平成18年1月27日
茅沼地区旧川復元事業実施者 様
釧路川の「旧川復元」工事開始に反対し、直線化部分を利用する
蛇行再生など他の案も含め再検討を求める声明
特定非営利活動法人 トラストサルン釧路
直線化−蛇行復元など、自然をいじり回す「無駄な工事による自然破壊」を二度としないため、現状の「旧川復元」工事は検討不足であると考え開始に反対を表明します。流域視点の原則に基づき河川状況を検証し、自然河川の保全と河川改修部分での蛇行化を含む河川再生のため、他の提案・意見の収集も含めた慎重な検討を求めます。
はじめに
釧路湿原では、自然再生推進法による自然再生事業が始まっています。この中で釧路川の「旧川復元」事業が開始されようとしています。旧川復元とは25年ほど前、釧路湿原の北部を乾燥化させるため実施した釧路川の河川改修による直線化部分(標茶町の五十石から茅沼までの間)に残っている旧川部分(現状は三日月湖状態)の一部約1.3kmを再掘削・再改修した上で直線化部分の一部から残っている旧川に通水するものです。
この再生計画は、自然再生法に基づく事業として国交省北海道開発局(治水課)によって自然再生協議会に提案されました。提案には参加者から様々な意見・疑問が出されましたが「協議会で同意された」として事業開始が伝えられています。再生協議会の構成員であるトラストサルン釧路は、意見・疑問に対して納得できる回答を得ていない認識を持っており、「同意」していないことを明確にします。自然再生協議会では提案された事業の賛否や議決はなく、提案されたものに対して「意見」を述べる機関としての役割しかありません。
これまで、流域視点に基づき他の実施計画の提案も示されることに期待したものの提案がないことから、改めて釧路川の「旧川復元」について現状のままでの実施に反対の意見を表明し、慎重な検討を求めます。
「旧川復元」案に反対し、慎重な検討を求める意見理由
@ 釧路川の直線化部分の自然再生事業が、最初から「旧川復元委員会」と再生方法を特定する委員会名で開始され、河川再生の他の方法の検討が当初から排除されている。このため、他の再生方法も含めた公平な検討が行われず、旧川復元の是非を客観的に判断ができないものになっている。
A 旧川復元計画では、旧川の自然蛇行跡を、川の再生の名の下に再改修・掘削し、蛇行化させることになっており、現在残されている旧川とその周辺の多様な湿地生態系の破壊につながる事業内容といえる。
B 流域視点による再生・保全を「釧路湿原全体構想」の原則としたにもかかわらず「旧川復元」案は流域視点がほぼ無視されている。特に旧川復元案では土砂流入の抑制効果を強調しているが、土砂排出の原因行為である上流域の森林・農地造成などからの土砂の排出源対策など流域保全と一体となっていないため無駄な工事となることが危惧される。
C 旧川に通水後、直線化部分を埋め立てることが計画されている。このためには流れを変え、大量に真っ直ぐ流下してくる水から埋め立て部分を守るため川を横断する堅牢な堰のような構造物が必要になる。流域の自然破壊による保水機能の低下で、増水による大きな圧力を持つ水によって構造物を超え、埋め立て土砂を湿原中央部に大量に押し出す危険を招くことも予想される。
D 旧川復元案では流域からの土砂排出源対策がないため、今後も上流域からの土砂は「たれ流し」状態が続き、蛇行化地域の氾濫域に異常に土砂が堆積し、現在残されている良質な湿原の乾燥化を進め、旧川の改修も含め氾濫原としての多様な湿原環境を破壊する可能性も懸念される。流域対策の無い安易な蛇行化は釧路湿原の入り口に人工的な「砂防施設」を作るのと同様な効果となり、保守管理などで際限の無い公共土木事業が続く可能性がある。
E 河川改修と流域の開発行為がもたらした釧路湿原への影響について流域全体での具体的な検証と反省が不足しており、流域視点に基づく科学的な再生事業とはいえず現段階での事業開始に疑問が残る。
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【参考】 『ラムサール条約・湿地再生の原則とガイドライン』より抜粋 *事業の選択、設計、展開を行っている際には、自然の過程と存在する条件が考慮されなければならない。堅牢な構造物や広範囲にわたる掘削を必要とする手法よりは、可能な限り生態工学の原則が適用されるべきである。(原則11) *湿地再生計画策定のために受け入れることができる最小規模は、可能な限りにおいて集水域レベルとすべきである。一つの湿地を対象とした個々の比較的小さい再生事業は、集水域という視点の中で計画されている場合にのみ、価値ある物となる。 湿地再生計画の策定においては、より高い場所に位置する生息環境の価値、そしてより高い場所と湿地の生息環境との間の連続性を無視してはならない。(原則13) |
釧路川の蛇行再生に対する提案と旧川復元に反対する意見理由の補足
<旧川復元を前提とした「自然再生」・蛇行化案の基本的疑問>
復元対象の旧川に残っている蛇行は、釧路川が河川改修される以前、自然の趣くままに自然蛇行を作った時代の形・リズムの中で生まれたものです。上流域の大部分が河川改修され自然蛇行を失った現在、旧川の蛇行の形が現在の川のリズム・蛇行の形なのかという基本的疑問が生まれます。河川改修された現在の釧路川が蛇行のリズム・形において別の姿としたら旧川への復元は、不自然な蛇行化のための河川改修工事になりかねず新たな自然破壊も懸念されます。
釧路湿原では、湿原流域の河川改修が本格化したころから大量の土砂を含んだ異常な増水が頻繁に見られるようになり、釧路湿原の危機が顕著になっています。特にオソベツ川と釧路川が合流し漏斗の出口のようになっている直線化部分では、開発の進んだ上流域の水が集中することから大きな水量と負荷がかかっています。高さ3mもある土壁を乗り越えて増水・氾濫していることも目撃されています。上流域の開発の進展で現在の川の流れは直線部分に向かって集中・流下しており、その勢いに逆らい旧川に水を流しこむには簡単な施設ではすまず、堅牢な堰のような施設の設置が必要になると思われます。さらに、直線化部分を埋め立てることは水が「堰」を超え、埋め立て土砂を湿原に大量に排出する大きなリスクを背負う可能性があります。旧川復元事業はラムサール条約が指摘する「生態工学の原則」がどこに適用された自然再生事業なのか理解できません。以上の認識を基に以下の提案を行います。
(提案1)
釧路湿原集水域の河川の再生・保全は釧路川の「旧川復元」だけとはいえず、旧川復元だけを前提とした「小委員会」の設置は、流域視点とする自然再生原則に反しています。委員会名称を流域全体の河川を対象とする「河川の保全・再生小委員会」と改めることを提案します。
(提案2)
茅沼の直線化区間について旧川復元小委員会は、「旧川復元」案以外の再生手法の提案を広く積極的に募り、公平に手法を検討することを求めます。
(提案1、2の補足意見)
自然再生協議会には、釧路湿原を集水域単位で再生(全体構想)するため、分野ごとに6小委員会が設置(湿地再生、水循環、土砂流入、森林再生、旧川復元、再生普及)されています。
旧川以外の委員会は釧路湿原集水域内で発生している深刻な自然破壊の現状を分野ごとに幅広く対応する名称になっています。しかし、河川に関する分野だけが「旧川復元」という一地域の部分的な土木工事の実施を指す委員会名に特定された名称を冠し、他の再生意見を排除する不可解な委員会としてスタートしています。
釧路湿原の自然再生を流域単位で実施していくには、旧川が残っているとか無いとか大中小の河川規模に関わらず、釧路湿原集水域内で傍若無人に行われた河川環境の破壊を検証し、釧路湿原集水域内全体の河川を再生・保全することを目指す委員名を冠し進めていくことが自然再生の原則的視点と立場といえます。
この委員会だけが「旧川復元」という一部地域にしか対応できない委員会名称としていることは恣意的な自然再生と指摘せざるを得ません。自然再生の全体構想や自然再生の諸原則からすると「旧川復元小委員会」は釧路湿原集水域全体の河川を対象とした「河川の保全・再生委員会」とするのが正しい名称であり、様々な再生提案を募りその中で一つの提案として釧路川の一部地域の「旧川復元」の提案があるべきといえます。「幅広く公平な参加の機会を確保」し意見を交わす再生法の基本方針からすると、他の再生方法の意見を最初から排除している旧川復元小委員会は法に反している疑問も生まれます。
この委員会だけが釧路湿原の集水域全体の環境(河川)を対象とせず、一部分のだけを対象とした異様ともいえる委員会名となっている背景には、一級河川を管轄し工事権限を持つ国の機関、国土交通省北海道開発局の事業確保の意図が見える工事のための工事作りとして「旧川復元」工事を進める土木工事優先の姿が見えます。
釧路湿原自然再生協議会で唯一河川を再生対象としている「旧川復元小委員会」は、集水域内で自然破壊が進んでいる釧路川以外の河川を、流域視点に基づきどのように再生するのかが問われます。現状のままの委員会では、旧川の無い河川は再生対象河川として議論もできないことになりかねません。
トラストサルン釧路は、釧路湿原流域全体の河川環境を対象とするためこの委員会を「河川の保全・再生小委員会」と名称をあらため、直線化部分の再生について旧川復元以外の方法の提案も集め公平な方法で再検討することを提案します。
(提案3)
幅が広げられている釧路川の流れは直線河道内で今も蛇行運動を続け、動きを強めています。蛇行の障害を除去し、蛇行のリズムを助けるなど生態工学的視点で河川の蛇行化を助け自力再生させていくことはできないのでしょうか。川の動きにあわせ直線化部分で蛇行を作り、その後の蛇行が旧川に向かうことも含め自然に委ねていくという選択肢を具体化し検討することを提案します。
(補足意見)
川の蛇行化の手法は水制工などで古くから様々な事例があり、国内外で実施されています。現在の環境に与えるリスクや費用負担を検討するなら現在の環境を維持し、さらに良くしていく手法としてこれらの生態工学的手法・提案を集め、検討することを提案します。
自然再生法の基本方針では「工事等を行うことを前提とせず自然の復元力に委ねる方法も考慮し再生された自然が自律的に存続できるような方法も含め」十分検討することを明記しており、従来型の工事を前提とした事業を戒めています。「旧川復元」という工事を前提とした事業案は自然再生法の基本方針にも反しているといえます。
上流域の中小河川、森林等の保全を展望しながら進める直線化部分での蛇行・再生は@旧川に生まれている多様な湿原環境を破壊せず保全できるA費用が格段にかからないB大量の土砂排出のリスクが少ないC直線化部分に蛇行河川が生まれ多様な湿原環境が生まれる。などの再生効果が期待できると考えられます。
(提案4)
旧川復元によって復元化河川周辺に集中・堆積し湿原の乾燥化を招く土砂の対策をどのようにするのでしょうか。再生事業とともに、土砂排出源である森林・農地・湿地・中小河川等の生態系を再生していく方針を作り、自然再生を「流域レベルで検討し価値ある」(ラムサール条約)ものとなる釧路川の自然再生案の提案を求めます。この中で、釧路川上流域の本流や支流などの直線化部分も見直し、蛇行再生・氾濫原の拡大などの検討も求めます。
(補足意見)
自然再生は「可能な限り集水域レベルとすべき」で「集水域という視点の中で計画されている場合のみ価値あるものとなる」とする自然再生の原則的立場からするなら、今回の計画は集水域視点が認められず最初から「価値の無い」再生計画という批判には耐えられないものといえます。「先ずやってみる」「やれるところからやる」ことだとしてもこの事業は自然再生とはいえない、単なる従来型の土木工事事業に「自然再生」の衣を着せただけのものといえます。
(提案5)
河川再生などの自然再生は従来型の行政システムを改革する視点で進め、再生事業で影響を受ける産業や生活者に十分配慮するため、自然保全型の産業・生活システムを検討するグループの設置を再生協議会に提案します。
(補足意見)
多くの疑問がある中で、旧川復元工事の着工を急ぐ理由は事業官庁の従来型の公共事業確保という慣習が背景にあるといえます。直線化したり蛇行にしたり官の事業確保という都合で自然をもてあそんでいないでしょうか。自然再生は生態系というつながりを再生する事業で、自らが蘇ることを目指しています。自然破壊は二度としないという慎重な検討と対応が必要です。
自然再生事業の対象地域には、過去に湿地開発で造成された農地が自然条件(泥炭の不等沈下など)から湿地に戻り、かなりの面積で利用されず事実上放置され湿地化している地域があります。今、ここでは農地を再開発する「農地防災事業」が総事業費100億を超える税金の投入で実施されています。湿地に戻りつつあった場所を排水し再開発するという湿原の再生と相反する矛盾した事業といえます。さらに、この「防災事業」では農地から排出される土砂を下流で受け止めるという理由で「沈砂地(池)」の設置が「再生」事業だとする提案も示され、農地開発担当事業部署は右手で「開発」、左手で「再生」を利用し事業予算を確保するという税金の無駄使いとしか言いようの無い事態を進行させています。
農地防災事業など生態系に影響の大きい事業は自然再生法の枠組みの中で実施していくことを求めます。農地防災事業は一箇所で数十億円もの巨額の税金が使われます。これを見直し、「開発・再生」の予算で対象農家が受ける牧草生産の損失の補填、あるいは牧草の供給を保障する仕組み(例えば遊休農地の生態系保全型管理による活用など)、さらに農家の直接的な経営改善などに利用するなどのシステムを構築することも可能と思われます。再生協議会の英知で、生産活動と生活が自然保全と両立できる道を具体的に検討することを求めます。