★ ヒカゲツツジの咲く山・坪山 / 田和峠

 


ヒカゲツツジ

春四月、山は彩りを増し、美しい花々を咲かせます。
厳しい冬の寒さに耐えた木々の新芽が
いっせいに芽吹くこの季節は山全体に生命力が漲ります。

日陰人生を歩み、花咲くことの無い我身には、
眩し過ぎるくらいの命の輝きです。

日陰人生を歩き、花咲かないヒカゲ人間が
日陰を好みながらも、美しいレモン色の花を咲かせる
ヒカゲツツジを堪能しに、その名所坪山を訪れました。



田和峠を越えて一ノ宮神社へ

上野原の市街から鶴川沿いの県道をひた走り、
田和峠を越えて一ノ宮神社へ。
今日の峠は車で越えるこの田和峠だけ。

本日の最大の目的は、峠よりもヒカゲツツジを堪能することにある。

一ノ宮神社前に車を置いて飯尾に向けてしばらく車道を歩く。
それにしてもハイカーの数がスゴイ!
団体のバスまで来ている。
ヒカゲツツジ目当てに相当数の観光登山客があるようだ。
下手な観光施設を造るよりも、美しい自然の方が観光客を
誘致できるというものだ。


八ッ田向橋登山口の石仏群

坪山はこの時季だけ脚光を浴びる山なのかもしれないが、
地域経済の活性化に一役買っているようだ。

時間は午後1時半を過ぎているだけあって
これから登ろうという登山者はさすがにいないようだ。

みんな口々に「お花が綺麗だったね〜」と語り合っている。

ウン!これは期待できるぞ!
少々時期が早過ぎたかと思ったが、
聞くところによれば、ヒカゲツツジは満開だし、
イワウチワも咲いているという。


支尾根に出るまで急登が続く

鶴川を八ッ田向橋で渡り、右手に行くと石仏群がある。
拝む人の持っている厄を地蔵が背負ってくれる
「厄請地蔵」であるとの案内がある。

ヒカゲ人生を歩む僕の厄難を、
この地蔵さんに押し付けようとも考えたが、
それではあんまりな気がして厄は自分で背負うことにした。

「坪山」を示す手製の標識がポツンとあり、
ここが山道への取り付き点となる。

落ち葉に隠された薄い踏み跡を辿ると、
老大木の根元に祀られた小さな祠が突然現われる。
神棚に富士浅間社の御札が祀られている。


このボロボロの標識は・・・

しばらくは急登が続くが辛抱あるのみ。
ミツバツツジが姿を見せ、弾んだ呼吸を落ち着かせてくれる。

小尾根に乗った後も、雑木の中の薄い踏み跡の急登が続く。
テープが付けられているので迷うことはない。

御岳神社からのコースと合流すると、道は明瞭になり、
いくぶん傾斜も緩やかになるというもの。
どうやら八ッ田からの登路はマイナーコースだったようだ。

北尾根は小さいピークが連続していて、
次第に高度を上げていく。
気付かぬうちに標高がどんどん稼げるので楽といえば楽だ。

途中、左写真のボロボロになった標識があった。
これはもしかしたら熊がカジッタ痕跡ではないだろうか?
大雪山のヒグマは人間が設置した標識に、
このようなマーキングをよく行う。


東尾根の向こうに権現山の頭が見える

左手には、下降路として利用する予定の東尾根がよく見える。
自然林主体の気持ち良さそうな尾根に見える。
凹とした部分から顔を出しているのは権現山のようである。

坪山の古典的(?)文献である
『一日の山・中央線私の山旅』(横山厚夫著・実業之日本社)には、
(東尾根の)1034m峰の前後は潅木が濃く、
      鉈を持ってくるべきだったと後悔した」 という一文がある。

もしかしたら東尾根はヤブ尾根だろうかとの心配がよぎる。


ヒカゲツツジ満開の尾根道

標高が900m近くなるとヒカゲツツジの群落が目立つようになった。
ちょうど満開の時期に当ったようで、
夢幻境に足を踏み入れたようだ。

レモン色の可憐な花が咲き誇っている。
ヒカゲツツジとは言うけれど、ヒナタでもしっかりと咲いている。

「この裏切り者め!」と、
陽のあたる人生に縁の無いボクは
心の中で呟くのであった。


レモン色の花びら

林床にはイワカガミの葉も見られるが、
花はまだつけていないようだ。

イワウチワは発見できなかったが、
北尾根(現地配布のマップでは東ルート)ではなく、
一本西よりの尾根である西ルートでは咲いていたようだ。

現地配布のハイキングマップによると、
「東ルートは西ルートよりもツツジが少ない」ともある。
コース選択をしくじったかな。


天狗岩から三頭山を振り返る
山麓の郷原の里も美しい

しかし、天狗岩付近の岩混じりの尾根の雰囲気は良い。
振り返れば、三頭山が大きく聳えている。

山麓の飯尾、原、郷原の集落が小さく見える。
三頭山って、こんなに大きな図体だったのかと改めて認識。
笹尾根も立ちはだかる屏風のように続いている。

午後からの登山が幸いしてか、
すれ違った登山者は二組だけ。
いたって静かなお花見山行である。


坪山山頂

山頂はツツジやアセビの潅木が引っこ抜かれ
展望と休憩スペースが確保されている。

先ほどまで目にしていた行政の設置した
「自然の植物を大切に」というキャッチコピーの看板が
説得力の無いものに思えてきた。

お湯を沸かしている先着の単独行者が一人だけ。
彼のガスバーナーの音だけの静かな山頂だった。


山頂から鶴峠方向を望む

北に目を向けると鶴峠のへこみがよくわかる。
どう見ても鶴峠のある部分が、
山に囲繞された中にあっては地形の弱点であるといえる。

必然的に人は、あの地形の弱点である撓みを目指して
行き来することになったに違いない。

遠くには雲取山、飛竜山が望める。
足下には大羽根峠の地形もよく分かる。


山頂に松姫鉱泉の看板あり

山頂の片隅に松姫鉱泉の看板があった。
「入浴休憩1000円」とある。

汗して登頂した登山者をこんな甘い文句で誘うとは
商魂タクマシイ!と言わざるを得ない。

「猿橋駅送迎500円」ともある。
そうか!佐野峠(小菅峠)、西原峠(小佐野峠)などの峠と
上手く組み合わせると、いいコースが辿れるかもしれない・・・。


一ノ宮神社・びりゅう館分岐

ヤブ尾根かもと心配した東尾根下降路は、
実にしっかりと踏み固められた道であった。

山頂直下の急下降を過ぎれば、
アセビ主体の心地好い雑木の中の道である。
観光施設「びりゅう館」の標識が随所に設置され迷う心配もなし。
ヤブに覆われ、鉈を振るったという時代とは隔世の感がある。

北尾根にあれほどまで群生していたヒカゲツツジが、
なぜか東尾根ではあまり見られなくなるのは不思議だ。

当初は「びりゅう館」まで下る予定であったが、
地図にない「一ノ宮神社分岐」が現われたので楽をするべく
ここを下ることにした。

ヒノキ林と雑木林の境につけられた一直線に下る道で、
滑り落ちるようにして駈け下れば時間短縮になること間違いなし。
とても登路に使える道ではない。
下部は少し荒れ気味だが、再びヒカゲツツジが現われて
また来年までと、しばしの別れを告げる。

山から飛び出した所が、
ちょうど一ノ宮神社の鳥居前の橋で、停めた車の真ん前であった。

ヒカゲでも花を咲かせることが出来るヒカゲツツジを見て、
ヒカゲ人生を歩むボクは小さな希望を見いだすのでした。
自分にもいつか小さな花が咲くのではないかと。

(2005.4.17山行)

●『坪山ハイキングコースマップ』は観光施設「びりゅう館」で配布しています。
 ちなみに、「びりゅう館」の「びりゅう」とは鶴川の支流である「美流沢」からとった名前です。

●「坪山」を古い山の本で「ツボヤ山」としているものもありました。