せせらぎ


小川 中山は、わずか7戸ほどの小さな集落である。大昔はムジナや狐が、よく人を化かした所だそうな。なだらかな斜面に広がるけっして大きいとはいえない水田は、小さな沢を開墾したものだ。黒々と点在する巨石は、水田の緑の中にあって独特の雰囲気。標高が高いため今が稲の花の真っ盛りである。

 集落の中央に小ぢんまりとした杉木立があり、中のお堂をよりいっそう小さく見せていた。先ほどから聞こえているせせらぎに足が向いた。あぜ道を下って行くと、小川に自然石の平ぺったい橋がかかっており、その脇がちょっとした洗い場になっていた。もちろん川底も自然のものだ。水は豊富で冷たく、透明度も高い。なんといっても水の音がするのは心を和ませるものだ。

 きらめく水面にバイカモ(梅花藻)を見つけた。津南でも最近では少なくなったと言われている植物である。水のきれいな所にしか生えない植物で、水質の良さを示すバロメーターである。それほどきれいなら蛍もいるのかもしれないと思い、川辺を少し調べてみた。水際から顔を覗かせた石の上に、赤土のついたトンボの抜け殻。たぶんシオカラトンボのモノと思われる。また蛍の幼虫の餌となるカワニナの生息を確認した。条件的には良い所だと思う。日中であった為、蛍の確認にはいたらなかったが、通りがかったお婆さんに尋ねてみると「最近は夜は出歩かないが、昔よりは随分減ったねえ」と答えた。やはり農薬が関係しているのだろうか。

 バイカモについてはカワマツと呼んでいて、これが増えると川底に砂が溜まって道普請の時には大変なのだという。昔、お爺さんが下流の集落から持ち込み、それが増えたのだとも言った。また一部の土手に除草剤が使われていて少し残念だと伝えると、「あれを使うと手間がかからないが、土手が柔らかくなってしまう。家のお爺さんは草刈りをしています」と答えた。水が大変きれいだと誉めると「ここは水だけが自慢の所です。おまえさん、何処から来なすったね」と話がはずみ、山から顔を覗かせた入道雲も笑っていた。

 いつまでもU字溝の川にならない、自然のままの姿の小川であって欲しい。今では貴重な川の姿になりつつあるのだ。そして出来る事なら、この様にきれいな水の流れのそばでは除草剤は控えてほしいものだ。勝手な意見ではあるが、ただの田舎の集落か否かの違いは、こういったところに現れるのだと思うのは私だけであろうか。この集落の一番の魅力は、きれいな水のそのままの小川と、そのせせらぎであるからだ。