ももいちごの里事件

商標法4条1項10号の周知性に関して、商品の販売数量を全く認定しないまま周知性を認定しても誤りではない、季節商品であるからその広告宣伝が8ヶ月程度途切れても周知性は喪失しないとされた事例
知財高裁平二一(行ケ)一〇三一八、ももいちごの里事件、平二二・二・一七判決
(判時二〇八八・一三八)
参照条文 商標法四条・四三条の二

事案の概要
 原告が、指定商品を「菓子、パン」とする商標「ももいちごの里」(本件商標)を出願し(平成20年2月21日)、設定登録を受けた(平成20年8月15日)ところ、異議申立人が「いちご大福」に使用する「ももいちごの里」が周知であるから、本件商標は商標法4条1項10号に該当する旨の異議申立をし、特許庁はその異議申立を認めて商標登録取消決定をなした。本件は原告がこの商標登録取消決定の取消しを求めて提起した訴訟である。

判決の要旨
「前記(1)ウ・エ認定の事実のとおり,福屋のいちご大福「ももいちごの里」は, 平成14年に発売が開始されてそれが地元徳島県の新聞で報道されて以降,平成16年1月から平成19年6月にかけて,徳島県の新聞やタウン情報誌等に掲載されたほか,全国で発売されているグルメ雑誌や旅行雑誌を含む雑誌等にもたびたび紹介され,テレビやラジオ放送でも取り上げられたものである。よって,引用商標は,遅くとも,平成19年6月ころまでに,徳島県のみならず少なくとも関西地方における取引者,需要者に,徳島県佐那河内村の特定の農家において生産されている「ももいちご」を使用した福屋のいちご大福を表示するものとして,広く認識されていたものということができ,前記(1)オ認定の事実に照らしても,その後,本件商標登録出願の時及び商標登録査定の時まで,その周知性が継続していたというべきである。」
「原告は,平成19年3月以降出願日である平成20年2月までの立証がないと主張する。しかし,まず,平成19年6月発行の月刊誌に引用商標を使用した商品が掲載された記事があることは,前記(1)ウ認定のとおりである。また,上記記事の発行日から出願日までも,約8か月の期間があるが,前記(1)イ認定のとおり,引用商標に係る福屋の「ももいちごの里」がももいちごの収穫時期にあわせて販売される季節商品であることに照らすと,一定の周知性を獲得した商品についての宣伝広告がされたことの証拠が約8か月途切れているからといって,直ちに周知性を喪失したということはできない。加えて,そもそも,宣伝広告等,周知性の立証を日々途切れることない形で行うことは容易ではないところ,前記(1)オ認定の出願日以降の引用商標の掲載状況等も併せ考慮すると,引用商標は,その後も引き続き周知性を有しているというべきである。」
「原告は,商標を付した商品の販売期間や販売数量等を認定することなく周知 性を認めたことが誤りであるとも主張する。商品の販売数量は,周知性認定の1つの要素となることは原告主張のとおりであるとしても,宣伝広告により広く知られる数量限定の商品も存在することに照らし,販売数量を認定しなかったことから直ちに周知性の判断が誤りであるということはできない。なお,使用商品の販売期間は,前記(1)イ認定のとおりである。」

解   説
 「ももいちご」は大阪中央青果市場とJA徳島市(異議申立人)が共同開発し、農家A(異議申立人)が生産する大いちごのブランド名で、Aが、「いちご」を指定商品として、「ももいちご」と「百壱五」を二段書した商標について商標登録を受けています。福屋(異議申立人)は、この「ももいいちご」をそのまま使用した大福を開発し、平成14年頃から「ももいちごの里」の商標を使用して大福の販売を開始しました。その後の平成20年に、原告が「菓子、パン」を指定商品とする「ももいちごの里」の商標登録を得たために、意義申立人が異議申立をしてこれを取り消したわけですが、判決によれば、福屋の「ももいちごの里」の広告宣伝の状況は次のとおりです。
1 出願日(平成20年2月21日)以前
(1)新聞・雑誌等への掲載
平成14年12月12日付徳島新聞、同16年1月6日付讀賣新聞、同17年2月16日付「神戸ウォーカー」(角川書店)、同18年2月15日付「関西ウォーカー」(角川書店)、同18年3月号「中国・四国じゃらん」(リクルート)、同18年3月号「月刊タウン情報とくしま」(株式会社メディコム)、同18年4月1日付徳島新聞夕刊、同19年2月15日付「月刊タウン情報CU」(株式会社メディコム)、同19年2月27日付「女性自身)(光文社)、同19年4月号「ASA」(株式会社あわわ)、同19年6月号「STORY」(光文社)に広告宣伝記事が掲載。
(2)テレビ・ラジオ放送
 ABC朝日放送のテレビ番組「おはよう朝日です」の平成17年3月25日放送及び同18年1月9日放送、関東地域を放送エリアとするFMラジオ放送「J−WAVE」(平成16年12月10日放送)及び徳島近辺を放送エリアとするFMラジオ放送「FM徳島」(平成17年2月25日放送)において広告宣伝。
2 出願日(平成20年2月21日)以降
 徳島バスホームページ(平成20年3月5日)、マップルマガジン徳島2009(平成20年5月1日発行)、「YOMIURI ON−LINE」サイトに広告宣伝、検索サイト「GOOGLE」で「ももいちごの里」を検索すると、平成20年8月5日現在で2500件余ヒットし、上位20位までがすべて福屋の「ももいちごの里」に関するもの。
 判決は、これらの事実を認定して、本件商標の出願日及び登録日の両時点において、福屋の「ももいちごの里」は商標法4条1項10号の周知性を獲得していたから、特許庁の取消決定は相当であるとしました。特許庁の取消決定は福屋の「ももいちごの里」が媒体に広告宣伝されたことを認定しているものの、その販売数量や販売額については一切認定していません。そこで原告はこの点を主張しましたが、判決は、数量限定の周知商品もあるから販売数量を認定しまいまま周知性を認定しても誤りではないと言って斥けています。周知性の認定に際しては通常は販売数量や販売高を認定しますが、福屋及びAが異議申立でそれを主張しなかったのは販売数量及び販売高ともにそれほど多くなかったからだと思います。商品が1個500円と高価であることからそれほどの数量は売れなかったと推察されます。しかし、福屋の大福である「ももいちごの里」は、大阪中央青果市場とJA徳島市が共同開発し農家Aが「ももいちご/百壱五」の商標登録を済ませた巨大いちごをそのまま使った大福であり、原告は福屋の「ももいちごの里」を見てそのまま自己の商標として登録を得たのですから、商標法4条1項10号のみならず同7号にも該当する事例です。このような事例ですから、販売数量は少なくともある程度の広告宣伝の事実が肯定されればよいとして10号該当性の判断が甘くなっているのだと思います。また、原告の「ももいちごの里」の商標出願日の直前8ヶ月間福屋の「ももいちごの里」の広告宣伝が途切れていましたが、判決は、いちごの収穫期にあわせて販売される季節商品であるから、一定の周知性を獲得した商標の広告宣伝が8ヶ月程度途切れても周知性が喪失するものではないとしました。一定程度の周知性が獲得された後に広告宣伝が8ヶ月程度途切れても周知性が喪失されないという判断は、本件のような季節商品でなくても、また10号の周知性についての判断を甘くする必要のある事案でなくても妥当な判断といえます。








シルバーヴィラ事件

全国的に知られた有料老人ホーム(東京都練馬区)の登録商標を老人介護保険施設(兵庫県)で使用したケースにおいて、商標法38条3項の使用料相当額として老人介護保険施設の売上額の0.5%が相当であるとされた事例
東京地裁平二〇(ワ)一九七七四、シルバーヴィラ事件、平二二・七・一六判決
(判時二一〇四・一一一、判タ一三四四・二〇四)
参照条文 不正競争防止法二条・三条・一九条、商標法二六条・三二条

事案の概要
 原告は、有料老人ホームの経営等を目的とする株式会社であり、昭和56年4月から東京都練馬区において「シルバーヴィラ向山」の有料老人ホームを営業している。被告は、兵庫県において「シルバーヴィラ揖保川」の名称の介護老人保健施設を平成9年4月に、「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」の名称の居宅介護支援事業所を同12年4月にそれぞれ開設し、それらを運営している(これらの被告の施設を「被告各施設」という)。その後の平成12年11月1日、原告は、標準文字で「シルバーヴィラ」と書した商標を第42類「老人の養護、宿泊施設の提供」等を指定役務として出願し、同18年1月13日に登録第4921381号商標(本件商標)として設定を受けた。そして、原告は、商標法並びに不正競争防止法に基づいて、被告に対して「シルバーヴィラ」の商標の使用の差止め等を請求した事件が本件である。
(本件商標)
登録番号  第4921381号(平成18年1月13日登録)
商  標  「シルバーヴィラ」(標準文字)
指定役務  第42類「老人の養護、宿泊施設の提供」等
出願番号  商願2000−118631(平成12年11月1日出願)

  判決の要旨
使用料相当額について
ア前記6及び7のとおり,原告登録商標を要部とする原告標章が全国的に周知であること,他方で,@原告施設の所在地は東京都練馬区であるのに対し,被告各施設の所在地は兵庫県たつの市であること,A原告施設への入所者は,東京都及びその近郊に居住していた者が多い(甲4)のに対し,被告各施設の主な利用者は,兵庫県たつの市及びその近郊に居住する者であって(乙10,21の1ないし3),また,揖保川病院に入院又は通院していた者や近隣の福祉関係機関の紹介による者が多いこと(乙33ないし35(枝番を含む。),弁論の全趣旨),Bシルバーヴィラ揖保川は,介護老人保健施設であって,要介護認定を受けていることが入所の要件である(乙8,9)のに対し,原告施設は,有料老人ホームであって,そのような入所の要件はないこと,C被告は,医療法39条に定める医療法人であって(乙1ないし5,30),「国民の健康の保持に寄与することを目的とする」(同法1条)という同法の目的に沿った活動をすることが期待され,かつ,その運営する被告各施設はいずれも介護保険法に基づく施設であって,「国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図る」(同法1条)という同法の目的に沿った施設であることが期待されているのに対し,原告は株式会社ではあるものの,原告登録商標を含む原告標章を付した原告施設は老人福祉法29条に定める有料老人ホームであって(甲116),「老人の福祉を図る」(同法1条)という同法の目的に従った活動をすることが期待されており,被告,被告各施設及び原告施設は,いずれも,営利を主目的とするものではないこと等を考慮すれば,原告登録商標の使用料相当額は,被告各施設の売上額の0.5%とするのが相当である。」

解   説
 原告は昭和56年から東京都練馬区で「シルバーヴィラ向山」の名称の老人ホームを経営しており、被告は平成9年から兵庫県で「シルバーヴィラ揖保川」の名称の介護老人保健施設及び同12年から「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」の名称の居宅介護支援事業所を運営していました。原告が本件商標を出願したのはその後の平成12年11月1日です。判決は、「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ揖保川」「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」の両標章は要部共通で類似であるとし、また介護老人保健施設及び居宅介護支援事業所で提供される役務はいずれも本件商標の指定役務である「老人の養護」と類似であるとし、そのうえで原告の「シルバーヴィラ向山」の名称が全国的に周知であると認定して、原被告の施設の所在地が離れており被告が非営利法人である医療法人であるとしても両者の営業間に混同の虞があるとしました。さらに被告による商標法及び不正競争防止法による先使用権の主張をいずれも退けています。
 本件において、原告は、老人の養護の役務を提供するにあたり営業上の施設又は活動に「シルバーヴィラ」の標章を付すること、同標章を付した施設により同役務を提供することの差止めを求めましたが、判決は前者を認め後者は認めませんでした。その理由は、営業上の施設は役務提供の場であって、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」(商標法2条3項4号)に当たらないという判断からです。したがって、営業上の施設に標章を付する行為も「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」(商標法2条3項3号)に当たるとするのではなく、商標法2条3項8号の広告的使用として「使用」としたのです。
 本件では、被告の売上額の0.5%を賠償すべき損害額としており、一般に比べてかなり低率です。その理由として、判決は、本件商標が全国的に周知である一方、両施設の場所が東京都と兵庫県というようにかけ離れていて入所者のエリアが異なること、被告施設は要介護認定を受けていることが入所要件である点で原告施設と異なること、両者ともに営利を主目的とするものではないことをあげています。老人ホーム及び介護老人保護施設の利用者には地域性があり、原告施設が被告施設にその利用者を奪われたという関係にはないと考えられますので、被告の賠償すべき額が低率であるのは当然であると思われます。


シルバーヴィラ事件

介護老人保健施設は「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」(商標法2条3項4号)に当たらないとされた事例
東京地裁平二〇(ワ)一九七七四、シルバーヴィラ事件、平二二・七・一六判決
(判時二一〇四・一一一、判タ一三四四・二〇四)
参照条文 不正競争防止法二条・三条・一九条、商標法二条・二六条・三二条

事案の概要
 原告は、有料老人ホームの経営等を目的とする株式会社であり、昭和56年4月から東京都練馬区において「シルバーヴィラ向山」の有料老人ホームを営業している。被告は、兵庫県において「シルバーヴィラ揖保川」の名称の介護老人保健施設を平成9年4月に、「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」の名称の居宅介護支援事業所を同12年4月にそれぞれ開設し、それらを運営している(これらの被告の施設を「被告各施設」という)。その後の平成12年11月1日、原告は、標準文字で「シルバーヴィラ」と書した商標を第42類「老人の養護、宿泊施設の提供」等を指定役務として出願し、同18年1月13日に登録第4921381号商標(本件商標)として設定を受けた。そして、原告は、商標法並びに不正競争防止法に基づいて、被告に対して「シルバーヴィラ」の商標の使用の差止め等を請求した事件が本件である。
(本件商標)
登録番号  第4921381号(平成18年1月13日登録)
商  標  「シルバーヴィラ」(標準文字)
指定役務  第42類「老人の養護、宿泊施設の提供」等
出願番号  商願2000−118631(平成12年11月1日出願)

  判決の要旨
「しかしながら,建物又は部屋自体は,役務を提供する場であって,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」(商標法2条4号参照)ではないことから,商標権に基づき,登録商標と同一又はこれに類似する標章を付した施設の使用自体を差し止めることはできない。また,当該標章を付した施設を使用することは,不競法2条1項1号が不正競争行為とするいずれの行為にも該当せず,また,被告各標章の使用の差止めのほかに,被告各標章を付した施設の使用の差止めを求める必要性もない。したがって,原告の請求中,標章「シルバーヴィラ」を付した施設による役務の提供の差止めを求める部分は,理由がないと認められる。」

解   説
 原告は昭和56年から東京都練馬区で「シルバーヴィラ向山」の名称の老人ホームを経営しており、被告は平成9年から兵庫県で「シルバーヴィラ揖保川」の名称の介護老人保健施設及び同12年から「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」の名称の居宅介護支援事業所を運営していました。原告が本件商標を出願したのはその後の平成12年11月1日です。判決は、「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ揖保川」「シルバーヴィラ居宅介護支援事業所」の両標章は要部共通で類似であるとし、また介護老人保健施設及び居宅介護支援事業所で提供される役務はいずれも本件商標の指定役務である「老人の養護」と類似であるとし、そのうえで原告の「シルバーヴィラ向山」の名称が全国的に周知であると認定して、原被告の施設の所在地が離れており被告が非営利法人である医療法人であるとしても両者の営業間に混同の虞があるとしました。さらに被告による商標法及び不正競争防止法による先使用権の主張をいずれも退けています。
 本件において、原告は、老人の養護の役務を提供するにあたり営業上の施設又は活動に「シルバーヴィラ」の標章を付すること、同標章を付した施設により同役務を提供することの差止めを求めましたが、判決は前者を認め後者は認めませんでした。その理由は、営業上の施設は役務提供の場であって、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」(商標法2条3項4号)に当たらないという判断からです。したがって、営業上の施設に標章を付する行為も「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」(商標法2条3項3号)に当たるとするのではなく、商標法2条3項8号の広告的使用として「使用」としたのです。
 本件では、被告の売上額の0.5%を賠償すべき損害額としており、一般に比べてかなり低率です。その理由として、判決は、本件商標が全国的に周知である一方、両施設の場所が東京都と兵庫県というようにかけ離れていて入所者のエリアが異なること、被告施設は要介護認定を受けていることが入所要件である点で原告施設と異なること、両者ともに営利を主目的とするものではないことをあげています。老人ホーム及び介護老人保護施設の利用者には地域性があり、原告施設が被告施設にその利用者を奪われたという関係にはないと考えられますので、被告の賠償すべき額が低率であるのは当然であると思われます。







"BIO"FORM事件

"Bio "Formが義歯の形態(バイオ形態)の一種であるとしても、その形態を開発したのは商標権者であり、義歯に付された"Bio"Formの表示は義歯の形態表示であるともに、商品の出所表示のための標識としても使用されているとして、"Bio "Formを商標「Bio」の使用と認めた事例。
知財高裁平二一(行ケ)一〇三八五、"BIO"FORM事件、平二二・六・二八判決
(判時二〇九一・八四)
参照条文 商標法五〇条

事案の概要
 本件は、原告が、被告の保有する商標(本件商標)に対して不使用取消審判を提起したところ、特許庁は「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決をしたので、その審決の取消を求めて出訴した事件である。

判決の要旨
ところで,商標が有する自他識別機能・出所表示機能とは,商標が付された商品・役務が特定の事業者によって製造販売提供等されたものであると需用者に認識させる機能をいうと解されるところ,ある商標が商品の形態を示すものとして採用されている場合であっても,需用者が当該形態の商品について特定の出所に係る商品であると認識するのであれば,その形態,すなわち商標が出所を表示しているということになるから,ある商標が商品名・製造者ではなく商品の形態として使用されている場合であっても,その商標が自他識別機能・出所表示機能を有しないということにはならないというべきである。 かかる見地から本件を見ると,前記認定のとおり,「バイオ形態」は被告が研究開発した人工歯の一形態であることに加え,「バイオ形態」を意味する英語である「BioForm」の「Bio」の語をタブルクォーテーションマーク("")で囲むことにより強調して表記されていることに照らすと,使用商品1及び2の各包装箱に表示された「Bio」の文字は,使用商品1及び2が人工歯の様々な形態のうち「バイオ」形態を採用していることを示すのみならず,当該商品を他の商から識別し,あるいは商品の出所を表示するための標識としても使用されていると認めるのが相当である。
したがって,被告は本件商標を商標として使用していないとの原告の主張は採用することができない。

解   説
 被告は本件商標の使用事実として次の義歯のカタログを提出しました。本件では、この「"Bio "Form」が商標の使用にあたるかが問題となりました。
  義歯には「リアル形態(realForm)」「バイオ形態(BioForm)」「ハーモニー形態」「NCベラシア形態」などがあり、原告は「"Bio"Form」は単に義歯の形態の表示であって商標の使用にはあたらないと主張しました。これに対して、判決は、「バイオ形態"Bio"Form」を開発したのは被告たる商標権者であり、「"Bio"Form」は形態表示であるとともに出所表示でもあるとしました。「"Bio"Form」が商標権者の商品以外の同業者の商品にも一般的に使用されているのであれば、それを開発したのが商標権者であるとしてももはや出所表示としては認められませんが、そういった事情にはなく商標権者の商品にしか付されていないのであれば、形態表示として広く用いられているしてもなお商標権者の商品を示す標識として機能していると言うべきであり、判決は妥当であると思います。








忠臣蔵商標事件

他人の商品を転売する者が、他人の登録商標が記載された商品袋の上に転売業者の登録商標が記載されたラベルを貼付する行為は「商標の使用」に当たるとされた事例
知財高裁平二〇(行ケ)一〇四八二、忠臣蔵商標事件、平二一・六・二五判決
(判時二〇五一・一二八、判タ一三〇九・二六七、商事法務一八八六判二五一八、審決公報一〇八・四三九)
参照条文 商標法二条・五〇条

事案の概要
原告は、指定商品を第30類「米、脱穀済み大麦、食用粉類、穀物の加工品」とする商標「忠臣蔵」(商標登録第3080538号・本件商標)を保有しており、被告は本件商標をその指定商品「米」について取消す旨の不使用取消審判を請求した。特許庁は、原告が本件商標を「米」について使用していた事実はないとして、本件商標を「米」について取消す旨の審決をした。そこで、原告が審決の取り消しを求めたのが本件である。

判決の要旨〔認容〕
 被告は、原告が本件袋へ本件ラベルを貼付することにより、一つの商品である「本件米」の包装に、いずれも指定商品を「米」とする異なる二つの商標が並列的に表示される状態となっているから、商品の出所が原告(セラの苑)であるのか、株式会社純情米いわてであるのか定かではなく、このような場合には、法二条三項一号ないし三号に規定された「行為」に該当しないと主張するが、上記一(3)及び(4)のとおり、本件袋に本件ラベルが貼付されることによって、一つの商品の包装に二つの商標が表示される結果となっていることは被告が指摘するとおりであるとしても、株式会社純情米いわてが販売した本件米の流通過程において、第三者が何らかの価値を付加するなどして再販売する場合に、当該再販売業者がその再販売する本件米に第三者の商標を付して再販業者としての出所を明らかにし、その商標に化体した信用を本件米に与えることができるのは当然ともいうべきものであって、本件米の出所を混同させるとか、誤認させるとかいった批判は当てはまらないというべきである。

解説
原告はA社が販売する「無洗米ひとめぼれ」を購入して顧客に販売していましたが、その場合にA社に顧客への配送まで委託する場合と、A社から購入した米を原告自身が顧客に配送する方法がありました。A社の米はポリエチレン製の米袋(本件袋)に入れられており、本件袋(35cm〜40cm×30cm)の表面には中央に「無洗米」と大きく書かれ、その下に「岩手県産 ひとめぼれ」の文字、A社の図形商標等が付されていました。原告が本件米を顧客に配送するに際しては、本件袋の表面に本件商標である「忠臣蔵」が書かれたラベル(本件ラベル・11cm×7cm)を貼付して、宅配便で配送していました。本件袋に比較して本件ラベルは小さいので、本件ラベルを付しても本件袋の表面に記載したA社の登録商標は判読できました。被告はこのように二つの商標が並列的に表示されるときは出所識別力が十分ではないから「使用」に当たらないと主張しましたが、判決は「使用」と認めました。当然の結論であり、その理由も妥当です。









リーバイス事件

ジーンズのバックポケットの形状からなる商標が、リーバイスの著名なバックポケットとの関係で商標法4条1項15号に該当するとされた事例
知財高裁平二〇(行ケ)一〇四四九、リーバイス事件、平二一・五・一二判決
(判時二〇五五・一三三)
参照条文 商標法四条

事案の概要
原告が保有する商標登録第4920906号商標(本件商標)に対して、被告が商標法4条1項10号、11号、15号違反の無効審判請求をした。引用商標は被告保有の商標登録第1592525号商標(引用商標1)である。特許庁は、本件商標は4条1項10号・11号には違反しないが、引用商標1は被告のバックポケットの形状として著名であり、本件商標を使用すると被告の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるから同項15号に該当するとして、本件商標を無効とする審決をした。そこで、被告が審決の取消を求めて出訴したのが本件である。

本件商標(原告)
 ・指定商品  第二五類
  「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
 ・出願日 平成一七年六月八日
 ・登録日 平成一八年一月一三日
 ・登録第四九二〇九〇六号


引用商標1(被告)
 ・指定商品
  第二〇類  「クッション、座布団、まくら、マットレス」
  第二四類  「布製身の回り品、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布」
  第二五類  「被服」


判決の要旨〔棄却〕
 以上を総合すると、本件商標をその指定商品について使用したときには、引用商標1又はYバックポケットの形状が強く連想され、本件で想定される一般消費者を含む取引者ないし需要者において普通に払われる注意力を基準とした場合、YないしYと関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信させYの商品等との混同を生じさせるおそれがあると認めるのが相当である。







ケンちゃん餃子事件

先使用権の確認請求が認められた事例
大阪地裁平一九(ワ)三〇八三、ケンちゃん餃子事件、平二一・三・二六判決
(判時二〇五〇・一四三)
参照条文 商標法三二条

事案の概要
 原告は、昭和45年11月に有限会社ケンちゃんを設立すると同時に「ケンちゃん餃子」の商品名で餃子の製造販売を開始し、ほぼ同時期に原告標章1〜4の使用を開始、その後昭和61年頃から原告標章5の使用を開始した。被告は、平成8年12月6日出願、同10年12月18日登録に係る「ケンちゃんギョーザ」商標(商標登録第4222852号・本件商標)の商標権者である。平成14年頃、被告が原告に対して原告各標章の使用に異議を述べたので、原告は大阪簡易裁判所に調停申し立て等をしたが不調に終わった。そこで、原告が、被告に対して、原告標章目録1〜5記載の態様及び別紙地域目録記載の地域において、「ぎょうざ」について先使用による商標の使用をする権利を有することの確認を求めたのが本件である。

本件商標
登録番号  第4222852号
出願日   平成8年12月6日
登録日   平成10年12月18日
更新登録日 平成20年12月24日
商品の区分 第30類
指定商品  ぎょうざ
    商標

              

            原告標章1                                            原告標章2

                             


                       原告標章3                                原告標章4

        

                      原告標章5

               

      地域目録
東京都、神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、福島県、長野県、静岡県、新潟県

判決の要旨〔認容〕
(2)本件地域における需要者の認識
ア 前記1(2)、(3)によると、原告各標章を付した原告商品の売上は、少なくとも、本件地域を中心に七億円前後というものであり、新潟工場による製造、販売も合わせると、これを相当程度上回る。
 また、前記1(4)のとおり、本件地域において、ラジオCMを放送したことも考慮すると、遅くとも、本件商標の出願(平成八年一二月六日)の際には、原告各標章は、原告商品の商品表示として、本件地域を中心に、需要者の間に広く認識されるに至ったと認めることができる。
イ 被告は、原告商品のうち、業務用商品と市販用商品との販売実績が不明であると主張する。たしかに、その内訳は必ずしも明らかではないが、上記売上高によると、相当長期にわたり、店舗等において消費者の目に触れたことが窺え、また、前記1(4)のとおり、ラジオによるCM放送などを通じ、本件地域内では、業者間だけでなく、一般消費者間でも、原告各標章が、原告商品の商品表示として広く認識されるに至ったと認定して差し支えないと考える。
ウ また、被告は、仮に、原告各標章に周知性が認められたとしても、その場所的範囲は、全国ではなく、地域を限定すべきであると主張し、特に新潟県における周知性を争っている。しかし、前記1(2)のとおり、新潟工場で製造したもののうち、新潟県内や近隣の県の小売業者に対しても販売していることが認められ、上記認定を左右するに足りる事情は窺えない。
(3)まとめ
 以上によると、少なくとも本件地域においては、本件商標の出願の際、原告各標章が、需要者の間で周知であったということができ、原告は、本件商標につき、本件地域において、先使用による商標の使用をする権利を取得したということができる。

解 説
 判決の認定した事実は、原告は製造が間に合わなくなって昭和53年11月に新潟工場を、平成5年に東京第二工場を開設したこと、売上高が平成5年をピークとして増減を繰り返しながら年間7億円以上であること、平成元年2月には新潟工場と合わせて年間7000万個の餃子を作り、国内200社の中で5番目のシェアであったこと、昭和51年頃ラジオCMを放送し、平成2年〜5年もラジオCMを放映したこと、受信地域は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、栃木県、茨城県、山梨県を完全にカバーし、さらに福島県、長野県、静岡県、新潟県の一部を含むものであったこと、平成12年にホームページを開設したことである。
 先使用権が認められると全国的にその商標を使用できるのか(大阪地判平9・12・9判タ967・237、東京高判平13・3・6)、それとも周知性の認められる範囲内において使用できるにすぎないのかの問題がありますが、本判決は地域を限定して先使用権を認めています。本判決の主文は次のようです。「原告が、別紙商標目録記載の商標に関し、別紙標章目録1ないし5記載の態様及び別紙地域目録記載の地域において、「ぎょうざ」について、先使用による商標の使用をする権利を有することを確認する。」
 最後に、これまでは先使用による商標の使用権はその周知になった態様に限定されると解されていましたが、反対説もあり(平尾・商標法〈第一次改訂版〉368頁)、本判決は、「商標法32条1項により、商標の使用権が認められる以上、その使用権の内容は、先使用時における使用態様に限定されるわけではないが、原告は・・・・原告各標章の態様の使用に限定した使用権の確認を求めており、その限度で認容することとする」として、周知になったその態様に限定されないと述べています。







ウォーカー事件

原告又はその関連会社以外の会社を商標権者とする多数の「○○+ウォーカー」の商標(指定商品「印刷物」等)が登録されている事実、原告又はその関連会社以外の会社が発行する「○○+ウォーカー」を題号とする書籍が流通している事実からすると、出版物の取引者又は需要者において、「○○+ウォーカー」の名称が原告又はその関連会社が発行する出版物に付される商標と考えることがあったとは認めがたいとして、「ガールズウォーカー」の商標が商標法4条1項15号に該当しないとされた事例
知財高裁平二〇(行ケ)一〇三六一、ウォーカー事件、平二一・四・八判決
(半タ一三一〇・二六一、審決公報一〇七・四五一)
参照条文 商標法四条

事案の概要
 被告が保有する商標登録第4539127号商標「ガールズウォーカー」(本件商標・平成12年11月22日出願、同14年1月25日登録)に対して、原告がその指定商品中の「印刷物」について登録の無効を求める審判請求をしたところ、特許庁は請求棄却の審決をしたために、原告が審決の取消を求めて出訴したのが本件である。原告の主張は、原告は、雑誌の題号として、「東京ウォーカー」「関西ウォーカー」「月刊ゲームウォーカー」「マンスリーウォーカー」「東海ウォーカー」「メンズウォーカー」「ワールドウォーカー」「九州ウォーカー」「横浜ウォーカー」「千葉ウォーカー」「神戸ウォーカー」「北海道ウォーカー」「大人のウォーカー」「ファミリーウォーカー」「シネコンウォーカー」等を使用してきたから、被告が本件商標を印刷物に使用すると原告の雑誌との間に混同が生じるとするものである。

判決の要旨〔棄却〕
一方、上記のとおり、原告は、「東京ウォーカー/Tokyo Walker」を始めとする上記の「都市名又は地域名+ウォーカー/Walker」の雑誌のほかに、平成六年一二月にゲーム情報を掲載した月刊情報誌「ゲームウォーカー/Game Walker」、平成七年六月から平成八年一〇月まで、生活情報月刊誌「マンスリーウォーカー/MONTHLY WALKER」、平成八年一一月から平成一二年九月まで男性向け隔週刊誌「メンズウォーカー/MEN’S WALKER(又はMW)」、平成九年一月から平成一一年二月まで海外旅行情報誌「ワールドウォーカー/World Walker」を発行し、これらの平均発行部数も別紙「ゲームウォーカー等平均発行部数」のとおり、一〇万部や二〇万部を超えるときもあったが、それぞれの雑誌は、情報の内容や想定された対象読者層等はそれぞれ異なるものであって、たとえ広義の意味では各種情報について記載する雑誌であるにしても、必ずしも統一的に理解されるものではなく、また、定期刊行された期間も比較的短いものもあり、原告又はその関連会社がこれらの雑誌を発行していたことをもって、本件商標の出願時である平成一二年一一月及び登録査定時である平成一三年一一月の時点において、「○○+ウォーカー/Walker」との名称一般につき、取引者又は需要者が原告又はその関連する会社が発行する雑誌等に付される商標と考える状況にあったとは認め難い。
 また、上記のとおり、原告は、「東京ウォーカー/Tokyo Walker」、「関西ウォーカー/Kansai Walker」、「メンズウォーカー/MEN’S WALKER(又はMW)」、「ゲームウォーカー/Game Walker」等の増刊号の形式やムック本又は単行本などで、また、商品の宣伝広告等を目的とする企業等との共同発行又はその依頼に基づく企画編集等として、単発的又は数回にわたる形や定期的な形で、パソコン情報誌「クリックウォーカー」、「Musical Walker」、「デジタルウォーカー/DIGITAL WALKER」、「マックウォーカー/Mac Walker」、「Uniform Walker」、「アイモードウォーカー/imode Walker」等の多数の出版物の発行をしているが、これらについては、その発行の時期、対象地域、対象読者層、情報の内容、発行回数が単発か継続的なものかということまで多種多様であって、たとえ広義の意味では各種情報について記載する刊行物等であるにしても、必ずしも統一的に理解されるものではなく、原告又はその関連会社がこれらの刊行物等を発行していたことをもって、本件商標の出願時である平成一二年一一月及び登録査定時である平成一三年一一月の時点において、「○○+ウォーカー/Walker」との名称一般につき、取引者又は需要者が原告又はその関連する会社が発行する雑誌等に付される商標と考えることがあったとは認め難い。
 〔中略〕
 以上の事実によれば、現時点においても、原告又はその関連会社以外の会社等を権利者とし、指定商品を印刷物や電子出版物等とする多数の「○○+ウォーカー(walker/Walker/WALKER)」とする商標登録が存在し、また、原告又はその関連会社以外が発行する「○○+ウォーカー(WALKER)」とする書籍等が流通しており、本件商標の出願時である平成一二年一一月及び登録査定時である平成一三年一一月の時点においても、印刷物や電子出版物の取引者又は需要者において、「○○+ウォーカー(walker/Walker/WALKER)」との名称が、原告又はその関連会社の発行する出版物等に付される商標と考えることがあったとは認め難い。