスへ。
しかし、たまたま前を通った沼津市図書館に誘い込まれて一時間の浪費。
でも図書館の郷土資料室で『静岡県東部の峠30選』という小冊子と出会うことができました。

沼津一里塚、玉砥石、日本三大仇討のひとつ平作地蔵尊の前を通り、狩野川を黒瀬橋で渡る。
カニ料理レストラン甲羅の脇からアルプスへの山道がスタートする。


香貫山 山頂

ひと登りで慰霊塔である五重塔が建つ香陵台へ。
地元ではお花見の名所らしいが、まだまだ蕾は膨らんでいない。
振り向けば富士の姿と愛鷹連峰、遠方には雪をつけた南アルプス。

「山芋掘り 御遠慮ください」の看板があり、その理由として、
「香貫山は急峻でとても崩れやすく、掘った穴が崩れて、山崩れにつながります」と書いてあった。
山芋掘ったくらいで本当に山体が崩壊するだろうか?

歩き易いハイキングコースを進み、夫婦岩を過ぎれば香貫山。
無線施設が目障りだが、まずはアルプス五山の一つを手中に収める。
香貫山周辺はかつて山人である「タタラ衆」が暮らしていたという。
左手にゆったりした狩野川の流れ、右手に輝く海を眺め、
せっかく登った尾根道を桜台を経てどんどん下る。
こんなに下っては勿体無いと思いつつ、「登っては下る」というパターンが
沼津アルプスの特徴であると、この後知ることになる。


八重坂峠 標識


潅木に囲まれた横山 山頂

一旦、下界まで下りてゴルフ練習場の周縁を通過する。
「イノシシ出没注意」の看板があるが、それよりも飛んでくるゴルフボールに要注意。

八重坂峠は車道が越えている峠道で、拡幅工事中で峠の趣はない。
車道に下りる手前に沼津市が設置した「マウンテンバイク通行禁止」の最初で最後の看板がある。
これから先、こんな看板を見ることはない。
なぜならロープの張られた急斜面の上り下りが待っているからだ。

最初のロープの張られた急斜面を這い上がり、中弛で息を整え、再び急斜面と格闘し、
平坦地を進めばアルプスニ峰目の横山へ到着。
山頂は潅木に囲まれ眺望は無く、どこか近所の裏山といった感じ。

「登ったら下りる」 これ常道。
今度は急降下で横山峠へ。


石塔のある横山峠


横山峠は小さな切通し状

横山峠は沼津アルプスでピカイチの峠!
最優秀峠賞を与えたい。

かわいい切通し状で、爽やかな風が吹き抜ける。
路傍にはニ基の石塔があるが、何が標されているやら・・・
でも古いものらしく峠の歴史を感じさせる。

横山峠は下香貫と上徳倉を結ぶ。
峠の下にはトンネルが穿たれ車道が抜けているが、峠は静寂。
峠を挟んでニ、三ある学校から子供達の声が聞こえてくるだけ。
昼休みで校庭を遊びまわっているようだが、
始業のチャイムと同時に潮が引くかのように静かになっていった。

鎖を登った所にもう一つ峠状の道があり、それを過ぎれば
沼津アルプスのお約束、急登が始まる。
「下りたら登る」 これ掟。


徳倉山手前の石祠


展望良好!
芝生で気持ち良い徳倉山 山頂

長い鎖を登って徳倉山へ向かう。
勾配は苦ではないが路面が滑って歩きにくい。
このコース、雨後のウェット時は要注意。
注連縄が張られ、ミカンと清酒が供えられた石祠を過ぎればもう山頂は近い。

徳倉山の展望は良好。
沼津の市街が一望され、駿河湾の海岸線のカーブも美しい。
南アルプスの雪を纏った屏風のような姿も見応えがある。
振り返れば、これから向かう鷲頭山・大平山の山並みが格好いい。
と同時に、あそこまで歩くのか・・・さすがアルプス、なめてはいけない。
なるほど「アルプス」もあながち大袈裟ではないと思えたりする。

芝生が気持ち良いので、三角点に腰掛けミカン一個と煎餅一枚でエネルギー補給。
ちなみに、このミカンは石祠のお供え物ではない。

「頂きを踏んだら急降下する」 これ鉄則。


海の見える志下坂峠


道標の陰に石祠あり
潮風と水仙の香り漂う志下坂峠

「象の首」と呼ばれる鞍部で香貫台への道を分け、「千金岩」と称する岩混じりの道を下る。
沼津御用邸の緑、駿河湾の海の輝きが印象的。

ぐっと海岸線が近づいてくる。
港に出入りする船や、養殖生簀、入り組んだ名も知らぬ岬。
海辺の町にやって来たのだという実感。

この輝く海に、ほど近い明るい峠が潮風運ぶ志下坂峠。
峠は志下と大平、大井を結ぶ。
峠には水仙に彩られた一基の石祠があり旅人の安全を見守っている。


カヤトの気持ち良い尾根と鷲頭山


志下山から駿河湾の輝き

しばらくはカヤトの平坦地を行く。
眼前の鷲頭山が大きく見え、とても392mの低山には見えない。

志下山はアルプス五山に含まれないようだが、ここからの駿河湾の眺めも素晴らしい。
志下山(峠?)には麓の老人ホーム遊亀園のお年寄りが作った
沼津アルプス名物の幸運を呼ぶマスコット人形があると聞いて期待してきたのだが、
残念ながら見当たらなかった。


馬込峠


志下峠 (別名:ボタモチ峠)

アルプスの尾根道に東から合流する道が馬込峠。
峠道を下れば、大平、御前帰への道となる。
標識には「猪の水場あり」の注意書きがある。
住宅が山裾に迫っているように見える割には、まだ濃い自然が所々に残っているようだ。

鷲頭山の急登が始まる直前の鞍部が志下峠、別名をボタモチ峠という。
海岸部志下側の道は少々荒れ気味のようだ。

小豆餡をまぶした具合がよく似ているボタモチ岩がある。
ボタモチを見たら小腹が空いたので、岩に腰掛けクリームパンをパクつく。

近くには中将岩という岩もあり、源平の戦いで敗れた三位中将平重衡(清盛の五男)に
まつわる伝説が残っている。


小鷲頭山
海岸線が美しい


鷲頭山 山頂
笹の緑、青い空、海の輝き

ロープの張り巡らされた急斜面を喘いで登り、小鷲頭山を経て鷲頭山本峰へ。
これでアルプス五山中四山をゲット。
空の青、海の青に慣らされた目には足もとの笹の緑が新鮮。

雑記帳に記帳して、鷲頭神社の祠に手を合わせる。
はるか背後に望まれる箱根の山々は、うっすらと雪化粧、春は、まだまだ訪れない。


山頂の鷲頭神社


多比峠

鷲頭神社は東山麓の大平集落の守り神のようだ。
集落に広がる水田地帯は鷲頭山の湧き水に依るところが多く山に神を御祀りしているらしい。
また、狩野川の氾濫を鎮める役も担っているようだ。
山頂を踏んだ後は、再びの下り道。

鷲頭山からの下りが一段落して、大平から合流する道がある地点が多比峠。
峠らしくはなく、やや暗い雰囲気。
ここから多比口峠までは岩尾根にしがみついたウバメカシの樹林帯の道。
いかにも温暖な海辺の山道といった感じ。
三浦半島にもこんな道があったなぁ〜と、樹相の変化にワクワクして進む。


多比口峠

辿り着いた多比口峠は海岸部多比と内陸部大平、多比口を結ぶ。
海岸側の多比への道はやや急に見える。
峠の標識に「ヒラキ、活作りをおみやげに」とある、お土産の心配までしてくれる標識も珍しい。
いかにも海辺の峠といった情緒アリ。

ここからヒノキの植林帯の緩やかな道を登れば大平山。


大平山 山頂
奥の標識が「奥アルプス」案内板


山口峠?の道標

大平山の山頂にはアベックが一組とその飼い犬が一匹。
いいムードのご主人様のもとへ邪魔者が来たと判断したのか、
その忠犬ワン公の手荒い歓迎を受ける。

大平山に至り、ここに沼津アルプス五山七峠を完歩することができた。
所要時間三時間半なので、昼からのお気軽峠行に打って付けである。

さぁ、多比口峠まで戻り海岸側へ下って、
新鮮な海の幸を肴にビールでも一杯と思っていたが、
「奥アルプス」なる案内板があり、その中に「山口峠」という峠名を発見。
未知の峠につられて、大平山から奥に伸びる「奥アルプス」の山道に吸い込まれた。

沼津アルプスの法則は奥アルプスでも有効で、
「登ったら下る」は大平山でも徹底されていて、ロープの張られた滑りやすい急斜面を下る。

山口峠らしき地点で、俄かに曇りだし、ポツポツと雨が落ちてくる。
まるで夏の夕立のよう。
まだ先に奥アルプスの尾根道は続くが、ここで断念し、山口峠を下り山口集落へ。
下り始めたら雨は止んでしまった。


山口集落への道すがら
導かれた神秘的な山ノ神の祠

山口への道は苔むした岩が転がる陰湿な植林帯。
夏場ならマムシが出ること間違いなし。
でも、なにかしら空気が違う。静寂に支配され、独特の気が感じられる。

突如、大岩の陰に、大木に挟まれた山ノ神の祠が出現。
苔むした階段といい、周囲の場の雰囲気といい、圧倒的かつ神秘的である。
どうやら突然の天候の急変は、ここへ導くために仕組まれたような気がする。
どういう謂れのある神様かわからないが、何者かに招かれたようなので手を合わせ挨拶をした。

山道を下り堰堤に出れば里道と合流する。
里道から、もう一本派生する山道があり、「金山峠へ」の表示があった。
山口峠とは別に金山峠という峠もあるらしい。
名前から察するに、山人タタラ衆と関連がありそうだ。
そうすると先の祠も山人の信仰の対象であったのかもしれない。

海の見える気持ち良い峠行であったが、妙に山を意識させられる峠行でもあった。
伊豆という地は海に囲まれてこそいるが、山の国だと思う。

伊豆の山中奥深くに、なにか強く感じるものがある。
それが、ここ数十年来、伊豆に近づくことがなかった理由かもしれない。
今後、伊豆山中に足を踏み入れてよいものか悩むところだ。

◆沼津アルプスについては沼津市役所商工観光課の「沼津アルプス」のホームページが参考になります。(詳細地図もあり)

◆沼津市図書館は綺麗で蔵書も豊富です。郷土資料室にある『静岡県東部の峠30選』は峠マニア必見。
                                     (静岡県東部行政センターのホームページで閲覧可能です)