競馬記者の生活(日刊紙)

 あまり知られていない競馬記者の生活を記しておこうと思う。ただし、日刊紙の場合であって、エイトや競馬ブックといった専門誌の場合は、ここで描かれるものとは少し違うので、御了承いただきたい。

 競馬記者はほぼ毎週、栗東か美浦のトレセンへ出張する。栗東はJR草津からタクシーで約20分。美浦は東京駅から高速バスに乗るか、JR土浦からタクシーに乗るかのいずれかの方法で向かう。トレセン周辺は交通の便が悪いので、自家用車で行く記者も多い。
 トレセン出張は「早入り」、「普通」、「残り」の3パターンに分かれている。「早入り+普通」、「普通+残り」、あるいは1週間ずっといる「通し」というパターンもあるが、基本的に前述の3つのいずれかだ。
 早入りは日曜夜にトレセン入りして、水曜夜に帰宅。普通は火曜夜にトレセン入りして、木曜夜に帰宅。残りは水曜夜にトレセン入りして、土曜夜に帰宅する。トレセン取材がもっとも忙しいのは追い切りが行われる水曜、木曜で、この2日間はテレビクルーなども栗東入りして、もっとも多くの報道陣が詰めかける。早入り、残りは基本的に各社1〜2人しか滞在しない。

 栗東、美浦いずれにもJRAの宿舎があり、そこに宿泊する。栗東にあるのは愛駿寮という。研修所みたいなところをイメージしてもらえればいい。畳敷きの個室、大食堂、大浴場がおおまかな設備。朝、夜と予約をしておけば食事が出る。朝はご飯、焼き魚、みそ汁、おかずなどといった和風定食。たまにパンも。夜はいろいろだが、酒を飲む記者にもメシを食う記者にも対応できるように、酒の肴みたいなものからご飯のおかずになりそうなものまで、かなりのボリュームが出る。現在のシェフは元洋食のコックさんで、揚物が抜群にうまい。たまに出るグラタンも逸品である。
 もちろん、寮でメシを食わずに、外に食べに出る記者もいる。むしろこちらの方が多いくらいだ。誰かの車に相乗りして、出掛けていく。個人的には寮メシ派だったので、あまり外メシ派の食生活は分からない。

 競馬記者の朝は早い。夏は午前5時から調教開始なので、午前4時すぎには起きる。もっとも遅い冬場でも午前7時開始で、午前6時に起きる。寮からトレセンのスタンドまでは徒歩10分くらい。広いトレセン内での取材に便利なので、自転車で向かう記者も多い。遅刻は「出遅れ」と呼ばれ、タブーとされている。栗東の場合、スタンドの3階が記者のスペース。ここに日刊紙、専門誌の記者が陣取る。2階が調教師席、1階が騎手、調教助手の休憩スペースになっている。調教開始から1時間は追い切りが多く、調教師席も立ち入り禁止(忙しいから)となっているので、記者は追い切りを見る。このとき、自分でタイムを計測できると、あとで「時計なんぼやった?」と聞かれたときに即答できるので、便利である。最初は目当ての馬を探しだすだけで手いっぱいになり、とても時計など取っているヒマはないが、1年もやっていれば慣れる。

 追い切りは前半と後半に分かれていて、前半とは調教開始から1時間、後半とはそれ以降のことを指す。それ以外にも、定時になると行われる馬場整備作業(「ハロー掛け」という。作業車がコースに入るので、この間は調教休止)を目安に言うこともあり、たとえば「2回目のハロー明けに追い切る」と言うことも多い。だいたい、どの馬がどの時間帯にどこに出てくるかというのは決まっていて、たとえばディープインパクトの場合、追い切り日は朝一番にDWというコースに出てくる。追い切り日でない場合は、後半の遅めの時間に坂路に出てくる。こういうパターンを覚えてしまえば、意外に動きをチェックするのは簡単で、取材で調教師席にいても「そろそろ追い切りが始まるな」と分かるようになる。

 追い切りをチェックすれば、調教師や騎乗した騎手、調教助手に話を聞きにいく。調教師は調教師席にいることもあれば、いないこともある。スタンドにいる人もいれば坂路のスタンドにいる人もいて、これもパターンを覚えなければならない。だれが坂路にいるのか、誰がスタンドにいるのか。追い切り中に話を聞ける人もいれば、調教がすべて終わったあとでないとしゃべらない人もいる。話しかけるタイミングも重要だ。スタンドで関係者がつかまらない場合は、厩舎へ行く。馬によっては、厩務員さんに取材した方がいい場合もある。たとえばメイショウサムソンは担当厩務員さんの話が(個人的には)一番面白いし、記事にもしやすい。大きな記事を書く場合は最低でも調教師、騎手の話がほしい。トレセンにはとにかくたくさんの関係者がいるので、なかなかすべては覚えきれない。自分は5年半ほどいたが、最後まで初めて会ったという関係者もいた。そういう人には、こちらから先に名乗って、丁寧に名前を聞く。

 取材が終わると、寮へ戻って朝メシを食う。正午すぎにはトレセンのすぐそばにあるJRAの事務所棟内にある記者室で記事を書き始めるが、それまで時間があれば寮の部屋で休憩したり、記事を書くための資料を準備したりする。午後はほとんど原稿書き。早ければ3時半ごろに終わることもあるが、そのあとも翌日の「仕込み」をしていると、すぐに夕方になる。なかなかすべての馬や騎手のことを覚えきれないので、翌日スムーズに取材できるように、前走の成績や内容を調べておくのである。木曜朝は、騎手にその週の乗り馬について取材するので、騎乗予定馬の成績や、初騎乗か否かなどをすべて調べておく。

 こういう細かい仕込みが終わるのが、だいたい午後5時半ごろ。この時間になると、もうJRAからの広報発表もないので、会社と翌日の取材予定を打ち合わせてから、帰る人は帰る。残る人は寮に戻って風呂に入るか、メシを食う。ときどき、5時の広報発表で有力馬の故障などが流れて、急きょ厩舎に取材に出掛けることもある。厩舎は午後3時くらいから、午後運動といって、馬を厩舎回りで運動させたり飼葉を準備したりしているので、5時くらいならギリギリ関係者を捕まえられる。捕まえられなかったら、電話取材を試みる。これでもつかまらなかったら、もうお手上げだ。

 メシを食い、風呂に入ったらあとは自由時間。引き続き「仕込み」をしてもいいし、仕込みが終わっていれば麻雀をしたり、酒を飲んだりしてリラックスする。部屋にこもってゲームをしたり、テレビを見る人もいる。早い人は午後9時くらいには寝てしまう。自分の場合は、だいたい11時くらいに寝ていた。

 トレセンにいる場合はこんな感じ。夏になると小倉や函館、札幌に遠征するが、泊まるところが寮からホテルに変わるくらいで、基本的な生活パターンは変わらない。地方遠征するとその地のうまいものを食いに行ったり、人によってはHなところに行ったりするのを楽しみにしている。ただ、地方遠征はトレセンに比べて1週間から3週間と長期に及ぶことが多く、ハメを外しすぎると金欠になったり、疲労でバテたりするので、ほどほどにしておくのが肝心なようだ。

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