前世

 

お化けや心霊現象などは信じない、占いや予言も信じない。
熱心に信仰する宗教もない。

「前世」なんてものも信じない。
生は一度きり、死ねばそれでおしまい。
「生まれ変わり」なんてものはあるはずがない。

何度も死んだり生まれたりしたら休む間がないじゃないか!
でも、時々、「前世」なんてものがもしかしたらあるんじゃないかと思う時もある。

峠道ばかり好き好んで歩いているのは前世の影響ではないかと。

前世は峠越えの行商人だったのかもしれない。
峠で賊に襲われ命を落としたのかもしれない。

あるいは信玄の進軍を助ける山越え道の探査を命じられた斥侯部隊の一員だったのかもしれない。
峠で敵の待ち伏せに遭い、矢で射抜かれ命を落としたのかもしれない。

あるいは村の娘と駆け落ちした夜の峠越えで、
山道から足を踏み外し崖下に落ちて絶命したのかもしれない。

それとも峠を越えて夜這いに励んでいた貧村の住人だったのかもしれない。
娘の両親に見つかり逃げたものの峠で追い付かれ袋叩きにされ、村に帰るに帰れず、
峠の一本松に縄を掛け首を括ったのかもしれない。

いやいや、人間ではなく、
峠越えをする旅人の頭の上に落ちてきたヤマヒルだったのかもしれない。
草鞋に踏みつけられ殺されて、
今の世に人間として生まれ変わってきたのかもしれない。

どれもこれもひどい前世ばかりじゃないか。
やはり前世など信じないことにしよう。