数年前、『ハツカ石』という石があるという噂を聞いた。いったいどんな石なのだろうか?まずこの石は、豪雪地にしか存在しない石である。それというのも最低でも積雪日が20日以上ある処でなければならない。このハツカとは、「20日」の事である。春間近の豪雪地、日に日に雪が融けだし、とある石が雪原より頭を出し始める。その石が頭をだしてから、凡そ20日過ぎると消雪日となる。このような石をハツカ石と呼ぶのである。すなわち消雪日を知る基準石なのだ。雪国ならではの、実に興味深い話である。その石が津南の前倉にあると情報を得た筆者は、前倉でハチミツ屋を営む阿部さんを訪ねた。奥さんは初めて聞く話だと首をひねり、古老の住む家へ電話で問合せて下さったが、結局判らずじまい。永いあいだには廃れて途絶えた言伝えもあったことだろう。かつてはあったが今は判別できなくなったのだと私は考えている。
魚沼は古より豪雪地である。その「ハツカ石」をバス停の名前に見る事が出来る。場所は塩沢から湯沢へゆく途中の下り坂にさしかかる所。見過ごしてしまうくらいの小さなバス停にあった。もうハツカ石が何であったのかその意味を知る人は少ないだろう。だがその名残がバス停に残っているのは、かつてこの辺りが「ハツカ石」と呼ばれ、基準石そのものも存在していたのだろう。「ハツカ石」、そのプロセスは現代美術にも通ずる処を感じ、大いに関心をもったのだ。
余談になるが、どこかのイベント屋のでっち上げた芸術祭より、真にアートしていたのは我々のご先祖さまであった事を再確認。さらにこの石は、自治体のメンテナンスもいらないし、一切費用がかからない点でもずば抜けて優れている。
『シチジュンゴンチ』とは何だろう?これもまた豪雪地、津南ならではの話だ。この言葉が、ハツカ石同様、日にちを表す75日である事はお気づきのことと思う。今回画像を用意できなかったが、昆虫の俗称なのである。黒色のアブのような細身の昆虫で秋に姿を現す。この昆虫が人前に姿を現してから凡そ75日目に初雪が降るといわれている。これも面白い話である。いかに先人達が、降雪日や消雪日を自然環境から予想していたか、また雪と共に暮す中から編出した生活の知恵として、この昆虫の存在は雪国文化史のうえで貴重である。
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