流出解析概論06.5.5HP開設二周年記念:鶴巻有一郎)5.11追加記述(青文字)





山地への雨は、冬には積雪となり、春には融雪による出水を起し、また樹木に遮蔽されながらも大地に降り注ぐ、さらに、地面に浸透し、あるいは落ち葉に溜まり大地を流れ出す。地面に浸透した水分は、飽和すると、地中の流れとなりゆっくりと流れ出す(中間流と言う)。さらに、深く浸透した地中流も生じる。

地中の流れは、地上の流れと同様に、谷・川岸に徐々に流出しながら川となり、山間地を急流でながれ、やがて、支流を集め、緩勾配の平野部を大河に成って海に流出するもの、太陽熱で蒸発するもの、樹木・生物を癒すものとなる。まさに、水は、我々を支える根源である。しかし、激しい降雨は、災害となって、押し寄せる。このような、流れを解析するのが、流出解析であり、土木技術者が担っている。

陸地に降る1年間の雨量を100とすると、地上から蒸発する量は61、河川から海に流れ出す量は38、地中から海に流れ出す量は1である。私たちが、利用したり、災害に遭ったりするのは38の河川流である。河川流には、日々穏やかに流れる平水流量と、洪水流がある。これを、長期流出と短期流出と言い区別することも出来る。(世界の流出率分布図、蒸発散分布図、降雨量分布図を参照するにはここを、クリックして下さい)

農業用水、水道用水、工業用水、河川環境を維持する河川維持用水、水力発電への使用量等の水利用の面からは、この平水流量の総量を確保することであり、かつ、渇水流量に備えることである。一方、洪水は防災の面から、その流出特性を把握することは重要であるとともに、我が国では、洪水のピーク値を抑えるための流域全体に目を向けた流域管理がなされている。すなわち、土地利用変化への対応、貯留効果増進策である。

このようなことを扱っている専門分野は、水文学であり、河川工学であり、それらの根底の一部分に水理学が存在する。

なお、近藤純正著「水環境の気象学」朝倉書店pp313314に、世界の流出率、年降雨量、年蒸発量、可能蒸発散量等の世界水収支分布図が記されている。この分布図はBudykoら,1977Atlas of world water balance. The UNESCO Press, 65 Plates.によるものであり、有意義であると思われるので紹介する。しかしながら、我が国の部分に流出率が60%の等量ライン(60%以上と60から40%を分けるライン)があり、注目されるのであるが、残念ながら、分割されたそれぞれの地域がどちらに、属しているのか判別が付かない。色彩で塗り込められていれば明瞭なのだが、あなたなら、どの様に塗り分けますか?

また、世界の年降雨量分布は、東京天文台編纂「理科年表」丸善株式会社にも記されている、小生が見ている版は、昭和62(1987)机上版pp299であるが東経60°北緯10°の付近に100mm文字が記されている。しかし、その延長線を見ると、どうみても1000mmの等雨量ラインであり、あなたは、どの様に判断しますか?

学問は、世界共通である(と思いたい)が、各国の政策、自然防災への対応、技術基準は自然の多様性と共にさまざまである。

知識を取得するには、物事の、本質を吐露した書物、先生に遭いたいものである。なかなか出会い無いものである。ここに、二冊の専門書を紹介する。

矢野勝正著:洪水特論,理工図書

Ven Te Chow,David R.Maidment,Larry W.Mays ”APPLIED HYDROLOGY”,McGRAW-HILL

これらの著書は、技術的内容記述の素晴らしさは元より、計画とは何かを記述していることである。すなわち、降雨発生機構の物理的面から見た可能最大降雨量の存在を肯定し、それよりも過小量である確率降雨を位置づけ、重要度、費用の面から計画を論じていることである。

 しかし、「洪水特論」は、可能最大降雨量の算出過程の詳細記述までには至っていない。矢野勝正著:洪水特論は、昭和33年(1958)出版の書籍であり、APPLIED HYDROLOGY1988の書籍である。両書とも今日のパソコン、GISデータ取得技術の発展以前の書籍ではあるが名著である。

 

私が学んだものは、お役所の立場で書かれた書籍なのであろうか、確率論が主体であり、確率降雨量を計画に採用するのが当たり前であると思っていた。しかし、世界銀行のプロジェクトに係わったとき、可能最大降雨量の考え方を知り、なぜ、そのような合理的な考え方のあることを知らなかったのだろうかと思うようになっていた。重要構造物の設計は、APPLIED HYDROLOGYにも記すように、可能最大降雨量で設計する基準が示されている。


頻度分布














密度分布:
密度関数f(x)とxの関係

確率論は、降雨発生の頻度分布を密度分布に変換し、めったに起きない部分(図2x軸の大なる値(降雨))に対するf(x)値を境界に左右の面積比(=ピンク/グリーン)が生起確率である。すなわち、頻度分布形に似た数学の式を探し出し、その数学の関数形を利用している。すなわち、実績記録部分に合わせた関数形から、データのないめったに生起しない確率を推論するために、さまざまな学者がそれぞれの関数形を定めたに過ぎない。このため、下図のような確率関数から離れたデータも生じている。それが、異常値であると言って切り捨てられるものではない。Engman et al(1974)

降雨の課題は、さらに、雨のスケールと流域の大きさの関連から、対象流域にどのようなに降らすのか?、全域同時刻か?、そのピーク強度は同じか?、その雨の時間変化曲線、いわゆる、ハイエトグラフに用いるものは、実績を用いるか?それとも架空のものを用いるか?の選択、使用する観測値の時間間隔は、10分間か、1時間か、1日か、半旬か?、雨量観測所の配置はどの様にあるのか?、その観測データ地域のどの部分まで代表しているのか?、重要な観測所のデータに欠測値があるがどうしたらよいか?実にさまざまな課題がある。しかし、それらは、解析の目的が計画を論じているのか?、それとも実績の再現解析か?、現時点の今後の出水の推移を想定するのか?等でも選別の対応が変わるのは、当然のことである。

次に、地面の流出機構をどの様に導入するのかの課題に移ろう。

まず、河川の水位観測所の観測水位データは、その観測所備え付けの水位―流量曲線から流量に変換され、下図の様な降雨に対し、流量時間変化曲線(ハイドログラフとも言う)を得られた一般的な傾向を示そう。



この図を見ると、降雨の影響は、B点から現れ、C点でピーク流出量に達し、徐々に減少するものの、Dからの減少率が緩慢に変化している。BCDの青色面積部分が流域の地上面を流れ、河道を流下してきた量(直接流出量と言う)である。BDEFの黄色面積が、地中の中間流出量である。そして、E点は緩慢にABラインまで低下する。さらに、太陽熱による蒸発散が生ずる。

流れの現象を再現するには、理論解の式を用いること、近似解の式を用いること、モデルを用いることの三つの方法がある。

理論解を用いれば、正確であり、その解は何処にでも適用が可能であり、さまざまの項の影響を把握できる。このため、これを用いると、これまで経験していないことまで見通せるのである。

近似解は、基本方程式の一部の項を近似や、特殊な条件下に置き換えることで、式の誘導・展開を容易にし、条件付での使用可能な形にした式であり、条件下では理論式に準じるものである。

モデルは、現象に似たような、相関性の高いと思われる他の物(タンク・バケツ・関数・・)を持ち込み、これまでの記録の再現を可能にするように調整したものである。このため、モデルの作成に当たって用いられた記録データの範囲内の演算には適用できるが、範囲外への適用は意味の無いものである。しかし、その計算が簡便であるところに価値がある。

流れの理論では、流れの運動方程式と流量の連続方程式から組み立てられ、偏微分方程式(∂η/∂t)の形で表される。

しかし、この偏微分方程式のままでは、解くことは不可能である(∂は曲面)が、偏微分方程式を、常微分方程式(dη/dt)に変換することができれば、可能になる(dは曲線)。すなわち、常微分方程式は微小変化部を差分(d≒Δ)と見なすことが出来るため数値解析が可能になる。

偏微分方程式と常微分方程式を結びつける関係が全微分方程式であり、特殊な条件下に可能となる。この全微分方程式の中の性質に特性曲線法がある。

開水路流において、そのような理論解が得られるのは、特殊な条件下の二次元不定流の場合であり、特性曲線上でのみ解が得られる。ここでの特性曲線とは波動の伝播状態として表される。

波動の伝播とは、水面を叩いたり、または、水を急に注いだりしたときに、波が発生する。これを山間地の急流部で行ったときと、平野部の緩慢な流れで行ったものを比較すると、その様子が異なっている。




すなわち、急流部での波は下流方向のみにしか伝播しない。しかし、緩勾配河川では上流へも下流へも波は伝播する。しかも、下流への波動の移動速度はv+(gh1/2、上流への移動速度はーv+(gh1/2である。ここに、Vは流速であり、hは水深、gは重力の加速度である。このような、急流部の流れを射流、緩慢な流れを常流とも言い、フルード数(F=v/gh1/2)で表す場合は、F1の区間を射流、F<1を常流とも言っている。

このような現象は、圧力管路流でも発生するし、航空機が音速を超える(マッハ数)か超えないかの騒音の伝播でも発生する現象である。話を、特性曲線に戻すと、波動伝播として表された曲線は、その性質、下流のみへの伝播の場合と上下流への伝播の場合の二種類となる。すなわち、図示すると、下図のようである。横軸に河道長、縦軸が時間である。

射流区間の河道の各断面のVとhは、時々刻々下流へ伝播している。すなわち、上流の性質が下流へ伝播しているから、上流の性質(水理量=流速、水深)が既知であれば、下流の経過時間後の値が既知になるのである。このような流れをKinematic Waveと名付けている。

一方、常流区間の河道の各断面のVhは、上下流に伝播するから、伝播曲線が交差した点は、上流側と下流側の性質か影響して既知となる。このような流れをDynamic Waveと名付けている。

開水路流の時間変動項を含む流れの理論解は、この、Kinematic Wave法とDynamic Wave法の二つだけなのである。なお、Kinematic Waveを等価粗度法とも言ってことがある。それは、その時点の流れを、等流状態(断面形状が一定、同一水路勾配、同一の粗度係数、同一流量の流れの定常状態)と近似させているために、流路面のさまざまな突起による粗度を等価な一つのものに設定し、代表させているからである。




地中の流れの定常流は、損失水頭項が流速の1次の項に比例するDarcy則によって、解析可能であるが、非定常流(時間的に変化する流れ)の場合や、平面的変化を伴う場合は有限要素法(FEM)による必要がある。なお、有限要素法(FEM)は、理論式の項の一部に近似値を持ち込む方式である。

近似解の誘導は、多くの研究者によって試みられている。加速項の省略、微小変動理論による非線形項の線形化、疑似定流法の適用等がある。

従来から使用されているモデルの主なものには、合理式、単位図法、流出関数法、貯留関数法(Muskinghumマスギンガム法、Pulsパルス法)、タンクモデルなどが代表格である。

合理式は単位時間に降った降雨量(r)に流域面積(A)を掛け、さらに、流出係数(f)を掛け、単位時間で割り、流出量のピーク値を算出する、単純明快な下式である。








単位図法は、到達時間(雨のピーク時刻とピーク流出時刻の差)と、ピーク流量からなる三角形分布である。

流出関数法は、流出分布を図の如くなだらかな形状となる数学の式を当てはめたものである。

貯留関数法は、時間的な流れの変化は、断面間の貯留量の変化によるものと考える方法であり、パルス法では貯留量は出る量に支配されるとする式である。しかし、マスギンガム法は河道断面間の上流から入ってくる量と下流から出る量の差が断面間の貯留量に比例するとしている。

タンクモデルは、貯留関数法のマスギンガム法と同様の考え方であるが、流出量をタンクの横と底に取り付けた孔の位置と大きさで調整するようにモデル化している。

           

1960代、電子計算機の導入によって、図解法の流出解析から数値解析法へ移行させ、計算機の性能UPにあわせ、より細分化され地形データを取り入れた解析へと移っていた。1960代後半、当時、小生は、手作業で流域を細分化し、流域に、パルス法を、河道にKinematic Waveを適用したプログラムを作り、海外プロジェクトの洪水流出解析に適用していた。(また、長期流出解析に当たっては、雨季と乾季の影響を組み込むためには、3ヶ月間にわたる降雨量の影響性が分かり、データへの重み付き関数を用い、我々仕事仲間では、ブラック・ボックス・タイプと言っていた。)すなわち、洪水流出解析には、今日の分布型である。当時、そのような用語もなかった。また、洪水氾濫解析でも、氾濫域の地形データ作りは手作業であった。しかし、流域の資産・人口データはメッシュ化された数値情報が得られ、このメッシュ分割法に準じて国内向けの氾濫解析をプログラミングした。その後、地形データも国土数値情報として、メッシュ化され入手されるようになる。その後も続くパソコンの性能UPGIS(地理情報システム)GPS(全地球測位システム)の発展は、この流出解析にも一見、影響を与え、大きく変化させるように思われるが、本質はなんら変わっていない面と、海外研究者によるさらなる発展面が見えるような気がする。

メッシュまたはグリッドデータは、地球の形・球、いや、変形した球は、従来の経緯度法のデータと衛星データのグリッド分けに差があるようである。このため、国土数値情報にさらに、GISデータを重ねるときは調整が必要である。国土数値情報にしても、経緯度内を等分割しているため、1km2データと言っても縦横の長さが異なるため地域に毎に面積が異なるのである。また、外来語も多くなってきた、DEMとは、数値地形モデル(Digital Elevation Model,グリッドモデル(Grid Based DEM),等高線図モデル(Contour Based DEM),三角形網モデル(Triangulated Irreguler Network DEM

  

近年の流出解析の資料を見ると、集中型モデルlumped model)と分布型モデル(distributed model)に分類して論じている。従来には見かけなかった用語である。どの資料を見ても、その定義が見当たらない。しかし、それらの資料の記述内容から類推するに、集中型とは従来の流出解析モデルを指し、分布型とは、流域の細分割、地中の細分割に対応した流出モデルのようである。すなわち、従来のモデルは水位観測所の記録とモデルの流出量時間曲線を照合するためにその地点より上流を1つのモデルにしているか、または、数個の主な支流毎に作られている場合が多く、集中型と言っているようである。

それなら、伺いたい、分布型とは、細分割のモデルであるが、その精密度を何処でチェックしているのだろうか。細分割の個々にチェックポイントを備えているのだろうか?それなら、立派なのだが、相変わらず、従来の観測所のみか、数少ない試験地のデータとすると、細分割のグリッド毎に土地利用状態と地理条件が大きく異なる地域への適用効果を見ようとしているのであろうか?モデルは、実現象とチェックが出来て初めてその範囲内において意味のあるものなのである。そのような、疑問は残るが、分布型モデルを見ると雨の総量と流出量、蒸発量の収支に対する様々な要素を取り入れ工夫を凝らしているモデルが目に付く。今後のパソコンの能力アップと流出と気象と水質の関連形態の重要性に着目した詳細なモデルに移行している。

分布型モデルの代表例は次のようである。

SHESysteme Hydorologique Europeenモデル

降雨、積雪、樹冠遮断、融雪、蒸発散、鉛直方向に複数の土層(根系層、飽和流)を取り扱っている。



  ・         IHDM(the Institute of Hydrology Distributed Model) 地中の流れに有限要素法を適用している。

           TOPMODEL:流出寄与域を設定し地表流を扱っている。

           Xinangiang Model(新安江モデル):土壌水分の収支を扱い、単位図法を適用している。

           WEPモデル:(Water and Energy transfer Processes)蒸発、熱輸送、窒素循環、 地表流・河道流にkinematic waveを適用し、地中流に貯留関数を用いている。

           土研分布モデル:流域にはタンクモデルを、河道にはkinematic waveを用いている。

・ 新バケツモデル:長期流出を対象とし、土質、層の厚み(空間モデルとも言われる)を考慮し、簡易なモデル。

以上

 なお、本HPには「流出解析のタンクモデル手法における問題提起」や、
kinematic wave法による流出解析のソフトとプログラミング」
も掲載しています。


 本文作成に当たり、目を通した資料は、下記の通り。

矢野勝正著:洪水特論,理工図書

Ven Te Chow,David R.Maidment,Larry W.Mays ”APPLIED HYDROLOGY”,McGRAW-HILL

 土木学会編:水理公式集(平成11年版


立川康人:流域水循環の数値モデルの進歩と今後の課題,土木学会,水工学シリーズ02-A-1 ,2002年9月

流域水物質循環モデル・ソフトウエア博覧会2005,2005年12月12日中央大学駿河台記念館

近藤純正:表層土壌水分予測用の簡単な新バケツモデル. 水資源学会誌, 6(4), 3443491993

近藤純正:面白かったモデル生い立ちの話-菅原先生へのお礼の手紙から.水文・水資源学会誌,6(3),274275.1993

近藤純正・本谷研・松島大:新バケツモデルを用いた流域の土壌水分量、流出量、積雪水当量、及び河川水温の研究.天気、42(12), 821-8311995