山の神を巡る峠 / 旧土山峠・土山峠・物見峠

いつもよく通過する県道の土山峠に旧道があると知って出掛けてみることにした。
『岳人』518号の峠特集で数々の山の神に出会える峠道として紹介されていたのだ。


石造の男根像

清川村坂尻のバス停を降り、法論堂川を雑司場橋で渡ると、
坂尻の氏神である山神社がある。
その前の咲き誇る梅の老木の根元には、数体の石仏が
行儀良く鎮座している。

新しい公衆便所の脇に「みやがせみち」の石標柱があり、
坂道を左上すると、辺室山の展望のよい尾根状の山道となる。
しばらく行くと樫の大木の根元に石神仏が集合している。
ここはかつて愛川町田代と宮ヶ瀬の追分であったという。

この地点に丹沢山中では初めて見た石造りの立派な男根がある。
思わず、御利益を期待して(?)手を合わせる。


旧土山峠

歩き易い勾配の幅広の山道が続く。
この道が登山地図に載っていないのは不思議だ。
普段、車やバイクで土山峠を越える機会はよくあるが、
その傍らに、こんな良い古道があるとは知らなかった。

旧土山峠のカヤの大木の根元にも山神祠と男根石棒が
あるそうだが今回は見落してしまった。


現在の土山峠

バスの走る県道の土山峠に一旦降りて、
辺室山への登りに取り掛かる。
右手には水を湛えた宮ヶ瀬湖を見下ろせる。
ダムに沈む前に自転車で何度か訪れたことを思い出す。
ツーリングの帰り、疲れきった体で夜の七曲坂、土山峠を越えた。
あの頃、何を求めて彷徨していたのだろうか。

辺室山へ向かう山道に、大正期の山ノ神の石祠、
すぐそばに明治期の山ノ神の石祠がある。
大木の根元にそれぞれ祀られ、山仕事の安全を見守っている。
時折、湖畔を走るライダーの爆音が聞こえてくる。
今では交通安全も山神様は気にしてくれているのかもしれない。


辺室山 山頂

鹿柵沿いに階段混じりの急登を上がれば
辺室山からのびる尾根上を歩くことになる。
西側対面の名も知らぬ尾根の展望が良い。

ふとズボンを見るとダニが一匹くっついていた。
ダニの活動する暖かさになってきたようだ。

三角点からすこし離れて山頂標識がある。
辺室山頂は雑木に囲まれた静かな頂。
この時期だから、落葉していて明るいが、
夏だったら展望もなく、ダニの襲撃も本格的かもしれない。


物見峠北の山神様

辺室山から下降してキレット状の箇所に至る。
左下に林道が見え、そこから一本の山道が合流してくる。

笹のヤブっぽい道を抜けると物見峠北の山神様が、
樅の大木に守られて、ひっそりと鎮座している。


物見峠 (煤ヶ谷方向)

山神様から、わずかな下りで物見峠に辿り着く。
かつての東丹沢は幕府の官有林。
そこからの良材木の搬出路として、また盗伐の監視路として
峠はその役目を果たしてきた。
今は時たま訪れるハイカーを静かに迎えてくれる。

札掛方面に下り、一ノ沢峠を目指そうとしたが、
峠の残雪に怯んでしまい、またの機会とすることにして、
煤ヶ谷方向へ下る。


物見峠 (札掛方向)

煤ヶ谷に下る道は、しばらくの間、崩壊激しく緊張を強いられる。
残雪がアイスバーンとなり、滑落すれば帰らぬ人となる。
山神様の御加護で無事に通過するも、
積雪期は近寄らないほうが良いと思う。

かつて材木や薪炭を積んだ馬が通った道とは
とても思えないのだが・・・。

それでも、下降するにつれて、道の状態は良くなり、
なるほど往来のあった古道だとも思えてくる。

途中、三峰山への登路もあるが、登山熟練者以外は通行を
控えるようにとの注意看板がある。


物見峠から煤ヶ谷への道

明るい落葉樹林を過ぎ、杉の植林帯を抜けると、
煤ヶ谷の登山口に出る。

登山口には「ここでヒルを落とさないで」の看板がある。
また、一軒のお宅に「ヒルの忌避薬あります」の貼り紙もある。
この辺一帯は、ヒルの大生息地らしい。
山ヒルは大嫌いなので、この辺の山には、
夏には来ないことにしている。

山神様に見守られて無事に煤ヶ谷の集落に辿り着いた。
今晩あたり、男根石棒の御利益をと期待しつつ帰路についたが、
今日に至るまで効験は感じられない。