峠本の誘惑

 

よく行く古本屋さんの店先の特価台(といっても安くはないが)を覗いていたら、
『西上州の山と峠』(525円)と『山村と峠道』(美本840円)が並べてありました。

もちろん上記二冊の本はすでに蒐集済みであり、
自宅の《峠本専用本棚》にしっかりと収められています。

にもかかわらず店頭で峠本に出会うとついつい欲しくなってしまうのはなぜでしょうか?
ことに古本であると、何か運命的な出会いを感じずにはいられません。
この機会を逃すと、もうニ度と会えないかもしれないと思ってしまう。

『西上州の山と峠』は時々古本屋さんや古書即売会で見かけることもあるが、
『山村と峠道』はなかなかお目にかかれる代物ではない。
しかも美本である。

常に金欠状態であるボクが
既に持っている峠本をたやすく購入するわけにはいかない。

が、峠本がボクに「買ってくれ!」と訴えている気もする。(妄想か?)
ただならぬ出会いを感じてしまった・・・。

ボクが購入しないと
この峠本はどんな人に買われていくのだろうか?
峠マニアがそうそう巷に溢れているとは思えないけど。

峠マニアじゃなくても、
この本を手にしたことをきっかけに峠愛好家となってくれたら
それはそれで嬉しいことだけど。

でも、このまま売れ残り、
誰の手にも取られることなく
夏の強い陽射しに焼かれて色褪せ、
雨に打たれ傷んでゆく姿を見るのは忍びない。

一日あけて再び古本屋を訪れてみると
まだ売れずに残っていた。
店先(店外)に置いてあるので本が傷まないかと心配しきりである。
ここはやっぱりボクが買おうかとも思ったが、
新規峠マニア増殖のためにももう少し我慢して様子を見てみよう。

それから三日後、再び訪れてみると
まだ売れ残っていた。
これはもうボクに「買え!」と言っているに違いない。
ボクの方もこの本がいとおしく思えてきた。
本を掴むとレジに足早に向かった。

「ありがとうございました」の古本屋のオヤジの声に、
「なんだかヤラレタかな」と思いつつも
小さな満足を得た。

こんなことは初めてではない。
まったく同じ二冊の峠の古本セットが我本棚にはいくつかある。


二冊の『山村と峠道』『峠と人生』『信州の峠』・・・

アイドルオタクの方は
同じアイドル写真集を二冊、三冊と買い求めるという。
一冊は鑑賞用に、一冊は保存用に、
あるいは一冊はプレミア投機用にと。

ボクがすでに入手している峠本にまで手を伸ばしてしまうのも
ひょっとしたら同じような動機が無意識に働いているのかもしれない。

一冊は峠歩きに携えて、
一冊は《峠本専用本棚》を飾る為に。
うまくいけば一冊は投機売買用に。

「峠ブーム」を当て込んで
一獲千金を夢見て峠本を収集しておくのもアリなのかな。

でも、よっぽどの珍本、稀少本以外に
峠本にプレミアなど付くことなどないだろうな。

いつ到来するかわからない「峠ブーム」に備えて
今日もボクは古本屋さんを彷徨うだろう。

「日本百名山ブーム」の後に、
「日本百名峠ブーム」がやって来ると思っているのだが、
いまだにその気配は感じられない。