1、はじめに
競走馬の血統は、その馬が生来、持っている性質をうかがうには重要な資料である。特にまだデビューして日が浅い馬や、デビュー前の馬の場合、その馬の距離適性やダート、芝適性を図るうえで、血統の検討は欠かせない。
ただ、競走馬の血統論は非常に奥が深く、研究者によって見解もまちまちだ。ここでは、最近の競走馬の血統を検討するうえで、必要最小限の情報を書き出そうと思う。
2、交配方法の種類
種類と言っても、インブリードかアウトブリードかの二通りしかない。
インブリードとは、父方と母方のいずれかに、同じ祖先を持つ配合方法だ。例えば、父馬の曽祖父と母馬の曽祖父が同じ馬である場合、インブリードになる。別名「クロス」という場合もある。ここではフサイチコンコルドを例に取ってみよう。フサイチコンコルドの父はカーリアンで、カーリアンの祖父はノーザンダンサー。フサイチコンコルドの母はバレークイーンで、その祖父は同じくノーザンダンサーである。フサイチコンコルド自身から数えると、それぞれ父方、母方3代前にノーザンダンサーが現れる。これを「ノーザンダンサーの3×3」という。これが3代前と4代前になると「3×4」になるわけだ。
インブリードは、言ってみれば近親相姦である。なぜインブリードを行うのか?インブリードを行うと、スピードやスタミナの面で優れた仔が生まれる可能性が高いのだ。俗に「3×4」は「奇跡の配合」と言われており、曽祖父と、曽々祖父が一緒の配合は、生まれてくる仔の能力が高くなるとされている。しかし、これはあくまでも経験則からこう言っているだけのことらしいので、信ぴょう性は疑わしい。
反面、インブリードを行うと、体質の弱い仔が生まれることが多い。フサイチコンコルドはその典型的な例だろう。近年、きついインブリードで成功した例は、フサイチコンコルドのほか、欧州三冠馬のラムタラ(ノーザンダンサーの2×4)がいる。
一方、父方にも母方にも全く同じ祖先を持たない配合を、アウトブリードという。アウトブリードの長所は、体質の強い仔が生まれること。ただし、インブリードを行ったときのように、爆発的な力を持つ馬が生まれることは少ないという。
3、主な系統の特徴
本項目が、今回の特別企画の目玉である。注意してほしいことを先に書いておく。基本的に、競走馬は父方の血統を主に受け継ぎ、母方の血統がそれを補佐する場合が多い。例えば、スピード豊かな種牡馬をスタミナ型の肌馬(母馬のこと)と配合して生まれた仔の場合、父の豊かなスピードを受け継ぎながら、母方の影響で、やや長めの距離もこなせる、というパターンだ。もちろん逆の場合もあるが、父方の影響を濃く受け継ぐことの方が多い。
また、しばしば母方の父が問題になるのは、競走馬には隔世遺伝が現れることが多く、母方の血が色濃く出た場合、母の父の影響を受けていることが多いからだ。母の父を「ブルードメアサイアー」と言い、血統をみるうえで非常に重要視する。
a、根幹種牡馬
・ノーザンダンサー
押しも押されぬ世界の主流血脈。この馬の子、孫が種牡馬として大活躍している。
60年代にアメリカ、カナダで走り、18戦14勝。ケンタッキー・ダービーやプリークネスSを勝った。スピード、スタミナのバランスに優れ、底力と成長力もある。インブリードするうえで、重要視される血脈である。産駒にニジンスキー、リファール、ノーザンテースト、ヌレイエフ、ストームバード、ダンジグ、サドラーズウェルズなどがいる。
・ミスタープロスペクター
ノーザンダンサーと並び、世界を席巻する血脈。99年に死亡。仔のフサイチペガサスがケンタッキー・ダービーを勝ったことは記憶に新しい。残された産駒は走る、というジンクスを体現した。70年代にアメリカで走ったが、大した成績は残していない。
軽快なスピードが武器で、ダートも芝もこなす。早熟な面があり、4歳のうちに完成してしまう馬が多い。スピードは豊かだが、スタミナや底力には欠け、日本のG1ではあまりあてにしないほうがいい。キングマンボはミスプロの産駒だが、その仔のエルコンドルパサーは異端児。母方の影響を強く受けていると思われる。本来は2000mくらいまでが適距離で、軽い馬場が似合う。
産駒にファピアノ、ミスワキ、ウッドマン、アフリート、ガルチ、シーキングザゴールド、ジェイドロバリーなど。書き上げたらキリがない。
・グレイソヴリン
イギリスで50年代初めに走ったが、大した活躍はしていない。
父はナスルーラ。世界の競馬界にスピード至上主義の概念を持ち込んだ希代のスピード馬で、グレイソヴリンもスプリンターだった。しかしこの系統は代を経るごとに距離をこなすようになり、子孫にはトニービンなどがいる。息の長い末脚が使えるのが特徴で、東京コース向きの系統だ。子孫にソヴリンパス(子孫にアローエクスプレス)、フォルティノ(カロ→コジーン、シービークロス→タマモクロスなど)、ゼダーン(子孫にトニービン)などがいる。
・ターントゥ
アメリカで50年代に走った。ケンタッキー・ダービーの有力馬だったが、骨折で無念の引退。底を見せないままターフを去っている。現在、日本で大活躍しているサンデーサイレンスやブライアンズタイムはこの系統だ。さまざまな系統に分かれているが、底力があって、大一番で信頼できる産駒が多い。
産駒にヘイルトゥリーズン(ロベルト→ブライアンズタイムやリアルシャダイ、ヘイロー→サンデーサイレンス)、サーゲイロード(子孫にランニングフリー、ニホンピロウイナーなど)がいる。
・ネイティヴダンサー
アメリカで22戦21勝と活躍した50年代の名馬。プリークネスS、ベルモントS、アメリカン・ダービーなどを勝った。敗れたのはケンタッキー・ダービーの二着だけ。これも逃げ馬を差し切れず、という惜しいレースだったらしい。
さまざまな性格の仔を送りだしており、傾向はノーザンダンサーに似ていなくもない。ただ、ノーザンダンサーほど素直でなく、訳の分からない系統も多い。実につかみづらい系統だが、ネイティヴダンサーのクロスは爆発力があるとの評判もある。
産駒にレイズアネイティヴ(ミスタープロスペクターの父)、エタン(仔にシャーペンアップ)、ダンシングキャップ(オグリキャップの父)など。
・リボー
イタリア、フランス、イギリスで走り、凱旋門賞を二度、制するなど、16戦16勝を記録した名馬。イタリアの名馬産家フェデリコ・テシオの最高傑作と言われている。
気性難があって成績が安定せず、レースも追い込み一辺倒の馬が多い。一方で底力とパワーがあり、ダートでの信頼性は高い。リボー系はスピードはないが、ダート向きのパワーと爆発力があると覚えておけばいい。産駒にトムロルフ(アレミロードなどの父)、グロウスターク(バンブーアトラスの祖父、ブライアンズタイムの母の父)など。
・ボールドルーラー
これもナスルーラの仔で、50年代半ばにアメリカで活躍。アメリカで8回もリーディングサイアー(種牡馬成績一位)になるなど、種牡馬としても活躍した。産駒にアメリカの三冠馬セクレタリアト、ボールドラッド、ボールドネシアン(シアトルスルーの祖父)、ラジャババなどがいる。
産駒をたどればいろんな馬がいるのだが、基本的に一本調子のスピードで、緩急のついたレースには全く向かない。つまり、今の日本競馬には向かない血統だ。パワーはあるが詰めが甘く、芝では惜敗が続くことが多い。ただ、シアトルスルーの産駒には芝で切れ味鋭い末脚を見せるものもおり、一概には言えないのが痛いところ。
・ハイペリオン
30年代にイギリスで走り、ダービーなどを勝った。
日本の一時代前には、なじみ深い系統だった。産駒にオーエンテューダー(子孫にサルノキング、セントシーザー)、ロックフェラ(チャイナロック→タケシバオーやハイセイコー)、オリオール(子孫にタイテエム)、ホーンビーム(子孫にグリーングラス)などがいる。スタミナがあり、大一番に強い系統だが、最近のスピード競馬に対応できるほどのスピードがない。スピード系血統との組み合わせが必要だろう。
・プリンスリーギフト
50年代のイギリスの二流スプリンター。ただ、日本には非常になじみ深い。
一本筋の通ったスピードがあり、底力もある。ただ、広く系統が栄えたわけではなく、テスコボーイ(トウショウボーイ、サクラユタカオーなどの父)だけが系統を広げ、テスコボーイ系を作りつつある。他の産駒にはキングストルゥープ(カツラギエースの祖父)、ファバージ、バーバー(カネミノブの父)など。
b、近年の主流血脈
・ニジンスキー系
マルゼンスキーを通じて日本でも大発展した。パワー、スピードのバランスがよく、ダートも芝もこなせる。大一番に強い系統でもある。カーリアンのように軽快なスピードを伝える産駒もいれば、ラシアンルーブルやナグルスキーのようにダートでのパワーを現す産駒もいる。近年では、日本の芝のスピード競馬についていけない系統が多くなってきており、むしろブルードメアサイアーの系統として注目される。母方に入り、底力に欠ける種牡馬には底力を、スタミナに欠ける種牡馬にはスタミナを加える。このように、能力の底上げがある。ダンスパートナーとダンスインザダークの姉弟がいい例である。
・リファール系
ニジンスキー系が男性的で骨太な系統であるのに対し、リファール系は軽快なスピードを伝える系統だ。ミスプロ系のように底力に欠けるわけでもなく、息の長い末脚を大舞台でも繰り出せる。モガミ、アルナスル、ダハール、ダンシングブレーヴ、マニラなどが主な産駒。日本で言えば、東京向きの血統だ。ダートよりも芝に向き、ある程度、坂をこなすだけのパワーもある。しかし最も威力を発揮するのは、平坦で直線の長いコース。そういうコースで息の長い末脚を使う。母方に入っても、あまりこの性向は変わらない。母父リファールの活躍馬に、バブルガムフェローやメイショウオウドウがいる。
・ノーザンテースト系
一昔前に日本を席巻した大種牡馬。G1を制した産駒は数えきれないくらいで、ちょっと挙げただけでもアンバーシャダイ(天皇賞など)、ダイナガリバー(ダービーなど)、ギャロップダイナ(天皇賞など)、ダイナカール、シャダイアイバー、アドラーブル(以上オークス)などがいる。豊かな成長力と、平坦コースで最も真価を発揮するスピード、勝負根性を備えている。しかし最近ではG1を勝ちきるほどの力はなくなってきており、最後の傑作と言われるエアデジャヴー(引退)やクリスザブレイヴは未だにG1を勝っていない。
最近ではブルードメアサイアーとして力を発揮している。ノーザンテーストが血脈に入ると、日本の競馬に対応したスピード、強い勝負根性、豊かな成長力などの特徴が産駒に現れる。堅実な差し脚を見せるのも特徴の一つで、この特徴はアンバーシャダイを通じてメジロライアン、そしてメジロブライト、メジロドーベルに引き継がれた。
・ロベルト系
スピードの有無で随分と系統に開きがあるが、系統を通じて言えることは、豊かなスタミナがあり、大一番に非常に強いということだ。普段は詰めの甘い競馬をしていても、G1になると急に強さを発揮する。G1では「道中から速い流れになり、上がりも速くなる」が、この系統はそういうレースに向いているのだ。
スタミナ偏重系にリアルシャダイ、サンシャインフォーエヴァー、スピードを兼ね備えた大一番系にブライアンズタイム、シルヴァーホーク、クリスエスなどがいる。
・ヘイロー系
現在の日本競馬の超売れっ子血脈。サンデーサイレンスがその中心。
ゆったりした流れを追走し、直線でスパッという切れ味ある末脚を繰り出すのが特徴。ハイペースで揉まれると、もろく崩れることがある。大一番でもそこそこ信頼性がある。距離適性はマイルから2400mくらいまでで、長距離やスプリントは一般に向かない。サンデーサイレンスのように、ダートは向かない種牡馬もいれば、ジョリーズヘイローやデヴィルズバックのようにダートもこなせる種牡馬もいる。デヴィルズバック産駒のタイキシャトルはスプリントからマイルまで、芝もダートもこなしたが、ああいうのは特殊。同じく、エアシャカールはマクリが得意だが、ああいう走り方は本来、ヘイロー系の走り方ではない。エアシャカールの母方にはボールドルーラー系が入っており、そちらの影響を受けたと思われる。
・ミルリーフ系
一昔前に日本で流行った。
スタミナにあふれるステイヤー系統で、大一番で強い。ヘイロー系のように緩急をつけたレース運びは苦手で、大マクリや逃げ切りなど、一定した厳しいペースを走り抜くのが得意。マグニテュードやミルジョージはその典型的な例だ。晩成型の馬が多く、忘れたころに大駆けをする系統でもある。爆発して表舞台に立つと、しばらくはその実力を維持するが、突然、スランプに陥ることもある。ただ、突然勝てなくなっても、そのままダメになるような系統ではないので、簡単に見捨ててはならない。ユーセイトップランももう一発あるはずだ。