★ 大タギレから巌道峠へ

安寺沢・・・金波美峠・・・p803大船小舟・・・池之上・・・大タギレ・・・巌道峠・・・安寺沢

巌道峠旧道を歩いた時に気になった大タギレを訪ねます。
古い地形図には巌道峠から大タギレを経て神野集落とを結ぶ破線道が描かれています。
この巌道峠のサブルートとも言える径路が現在どうなっているのか探ってみます。


昭和4年測図昭和22年発行 「大室山」図幅地形図 地理調査所
巌道峠から二つの沢筋を巻き込んで大タギレに繋がる破線道がある

安寺沢の旧分校前に車を停めて身支度を開始、下流からサクサクと歩いてくる単独行の青年。
春の陽気に誘われて、清流に釣り糸を垂れる人、MTBで峠越えを目指す若いカップル、
咲き誇る春の草花に囲まれた庭の手入れをする老人の姿。
桜咲く山里はささやかな賑わいを見せています。

大タギレへどこから登るか、前々から目をつけていたのが、池之上の西尾根です。
「池之上-p803(大船小舟)-p586」と結ぶ尾根は、ムギチロを歩いたときや
阿夫利山を歩いたときに、気持ち良さそうな尾根だと注目をしていました。
取り付き点も確認済みで、金波美林道入口の橋を渡った所にそれらしき場所があるのです。


金波美林道入口


再々訪 金波美峠

こんなマイナーな尾根を誰も登るまいと思いながら足を進めると、
前方を歩く先ほどの単独行の青年が、その取り付き点から山へと吸い込まれていくのです。
「オヤ?同好の士がいるのか」と、後に続いて山道に入ると、
背後から「何処に行くのかね?」と、山際に建つ民家のオヤジさんの声が掛かります。

「ハァ、尾根を歩いて大船小舟に行こうと・・・」、ヤバイ、私有地だったかと恐る恐る返答すると、
案の定そのようで、「個人の持ち山だから入らんでくれ〜」のつれないお言葉です。
「たしかに尾根を辿ってオオフネに行けるんけっど・・・、
公道を歩いてカナハミトーゲから行ってくれんかのぉ」とのこと。

私有地なら致し方ありません、通行禁止にするにはそれなりの理由があるのでしょう。
過去に植林地を荒らされたとか、山菜を盗まれたとか、あるいは遭難騒ぎは御免だとか、
山火事を起されたら困るとか、単純に危険だからとか。
道理でこの尾根を歩いたという記録を目にしないわけです。
仕方が無いので大タギレへのアプローチは金波美峠からすることにします。
先に進入した青年も椎茸の栽培地で行止まりだったと、引き返して来たので、
二人して林道をサクサク歩いて峠へと向かうことにします。

青年といっても多分、同年代くらいのX氏は中央線沿線にお住まいということで、
ちょくちょく沿線の山々を訪れているとのこと。
マイナー尾根に踏み込んだ理由を伺うと、「金波美峠への道と間違えた(^^ゞ」とのこと。
そういえば橋の袂の登山標識が若干そっちに傾いていたっけ・・・。
単調な林道歩きになるところで話し相手を得て、
たまにはお喋りしながら歩くのも悪くないと思ったりするのです。

少しだけ残っている金波美峠旧道の土道を二人で歩いて峠に到着。
中央沿線X氏は丁寧な別れの挨拶をされ阿夫利山を目指し東の尾根へ、
大タギレを目指す鞍部フェチは西の尾根へと向かいます。


p803大船小舟


村内に設置された案内図には
「大船小舟」の名がある


「船・舟」地形と思われる窪地

金波美峠からp803へと向かう尾根道は意外にも歩かれているようで踏み跡は明瞭です。
私有地で歩くことのできなかった尾根道(踏み跡アリ)を合わせ、緩やかな起伏を登るとp803に到着。
秋山村が設置した村内案内図(県道にアル)では、p803には「大船小舟」の名が与えられています。
正確に何と読むのか、なぜ「船」と「舟」の字を使い分けているのか、疑問点はありますが、
注意された民家のオヤジさんには「オオフネコブネ」と言って通じたのだから、
大体そんな感じでムニャムニャと発音すれば良いのでしょう。

山の中に船、舟とは妙ですが、付近の地形から察するに、
船底のような窪地を表す地形語だと思われます。
まさか、「船頭多くして船山へ登った」わけではないでしょう。
尾根筋には自然林が残り、スプーンでえぐったような緩やかな窪地には植林が施されています。


池之上


大タギレへの急下降

肩掛けカバンからクリームパンを取り出してパクつきながら池之上を目指します。
「船・舟」の次は、「池」です。共に水ものですが何か関係はあるのでしょうか?
かつては山麓や山上に池でもあったのでしょうか?
近くの阿夫利山が雨乞いと関係があるので、この辺にも雨乞い池があったのかもしれません。

池之上は銃猟禁止区域の赤い看板が転がっているだけの何も無いピークです。
手製カマボコ板標識を取り付けてみましたが、部外者の入山を快く思わない里人や
人工物を嫌うマイナー尾根マニアに撤去されることは必至でしょう。


大タギレ
東側は植林地の緩斜面


大タギレ
西側は切れ落ちた崩壊斜面

池之上から笹道の切り開きの急斜面をしばし下降すれば、
本日の目的地である大タギレの小さな鞍部へと降り立つことになります。

踏み跡を隠す笹が煩わしいものの、想像していたほどの陰鬱さは無く、
まさに尾根を「ぶった切った」かのような「タギレ」の姿に、ほのかな恋愛感情の少し混じった
潔さを感じてしまうのです。


西側は沢筋崩壊で通行は厳しい


大タギレから巌道峠方面へ向かう水平歩道

大タギレの東側は緩やかな植林斜面で、
西側は山抜けしたかのような崩壊ガレ斜面を呈しています。
タギレの真ん中を貫く道跡は見出せませんが、東側の植林緩斜面はどこでも歩けそうですし、
西側のガレ斜面も下って下れないことはなさそうです。

大タギレには焚き火の跡があるのみで、登山者向けの標識の類は皆無です。
手製カマボコ板標識を取り付けてはみましたが、年に何人のハイカーがここを訪れるやら。

正面の斜面には御牧戸山へと向かう微かな踏み跡が見られます。
そして、巌道峠方向へは確かな水平歩道らしき道跡を確認することができます。


最初の沢筋を通過する所で水平道は消失するが


一旦、沢へ降下し、
グズグズ斜面を斜上すれば水平道は復活する

早速にこの水平歩道の痕跡に足を踏み入れますが、
最初の沢筋を通過する地点で、道跡はあっけなく消滅してしまいます。
この手の道筋の弱点は、やはり沢筋の通過にあるようです。
通行が絶え、道普請のされなくなった道は、度重なる大水で流され破壊されてしまいます。

止むを得ず、一旦沢に下降して道が続いているだろうと思われる地点に向けて、
対岸のグズグズ斜面を四つん這いで斜上します。
大タギレと巌道峠を結ぶ道は、ちょっと昔の地図には載っていた道ですから
そう簡単に全線が消え去るわけはありません。
予想通り、対岸を同じ高さまで登ると、道跡が再び現われるのです。


崩壊沢筋をクリアすると明瞭な道筋となる


次なる沢筋通過までしっかりとした道が続く

第1の沢筋崩壊箇所を冷静な判断でクリアすると、植林地の中に明瞭な道が見出せます。
なるほどこれは良い道だと実感でき、道志村久保〜巌道峠〜大タギレ〜秋山村神野とを結ぶ
山道に、かつては頻繁に通行があったのではと想像させます。

山中に張りめぐらされた道路網は、想像以上に発達しており、
村と村とを結ぶ物資輸送路、情報伝達路は今考える以上の精緻を極めていたのかも知れません。


大岩を削岩し付けられ道
この大岩が「ガンドウ場」の名の起こりか?


県有林造林事業看板には
「ー道場」(ガンドウバ)の字名が記されている

道は大きな岩場の張り出しを巻くような所もあり、
この大岩が「ガンドウ場」の名の起こりではないかとも思えてきます。

造林事業看板には「ー道場」の字名が記入されています。
「雁道」でも「強盗」でもなく、「ガンドウ」とは岩がゴロゴロした道、岩場を開いた道であったと
考えるのが正解なのかもしれません。


倒木や道を塞ぐ炭焼き窯の石積み跡を乗り越えて進む


第2の沢筋も崩壊
ここは沢を下降せずに崩れた危うい斜面をトラバース

道を塞ぐ倒木や炭焼き釜跡の古い石積みなどを乗り越えてさらに先へと進むと、
第2の沢筋の崩壊個所をむかえます。

この崩壊箇所の通過は少々厄介で、谷筋に滑り落ち消えてしまった道の痕跡を拾って、
崩壊斜面を慎重にトラバースしなければなりません。
滑落と落石に注意し、崩壊斜面にステップを刻み、10mほどの間、緊張を強いられます。
無事通過の御褒美に、喉を潤す冷たい清水が沢の源頭部の岩間から染み出しています。


第2の沢筋崩壊箇所をクリアすると再び明瞭な道となる


広い平坦植林地に入ると踏み跡は曖昧になる

危険な第2の沢筋崩壊箇所を通過すれば、再び道は歩きやすい明瞭な姿を回復します。
山仕事の人の手が入っているようで、枝払いの跡や間伐処理の様子が窺がえます。

地形図にも描かれた等高線の間隔の広い緩斜面に入ると、
そこは広い広い植林地帯であり、明瞭だった道跡はスウッーと姿を消してしまいます。
地面に転がった苔生した間伐材や払われた枝葉に足をとられながらも、
やや右手に進路を求めて、巌道峠へ向けて野性の感覚を研ぎ澄まして前進します。


こちらの造林看板では「ー」という文字から
「巌道場」という表記に変っている


平坦植林地を抜け雑木小尾根を乗り越えて
巌道峠へ向けて道がのびる

この辺の造林事業看板には字名として「巌道場」の名がみられます。
先ほどは「ー道場」でしたが、「巌道場」と表記が変っているのはなぜでしょうか?

広い植林帯を抜け、雑木小尾根を乗り越すと、また明瞭な道となります。
もう樹間を透かして左下には林道がチラチラと見え始め、
峠を越えるバイクのエンジン音が巌道峠が近いことを教えてくれています。
最後に植林地にまた入り、多少のヤブをくぐれば峠の肩に建つ鉄塔台地にドンピシャリで
飛び出すことになるのです。


峠の肩にある送電鉄塔に飛び出した


鉄塔台地から大室山を望む

林道が越える以前の峠はカヤトの原だったといいますが、
この鉄塔台地にはどこかしらその面影が残っているように感じられます。

道志川の谷を挟んで正面には大室山の雄姿が大きく迫ります。
佐久間東幹線の送電線は鳥井立、長尾の南麓を緩やかな撓みの
人工曲線美を見せ西方へと伸びています。
のんびりとその景観を堪能しながら、カレーパンを頬張ります。


佐久間東幹線347鉄塔へ向かう巡視路
明るい陽射しを受ける道が気になる


前回、峠から旧道を探して下降した雪の斜面は
深い草ヤブだった

鉄塔台地から見下ろす足元の斜面には、347送電鉄塔へと向かう巡視路が確認できます。
太陽の明るい光を浴びる気持ち良さそうな巡視路を歩いてみたくもなりましたが、
車を停めた安寺沢へと戻らなければなりません。


峠の切り通し上の旧峠?部分


峠の切り通し上の旧峠?部分

鉄塔台地から降りた林道切り通し上の場所が旧峠の位置でしょうか?
それらしき雰囲気は充分に漂っていますし、久保へと下る旧道らしき痕跡も見出せます。
しかし、久保側の旧道は林道によって分断されていることでしょうから探索意欲も湧きません。

前回、安寺沢側の旧道を探索したとき、峠の石碑前から下降した斜面を確認してみると、
深い草ヤブに覆われていました。
雪に隠されていたので下降できましたが、今はとても踏み込む気が起きません。


佐久間東幹線349鉄塔へ向かう巡視路入口
ここを下れば谷筋に残る旧峠道に接続する


林道から眺める安寺沢の谷
林道より旧道歩きの方が時間短縮になるか

林道を歩いて安寺沢の集落へ降りることにしますが、
峠から少し下った所に、佐久間東幹線349鉄塔へ向かう巡視路入口がありました。
これを下れば谷筋に残る旧峠道に出ることは可能です。
もしかしたらこの巡視路自体も旧峠道の一部分なのかもしれないと思われます。

今回は旧道には出ずに、
山桜咲く林道を大回りと分かっていながらもテクテクと歩いて山の春の息吹きを堪能します。
峠と大タギレを結ぶ道は確認できたので、次は大タギレと神野集落とを結ぶ道かとも
思うのですが、ゴルフ場の存在が探索熱をクールダウンさせます。
どちらにしても芽吹きを迎えてからの季節では探索は難しくなりますので、
またしばらくは、おあずけ状態が続きそうです。

 

(峠行2008.04.12)


大タギレ〜巌道峠
所々に黄色テープのマーキングをしちゃいました

大タギレと巌道峠を結ぶ道は谷筋の崩壊箇所をクリアできれば通行可能です。
第2の沢筋の崩壊斜面トラバースは、ちょっと危険なので慎重さが求められます。
沢筋以外は危険な箇所はなく、概ね道迷いの心配もありません。
峠側から行くと最初の入り口が見つけにくいかもしれません。
また平坦な植林地帯では進路に戸惑いますが、山勘の働きどころです。
ちょっとした不安を抱きながら、冒険心を遊ばせる、
短いながらもワクワクドキドキする楽しいコースなのでした。