入院日記1

 06月30日から07月09日まで、右停留睾丸を摘出するために入院した。その記録。

06月30日(入院当日)
 午前11時に入院申込書を持って病院の入院受付窓口へ。保証金1万円を払い、申込書と誓約書を提出。泌尿器科の外来で待っていると、看護士さんがやってきて案内が始まった。部屋は4階。6人の相部屋だ。まずはエレベーターホールで身長、体重を計って記録。トイレの使い方(尿をトイレに併設された処理室にあるタンクに貯めなければならない)、ナースコールの使い方や、この日にやらなければならないことの簡単なガイダンスがある。その前に昼メシ。

 ご飯、ムツ?のかす漬け、豆腐と野菜の煮物、とろろとオクラのあえ物、きゅうりとエビの酢の物。病院食はまずいと聞いていたが、そうでもない。うちの会社の社員食堂くらいのレベル。味が薄いと聞いていたが、これまたそうでもない。確かに薄味ではあるが、自分には十分な感じ。

 メシ後にいろいろなことが始まる。病院の寝具に着替えて、まずは剃毛。小さなバリカンで、陰毛と股の上半分(前面)、下腹部の毛を刈る。もっとツルツルにされるのかと思ったが、意外に毛は残っている。ヘソのゴマも取られる。もちろん、すべて看護士さんにやってもらうのだが、ここまで非日常だと恥ずかしさを通りこして何も感じない。毛剃と並行して、抗生剤のアレルギー検査。血圧、体温測定。それからシャワーを浴びる。T字帯(ふんどしの親戚みたいなもの。手術後に下半身をおおう)と紙おむつ(用途はT字帯と同じ)が必要だと聞いていて、どちらもうちの近くのドラッグストアで買っていったのだが、紙おむつはよくある市販のパンツタイプではなく、長方形のぺらっとしたもので腰を覆うタイプが必要なのだそうな。病院の売店にあるということなので、買いに行く。200円くらいだった。
 手術室担当の看護士さんが来て、手術の説明。薬剤師さんが来て、術後に飲む薬の説明。2人とも若い割には非常に手慣れていて、とても分かりやすい。

 夕方からひどい偏頭痛。午後6時すぎに母と叔母が来てくれたが、頭が痛くてロクに対応できず。夕食。

 ご飯、牛肉となすの煮物、ほうれん草のおひたし、ヒジキと枝豆の煮物、白菜のすまし。

 午後7時に看護士さんが下剤と睡眠薬を持ってくる。下剤は明朝に出すためのものだそうだが、睡眠薬で熟睡しているときに出てしまったらどうするのだろう。気になって仕方がない。ひどい偏頭痛のなか睡眠薬を飲んだので、脳みそがしっちゃかめっちゃかにかき混ぜられたような感じで、猛烈に気持ちが悪い。それでも意識を失うように寝る。

 もっとヒマかと思ったが、いろいろやることがあるし、偏頭痛でグッタリしていて、あまりヒマに感じなかった初日。同室者は隣のオッチャンを除けばおとなしそうな年配者ばかり。過ごしやすさはまずまずといったところ。

07月01日(入院2日目。手術日)
 午前5時にひどい寝汗で目を覚ます。昼間は寒いくらいにクーラーがかかっているが、夜は止まってしまってとても暑い。睡眠剤をもらったが、緊張のせいもあってあまり眠れなかった。引き続き偏頭痛がある。
 午前6時、本格的に起床。看護士さんが簡単に様子をうかがいに来る。採尿用のコップが小さすぎる。「1回分を取りきれない」と看護士さんに訴えると、同じ大きさのをもう一つ用意してくれた。デカいコップを使っている人もいて、利便性からいえばコップを大きくする方がいいと思うのだが。このあと尿のたびに一度止めて、コップを替えるという膀胱にとっては不健康な排尿をすることになる。
 下剤を飲んだが、便は出ない。手術日で絶食はもちろん、絶飲。同部屋の患者が朝メシを食っている空気に耐えきれず、待合室でテレビを見て、みんなの食事が終わったころにベッドに戻って朝寝。

 午前9時すぎに起きだしてうろうろしていると、看護士さんに浣腸をしましょうと言われる。手術中に漏れ出すと不衛生なの、必ずやらなければならないらしい。浣腸するなんて何年ぶりだろう。トイレの個室で後ろ向きにされ、なんの心構えもないうちにぶすーと浣腸される。「5分ほど我慢して下さい。でも、無理ならそれ以前でもいいです」とあっさり言われるが、とても5分も我慢できない。2分ほどで噴出。

 手術用のガウン状の病衣に着替えて、午前10時から点滴開始。抗生物質と、電解質の入った水。昼過ぎごろに母と叔母が来る。手術は午後2時半からだったが、予定より早くなり、午後2時すぎに呼ばれる。間が悪く便意を催し、看護士さんに急かされながら排便、排尿。車イスに乗せられて、手術室へ向かう。まずは入り口の小さな部屋で頭髪を包むような帽子をかぶり、手術用の狭いベッド(これがいわゆるストレッチャーというヤツか)へ。猛烈に緊張する。手術室へ移動して、手術台に乗せられてさっそく腰椎麻酔。とても痛いと聞いていたが、それほど痛くない。むしろ、気持ち悪いというべきだろう。かなり長さのある針が、背中に入ってきて、体の中でジワッと動くのが分かるのだ。うわー気色悪。まもなく太ももやスネはモワアーッとしてきて、麻酔が効いてきたのが分かった。しかし、肝心の下腹部はもうひとつ効いてないような気がする。看護士さんが、湿らせた脱脂綿であちこちを触りながら「ここは感じますか?ここは?」と聞いてくるのだが、いつまでたっても感じるような気がするのだ。「感じます。うーん感じます」。麻酔が効かないままに切られるのだけは勘弁してほしかったので、しつこく「効かない」とアピールしていると、チキンハートを見透かされたのか、いつの間にか切られていた。ジジーッと電気メスで切っている音がします!あっ、なんか切られてる。でも痛くない。引っ張られたり、押されたりしている感覚はあるが、切られたこと自体は痛くない。

 切られたことは痛くないけど、睾丸を体外に出すためにギュウギュウと引っ張られたのにはまいった。引っ張られて、内臓が痛いのだ。「痛いですか?まあ、腹膜も一緒に引っ張るからね。我慢できない?我慢してね」と医師はケロリとしているが、こちらは脂汗モノだ。歯を食いしばって我慢したが、正直いって早く意識がなくなってほしかった。その願い虚しく、およそ30分の手術中、ずっと意識はあった。手術が終わってシーツを取ると、汗だくで看護士さんも「あら、まあ」と苦笑い。いや、ホントに痛かったんだって。

 腰椎麻酔のあと、頭を持ち上げると麻酔した箇所から脊髄の液?が漏れて、ひどい頭痛になることがあるらしい。「寝返りを打ってもいいけど、絶対に頭を起こさないように。これはもう防止するしかありません」と主治医に言われて、絶対上げないことを心に誓う。もとのベッドに移されて病室へ。午後2時10分に病室を出て、戻ってきたのは午後3時20分。麻酔やなんやかんやの時間も含めて、1時間ちょいくらいの手術だったことになる。麻酔が効いていて分からなかったが、いつの間にか尿道に管が通され、T字帯、さらにその上から紙おむつを付けられていた。
 麻酔が覚めてくるにつれて痛みが激しくなる。切られた痛みもあるのだろうが、むしろ内臓を引っ張られたときに感じた痛みがジンジンと出てきて、下半身に猛烈に汗をかく。血圧もグングン上がって(152/91)、我慢できずに痛み止めの座薬を入れてもらう。もう恥ずかしさもなんもない。とにかくこの痛みをなんとかしてほしいのだ。座薬は30分くらいで効くという話だったが、1時間ほど経たないと効かなかった。どうもこういう麻酔系の薬は効きにくい体質なのかもしれない。

 痛みでうんうんうなっているときに、主治医が来て手術の説明。頼み込んで取りだした睾丸を見せてもらう。おおっ、これが32年間、自分の体内にあった睾丸か。見た目は鶏の腎臓みたいな感じ。色は白いのかと思っていたら、ミルクコーヒーの色だ。鯛の子みたいなモワモワしたものが、薄い膜に包まれている。「意外なほど柔らかいし、切開して見たところでは悪性腫瘍になっている感じはしない。確認のために検査に出す」とのこと。さらば、わが右ゴールデンボールよ。ちょっと寂しい気持ち。

 上を向いたままでは痛みがまったく引く気配がないので、左側を下にして横向きに寝かせてもらう。少し楽になった。午後6時ごろにようやく意識をなくすことができた。30分ほど眠ってから、内臓が動き出したことを確認してもらって、水を飲み始める。うまいともなんとも感じない。どんどん水を飲めと言われたので、義務的に水分を摂る。夜に37.3度の発熱。特に必要は感じなかったが「使いますか?」と聞かれたので氷のうにしてもらう。
 深夜、尿の出が悪いとのことで、点滴の電解水を2倍の量にする。経口でもお茶を飲む。少しずつ出たらしいが、自分では確認できない。なぜか腰が猛烈に痛く、上を向いて寝ることが出来ない。ずっと左を下にしているので、肩や腕が圧迫されて痛い。手術後の痛みも加わって、なかなか熟睡できない。浅い眠り、痛みと寝汗で目覚めるの繰り返し。

07月02日(術後1日目)
 午前6時ジャストに採血。6時半、血圧と検温。微熱が続く。腰も引き続き痛いが、もう体の左側が限界に来ていたので、無理をして上を向いて寝てみる。膝を曲げると少し楽だ。午前7時50分、朝食。点滴付けたまま、尿管入れたままで変な感じ。はだけた病衣のすき間から、尿管が見える。小指より一回り細いくらい。うぐっ、こんなに太いモノが入っているのか・・・。怖くて入っているところを確認できない。

 ご飯、寄せ豆腐、玉ねぎの吸い物、ほうれん草のおひたし、ふりかけ、牛乳。38時間ぶりくらいのメシで、とにかくうまい。
 
 朝メシ前に1時間ほど寝たせいか、少し腰痛が楽になっている。午前8時20分と50分に主治医が「どうですか?」程度の簡単な回診。腰が痛いといっておく。午前9時10分、「さあ、尿管抜きましょうか!」と看護士さん。「大きく口で深呼吸して、はい1、2の3!」で一気に引き抜くが、うわあ気持ち悪い!そして抜いたあと、痛いこと!珍宝に焼いた火箸でも突っ込まれた気分だ。これも痛いと聞いていたが、本当に痛かった。
 午前9時20分、体をふくための温かいおしぼりが配られる。普通の上着、ズボンタイプの病衣をもらったので着替える。T字帯、紙おむつともオサラバだ。どちらにもビニール状のシートがついていた。これでは汗が発散しない。暑いはずだ。着替えるために立ち上がってみる。特に痛みはない。着替えたついでに小便しに行く。歩き出すと微妙に痛い。点滴をつけたままのうえ、よちよちとしか歩けないので、トイレまでがひどく遠く感じる。排尿すると痛い。引き裂かれるような痛みだ。痛いのならば尿をしなければいいのだが、どんどん水分を摂って、どんどん尿を出せと言われたので、小便をせざるを得ない。しばらくこれとは戦わなければならない。

 点滴をつけているうえ、術後の疲れがドッと出たのか、うつらうつらと眠りながら過ごす。正午、昼食。

 ごはん、タケノコと卵ときくらげの煮物、あさりの佃煮、小松菜のおひたし、タラのバター風味焼き切り干し大根とじゃがいも添え、キウイ。

 食後、食器を返しにエレベーターホールまで歩く。うまく歩けず、ひと苦労。

 午後1時20分、点滴終了。午後2時、主治医が手術口の消毒に。なにやらホッチキスのようなモノで止められているのが見えるが、体が起こせないので、はっきりとは確認できない。午後3時、母が来院。言われた通りにどんどん水分を飲んでいるので、尿がどんどん出る。タンクがあふれそうになったので、第2タンクを準備してもらう。午後6時、夕食。

 ごはん、焼いた鳥肉のトマトソースかけブロッコリーとカリフラワー添え、里芋の田楽、キュウリの中華風和え、りんご。母作のモロヘイヤのあえもの生ハム巻き。病院で出されたモノ以外は食べてはいけないという建前だが、特に消化器の病気ではないので、食べてしまう。看護士も黙認の様子。ここから抗生物質が経口投与に。

 午後7時半、洗顔、歯磨き、猛烈に頭が臭いので、洗面所で頭も洗ってしまう。スッキリ。なぜか排尿通が増す。くっつきかけた粘膜が切れたような痛みだ。咳をしたり、笑ったりすると手術口に響いて痛い。

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