峠の怪


 稲刈りも終り秋らしさを感じる頃、私は不思議な体験をした。あれは1979年の秋だったと思う。その頃私は高校生で、アマチュア無線に凝っていた。50Mhzの小型無線機は小出力で、内蔵のロッドアンテナでは特別な事が無い限りあまり飛ばないものだった。

 その日の夜は月夜であったこともあり、原付バイクで、とある峠に向ったのだ。仲間の話では、関東方面まで電波が飛ぶとの事。月明かりのもと刈り取りの終った段々たんぼの一画に腰を下ろし交信をはじめる事にした。

 あたりには誰もいない。秋の野草の間から聞こえてくる虫たちの声や、肌寒い風が草木にそよぐ他は、無線機のスケルチやノイズのみ。しばらくしてノイズの合間に奇妙な音がするのに気付いた。それは関節をポッキ、ポッキ、ポッキと、リズミカルに鳴らす様な感じだった。むろん無線機からでは無い。どうやら右手10メートルくらい先の薮の中から聞こえてくるようだ。恐怖と好奇心の入り混じったなか、薮に目を凝らす。何か気配があるのだが薮が深くて判らない。ゆっくりと近づく気配。どうやら無線機のノイズに興味があるらしい。そう感じるとなんとも滑稽な生き物のように思えてきた。

 ムジナだろうか?ムジナなら月の明かりで目が光っていてもよさそうなものだが・・。10分程の遭遇だったろうか。時折不思議な音を発しながらいつのまにか気配が無くなっていた。

 あれは一体何だったのだろうか。今でも不思議に思っている。ひょっとして妖怪の一種なのでは?なにを馬鹿な事を・・・。しかしながら街からは闇が駆逐され、科学が進むにしたがい、妖怪などは締め出され漫画の中にしか生きられないご時勢になった。

日本妖怪図鑑 ここに自称、いちばんくわしいと書かれた「日本妖怪図鑑」立風書房(1972年初版本)がある。(笑)

 そんな妖怪は何処にも掲載されてはいなかったが、新種の妖怪ではないだろうか。名付けて「妖怪ポキポキ」。だけどポキポキするだけの妖怪なんて、憎めない奴だね。津南にはまだ、そんなユーモラスな妖怪もいるようだ。