● 佐野峠を行く 実地峠行編 PartW ●

再チャレンジの峠 / 阿寺沢右岸道・西原峠・小佐野峠・坪山東尾根


阿寺沢沿いに祀られた山の神の祠

 

人間は過ちを犯すもので、またその過ちを懲りずに繰り返すという愚かな一面をも持っています。
前回の阿寺沢右岸道の探索では、最後まで沢を詰めず、途中で尾根へ逃げてしまうという過ちを犯しました。
そして今回も、クライマックスの一歩手前でなんとしたことか尾根筋へと脱出してしまったのです。

踏み跡不明瞭な暗い沢筋、細まる谷の閉塞感、谷筋の日が陰るのは早く、その心細さ、その肌寒さ、
夕暮れまでに尾根に達しなければならないという焦燥感、そんなこんなが渾然一体となって
意志薄弱な峠道探索者を尾根筋へと逃亡させたのです。

中途半端に終わった前回の探索を、今回は完遂させるために臨んだのですが、
学習能力が欠如している愚かな探訪者は、前回と同様に歩行開始を昼過ぎからとする遅き出発。
またもや、今回も日没との競争です。
峠道の探索を再チャレンジするといっても、
セーフティーネットもなにもない無計画な峠探訪に我ながら呆れてしまいます。

【西原峠東方阿寺沢右岸歩道概略図】

大雑把なルート図です。これを信じた結果、事故が起きようと道に迷おうと一切責任は負いません。
万一、途中で尾根に脱出する場合は、坪山側の尾根ではなく、小寺山・大寺山方向の尾根へ逃げましょう。
坪山側は崖・岩場があり、かつ熊の棲息密度が高いので避けたほうが無難でしょう。


地形図 「猪丸」領分
阿寺沢右岸道入口から本流下降地点まで

阿寺沢道前半部は特に難しい場所も無く、ほぼ水平に感じる右岸の道を行く。
スギ・ヒノキの暗い植林地内の道がメイン、沢筋を越えるときにザレの通過が数ヵ所あるので注意されたし。
・743の支尾根(仮称:一升瓶乗越し)を乗り越すことが肝要で支沢に引き込まれてはいけない。
連続する丸太桟道箇所は積雪時や雨後はスリップに要注意。不安定な桟道もあるので完全には信用しないこと。
進行右手、本流のナメが見え始めると本流への降下ポイントが近い。
しかし、ナメの見える植林地内の道は細く、崩れ易く、谷側斜面は急なので清流に見とれ過ぎてはいけない。


地形図 「七保」領分
阿寺沢本流下降地点から西原峠まで

土に埋まりかけたワイヤーのある小尾根の張り出し(仮称:ワイヤー台地)を通過してから本流へと降下する。
立ち木に巻かれたマーキングなどを目にするが、コース全体ではほとんど目印の類は無い。
右岸の道が消滅しても、左岸に明瞭な仕事道が隠れているので、あきらめずに粘って探索することが肝要。
道の発見に至らない場合でも、最悪、本流水線を濡れることを厭わず拾い続けるという手段もある。

左岸の巻き道上に山の神を祀る木製の小社が突如現われるのは感動的ですらある。
小社のある巻き道を下り、一旦右岸へ渡り(渡渉点に赤テープあり)、しばらくで左手は滝、右手はゴルジュ状
の分岐となる。右手を選択し、丸太橋の残骸(?)で再び左岸に渡り、数度のジグザグで高度を上げ
ゴルジュ状地帯を高巻く、そして獣道のような危うい斜面の踏み跡にて本流に降り、再び右岸へと渡る。

次に現われる分岐で左右どちらを選択するか迷うが、
この中州(仮称:マーキング台地分岐)の立ち木2本に巻かれた白テープの目印を信じて、右手の沢を選択。
(この辺りの記憶が曖昧、地形図では細かい地形まで拾いきれない)
本流は一段と細くなり、倒木の被った暗い沢沿いの踏み跡を拾う。
数ヵ所の炭焼き釜の跡らしき古い石積みを見る。また沢の中に転がっているドラム缶を見る。

再び現われる二者択一の分岐(仮称:一升瓶分岐)で大いに迷う。
右手の沢の暗さには我慢ならず、左手のナメ滝状の水流は本流とは思えない心細さ。
そこで中央の丸みのある張り出し植林尾根をヤブ漕ぎ覚悟で直登を試みる。
もう峠の鞍部は近いので、尾根に取り付き進路・方角を修正しながら進む。

取り付いた尾根には、たいしてヤブは無く、仕事道らしき踏み跡のジグザグで、順調に高度を上げる。
途中、ヌタ場などを見て、稜線上の林道へと無事飛び出す。
峠との誤差約250mなり、前回よりはかなりマシ!

やはり一升瓶分岐では右手の暗い沢を行き、その後にあるであろう分岐で左を選択し、
地形図にあるジグザグ道の痕跡を拾い、斜面にくらいついていればジャストで峠に出ていただろうと推測される。
・・・わずかばかり早過ぎた尾根取り付きが悔やまれる。


最初に視界が開ける場所
・629支尾根伐採地から坪山東尾根の展望


やや広めの支沢に下降し
対岸の・743支尾根(一升瓶乗越し)を乗り越える

一週間前の屈辱的敗退の傷も癒えぬまま、二度目の挑戦。
果たしてリベンジなるか、それとも傷は一層深まるのか。
前回、日没に追い立てられた苦い経験から早立ちせねばと思いつつも、
今回も阿寺沢出発は正午過ぎ、まったくもって学習能力が欠如しています。

勝手知ったる右岸道前半部は足早に通過し、先を急ぎます。
今回は逐一、地形図で現在位置を確認しながら進むことを心掛けます。
周囲が伐木され坪山東尾根を望む切開地は地形図・629地点。
流れのある支沢を渡り一升瓶の散乱する尾根を越える「一升瓶乗越し」は地形図・743地点。
この支沢を誤って溯上してしまうと岩崖から落ちる滝に行き詰まってしまうので注意。


道の滑り落ちた箇所には丸太桟道が架かる


本流はナメ状を呈し、小滝小釜を配する

丸太を組んだ連続する桟道を緊張しながら通過し、沢音が近付いてくると、
植林の合間からは小滝と小釜を配した本流のナメが見えてきます。
ここらでハンガーノックする前にカレーパンを食べエネルギーを補給し、核心部の探索へ備えます。

地形図「猪丸」と地形図「七保」との境目辺りがちょうど本流への下降点となります。
土に埋まりかけたワイヤーのある張り出し尾根「仮称:ワイヤー台地」を通過し、本流へ下降します。
谷の狭まった本流沿い右岸に道の痕跡を拾います。
前回、沢筋から小寺山北東尾根に逃げ出した地点を横目に、そのまま本流を溯上し続け、
きっとあるはずの旧道の痕跡を探し求めます。


ワイヤー台地を回り込む本流部


右岸の道が消え、左岸に仕事道が現る
「阿寺沢第3造林区」の看板がある

右岸から消えた道筋は左岸へと移り、「阿寺沢第3造林区」の看板前から明瞭な仕事道が
植林地の中へと続いているのです。
前回よくよく探しもせずに尾根に逃げ去ったことを反省です。

道は巻き気味に本流からある程度の高さを保ちつつ上流へ向けて続いています。
前回は、右岸にだけ道があるとの思い込みから、左岸への関心が散漫になっていたのでしょう。


突如目の前に姿をあらわす「山の神」の木製の社


細くなった本流を右岸に戻る
立ち木に古い赤テープあり

本流を仕事道から見下ろしつつ先へと進むと、突如現われる木製の小社に驚かされます。
これが『西原の山・川・地名・旧跡』にも記されている「山の神」を祀る祠のようです。
こんなさびしい奥山に人のニオイを得てホッとします。

かつて阿寺沢中流域には下駄の材料となる「カルメ」などの木を水力を利用して製材する
製板工場があったそうですし、かなり奥地にまで桑畑などもあったようです。
今の道の有り様からして想像は出来ません。


左手に懸崖から落ちる滝、右手にゴルジュ状本流


丸太橋の残骸(?)で左岸へ渡り、
ジグザグで高度を上げゴルジュ状本流を高巻く

山の神の前を通過し、しばらく歩きやすい道を進むと道は再び本流へと降下します。
狭い流れの本流を飛び石で渡ると右岸の立ち木には古ぼけた赤テープがあり、
ここが確かに徒渉ポイントであることがわかります。
以前はもしかしたらこの場所に丸木橋があったのかもしれません。

右岸の踏み跡を拾って行くと、前方左支沢からは滝が落ち、本流右岸沿いからは道が消えます。
道が消失したら左岸を探せとの鉄則はここでも有効で、岩に引っ掛かった丸太橋と思える残骸の
ある地点で左岸へ渡ると、微かな踏み跡があり、植林斜面に付けられた数度のジグザグを繰り返すと
踏み跡は明らかな仕事道に姿を変え、本流を眼下に、巻き気味に上流へと続くのです。
ゴルジュ状の本流を避けるように付けられた左岸の道もしばらくの歩行で終わりを迎え、
斜面に刻まれた獣道のような踏み跡を頼りに再び本流へと下降し、右岸植林地内の道へと導かれます。


急な斜面を下り再び右岸へ渡る


立ち木2本に白テープの巻かれたマーキング台地分岐
右手の沢を選択する

暗い植林地内を進むと分岐する沢の中州へと達し、左右どちらを進むべきかの選択を強いられます。
地形図に見る最後の沢分岐にしては早いような気がしますが水流はほぼ同量で迷うところです。
この中州の右手の立ち木2本に白テープが巻かれていたので右の沢を選択し、
いっそう細まり、そして頼り無くなってゆく本流と思われる沢筋に微かな痕跡を拾い溯上を続けます。


沢は一層細くなり暗くなる
倒木が沢に被り、ドラム缶が転がっている


一升瓶が散乱する分岐

途中幾つかの炭焼き釜の古い石積みを見たり、沢に転がったドラム缶を見ながら進むと、
次の二股に至ります。 左はやや傾斜のあるナメ状の沢、右は暗い植林地内の細い沢。
分岐点の立ち木の根元には一升瓶が散乱しています。

左は支沢と判断し、右の沢を選択しかけますが、そろそろ地形図に見る最終分岐であっても
いいはずと決断が鈍ります。 加えて右沢の暗い雰囲気は進入を躊躇させます。
ここでまた前回同様に臆病風に吹かれて、分岐点に張り出した丸みを帯びた尾根に
逃げ道を求めてしまったのです。 ちょっとの弱気が沢筋からの逃亡を招いてしまったのです。
今となっては再度の過ちに後悔しきりです。


水の湧くヌタ場


林道に飛び出す

取り付いた張り出し尾根は植林の中にまばらに自然林が混ざるという態様で、
ヤブ・潅木もさほど苦にはなりません。
明らかに人が歩いたという仕事道らしき踏み跡もあり、ジグザグで高度を上げていきます。

踏み跡、獣道が錯綜しますが、峠の鞍部の位置と距離は体感することができ、
軌道を修正しながら進むべき方向を見出すことが可能です。
途中、水の湧くヌタ場などを見て、息のあがる斜面をひともがきすれば林道へと飛び出します。
(この辺にヌタ場のあることは『西原の山・川・地名・旧跡』にも記されています)


今回も夕日を受ける西原峠
ああ〜、日が沈む


峠の標識の向こうに見える松林辺りに
正規の下降点らしき踏み跡が確認出来たが・・・

飛び出した場所は西原峠からは約250mほど小寺山側に行った林道上で、
前回飛び出した場所よりは、峠に近く、かなりマシです。
それでも正規の旧峠道を完全に辿れなかったことは心残りではあります。

峠から正規の道と思われる西原側への下降点は、数本生える松林の脇にあるようで、
微かな踏み跡を認めることができました。
そこ以外はトゲトゲ植物などの潅木が繁茂し、突破することは困難に思われますから
ほぼそこで間違いないでしょう。
かといって、下降して確認する元気も無く、峠道の探索もこれにて終了です。


西原峠


林道から坪山への新設された分岐標識

一週間前に訪れたときと同様に、すでに西原峠は夕日を浴びています。
遅い時間に入山した結果、前回と同じく日没との競争がこれから始まるのです。
今回の下山ルートは坪山東尾根。
これを辿れば車を停めた阿寺沢入口に直接下降することが出来ます。
たしか坪山直下の尾根には固定ロープの張られた急斜面があったと記憶しています。
日没後の歩行は危険なので先を急ぎます。


何度訪れても好印象の小佐野峠


今回は前回よりも明るい時間に到着

小佐野峠到着時間は前回に比べて若干早いようで、明るさがまだ残っています。
ここでウエストバックからジャムパンを取り出し、坪山までのアップダウンに備えエネルギーを補給します。

それにしてもこの静かな十字路、小佐野峠はなんとも良い雰囲気で、飯尾へ下る自然林の道には
うっすらとガスが漂っていて、ついつい引き込まれそうになります。
倒木に腰を下ろし、コーヒーでも沸かして、のんびりしたい気持ですが、
夕闇とその寒さが駆け足で迫りつつありますので長居はできません。


1170m圏を北側から巻く道
前回下った飯尾への旧峠道


1170m圏山頂
労力の割には展望は期待できない、山名標識も無い

小佐野峠から1170m圏峰の北側を回り込み、「杖ん地蔵」を経て飯尾へ下る道は
前回暗闇の中、下降した道ですので、今回は1170m圏山頂を踏んで坪山を目指します。
「杖ん地蔵」に再会したい気持もありますが、歩いたことのない道もまた魅力的です。

自然林の中の緩やかな爪先上がりの道を拾うことしばしで、その山頂に至りましたが、
山頂には山名標識もなければ、たいした展望もありません。
葉を落とした木々間から鶴峠方向の山並みがわずかばかり見える程度で、
期待した阿寺沢の谷は松林に隠され全貌を臨むことはできません。

1170m圏峰山頂からは勿体無いくらい一気に下降をし、そして再び登りをむかえます。
この小さなダウンとアップが旧峠道探索で疲れた体には少々応えます。
ジャムパン程度のエネルギー補給では体力の回復ははかれず、
日が翳るに従って精神的なパワーも低下します。

振り向けば西原峠の凹とした鞍部に赤々とした太陽が今まさに沈もうとしています。
歩いたことのない道の魅力に負けましたが、この坪山までの尾根道はあまり歩く価値の無い道です。
素直に1170m圏峰の北側を回り込む道を辿れば良かったと嘆きの言葉が口をついて出ます。
「杖ん地蔵」からの巻き道を合わせて、岩混じりの急登をひと登りすれば夕闇迫る坪山山頂です。


坪山山頂


山頂から見る夕闇迫る坪山東尾根

ヒカゲツツジの季節でもなし、まして吐く息の白い寒々とした夕暮れの山頂に人影は無く、
さびしさと心細さが募る一方です、これからの先行きが不安になるばかりです。
山頂から望む山麓のチラチラとした家明かりが無性に人恋しい気分にさせるのです。
しかし、俺は何をやっているんだろうと呆れている暇はありません。

完全に日が暮れる前に、固定ロープの張られた急降下箇所は無事に通過し、
白樺のある尾根でヘッドランプを装着し、100円ショップで購入したペンライトを片手に握ります。
またもや闇夜の山歩きとなってしまい、心細い山中を歩く羽目に・・・・
試しに手持ちのランプを消してみると、周囲は漆黒の闇、闇、闇、闇・・・・
こんな小さな照明器具に、命は完全に預けられているのです!!
ランプがなければ完全に歩行不能であり、崖から落ちるか、道に迷い疲労凍死を招くかの
どちらかに違いありません。


びりゅう館・一ノ宮神社分岐


びりゅう館・阿寺沢分岐

早く県道に下りたいとは思うものの、一ノ宮神社分岐では暗闇での急下降を避けるため、
「びりゅう館」方向の道を選択し、次の阿寺沢分岐では車を停めた阿寺沢に向かう道はあきらめて、
手入れの行き届いているだろうと思われる「びりゅう館」方向を選択し、暗闇からの脱出をはかります。

夏場ならまだ明るいであろう時間に無事下山。
郷原の民家はひっそりと静まり返り、ウエストバックにぶら下げた熊除けの鈴だけが響いています。
あれほどまでに恋しかった窓からもれる団欒の明かりが、なぜか悲しい気分にさせます。

再チャレンジした旧峠道の探索でしたが、今回の探索も成功したとは言えません。
きっと入山する前から失敗だったに違いありません。
探索には周到な準備、事前計画が必要であり、日没後の歩行などあってはなりません。
といいつつも、心のどこか片隅で、闇夜の山道を歩くことの恐怖、不安、心細さというものが、
ある種の快感、愉しみに変ってゆくことを感じ出しているのです。

阿寺沢12:00・・・本流下降地点13:15・・・山の神13:55・・・マーキング台地分岐14:20・・・林道15:20・・・坪山16:20・・・阿寺沢17:50

(峠行2007.12.02)

◆「佐野峠の資料室」を見る

●実地峠行編 PartTを見る 「トイレで夢見た峠」(小佐野峠・西原峠・佐野峠・十文字峠)

●実地峠行編 PartUを見る 「新旧の峠道」(西原峠・小佐野峠・佐野峠)

●実地峠行編 PartVを見る 「敗走の峠」(阿寺沢右岸道・小寺山北東ヤブ尾根・西原峠・小佐野峠・杖ん地蔵・飯尾)