水流と空気の関連鶴巻有一郎著
![]()
水路とエアーの干渉現象(副題:水面と水路空間)
序論
水路に関する事故原因を明確にし、その解決策を打ち出している例を、海外文献には多く見うけられます。しかし、我が国におけるそれらの文献・著書は、数少ないように思われます。貴重なる例は、水道事故を扱った石橋多門著「上水道の事故と対策」技報堂出版鰍ェ唯一のように思われます。水力発電所の鉄管破損事故として、海外の技術図書1)に写真入りで記載された日本の事例はありますが、その詳細を我が国の文献から知る手がかりがありません。事故原因の分析・対策業務は、担当技術者のレベルアップに役立ち、その後の設計への配慮・肝要を養うものと考えますので、これまでの貴重な技術事例を残し、役立ていただきたく、私の経験を本文に記述いたしました。
ここでは、私が土木技術設計コンサルタントとして34年間に亘って指導を受け、かつ、特異な現象として経験した水路構造問題に利用したエアーの効果、逆に問題を生じたエアー課題とその原因、さらに、これらの諸問題から連鎖発展するエンジニアリングについて、簡素に、まとめてみました。水との係わりを持つ土木設計技術者の参考になれば幸いであります。
また、これを契機に、他の欠陥土木構造原因の数々を皆様からの情報によって、より多く集まり、明らかにすることが出来ますれば、今後、多くの分野の設計に生かして戴けるものと思います。なお、良き技術教訓としての資料公開と新しい知見の公開の場として発展するために、事故例調査については、具体的な地点名、発生日時、諸元、関連社名を伏せております。しかし、新しい知見や有効利用等については、その出典を明確にしております。
参考文献
1)Roberson/Cassidy/Chaudhry“Hydraulic Engineering”,pp572,Houghton Mifflin
![]()
目次
主な用語の説明 (04.6.5)
1) 水路におけるエアーの有効活用例
1.1)トンネルスピルウィーのキャビテーション破損事故対策としてのエアーレータ(04.6.5)
1.2) 水圧脈動対策としての気泡混入効果(04.6.5)
1.3) 水路設計を変革するエアーチャンバー (04.6.5)
1.4) 水路コスト縮減に寄与するエアーチューブの新知見(04.6.5)
・ 論文「小径エアチューブまたは密閉型エアクッションサージチャンバーによる水圧鉄管路の減圧理論」の活用と意義(04.6.5)
・ 密閉型エアクッションサージチャンバーの水撃圧吸収記録(04.6.5)
・ エアー噴出から水撃圧発生させる実験装置(04.6.5)
2)水路空間の特殊水理現象例
2.1)開水路の問題例(04.6.5)
2.1.1)低周波数騒音を引き起こした水路系の共鳴(機器;流入堅坑の負圧)(04.6.5)
2.2) 開水路と圧力水路が共存する問題例(04.6.5)
2.2.1)段波とエアーハンマー現象から生まれた逆勾配多鋼管消波工(04.6.5)
2.2.2) 放流冷却水の白濁混入エアーへのクレーム(04.6.5)
2.3) 圧力水路の例(04.6.5)
2.3.1)用水送水管の危機(A工業用水路)(04.6.5)
2.3.2 )混入空気塊の挙動(K.P/S)(04.6.5)
2.3.3) 水束が水面に突入するときの混入空気量(04.6.5)
2.3.4) エアーハンマーの圧力と周期強制源を持つ場合の応答(04.6.5)
2.3.5) 竪坑取水の安定化(04.6.5)
3)サージング・水撃圧の理論式と解、および、気泡混入時の波速(04.6.5)
4) 理論解の誘導
4.1) 故 林泰造先生によるAir Hammer理論解の誘導(04.6.25)
気泡の流れを含む水理模型実験例(06.1.23)![]()
![]()
主な用語の説明:
エアーハンマー:水中の空気塊が噴出する際の水面下の壁面をたたく衝撃圧(瞬間的な圧力変動:目視は不可能であるが、空気噴出時の飛沫を見、噴出音を聞くことは可能)(下水道の技術者に間違った用語の認識者が多いので特に注意)。
水撃圧・ウォターハンマー:満管流の状態の圧力管路流において、流速変化を起す箇所から流速の時間変化項に応じた圧力が縦波で伝播する現象。一般に水中では伝播速度約1000m/sと速く、瞬間的に高圧変動し短時間に減衰する。目視は不可能な現象であるが、家庭の水道栓を急激に閉鎖したときにドスンの衝撃音を聞くことが出来る現象。水面を有し大気圧の部分で圧力上昇は、0となり、これより上の構造には、伝播しない現象である。
サージング:水塊(マス)の運動であり、開水路のサージと圧力管のサージがある。どちらの現象も、緩慢な変動であり、長時間継続す現象であり、水面の上下動を目視することが可能である。開水路流では波動のことである。圧力管流では、管路の両端に設ける水槽(サージタンク)の水位が流量の時間変化量に応じて、上下変動すること。
![]()
1.1) トンネルスピルウィーのキャビテーション破損事故対策としてのエアーレータ
海外プロジェクトに関連していた私たちグループが、USAにおける事故例とその対策を採用した地点は、インドネシア国チラタ水力発電所のダム洪水吐きとしてのトンネルスピルウィーにエアーレータを取り付けた例です。
1980年当時、まだ我が国においては、その設置例はありませんでしたが、USAのイエローストーンダム…・・ダム等のトンネルスピルウィー破損事故の詳細とその対策に関する文献が存在しました。本構造は、洪水吐きの高速流がトンネル底床にキャビテーションを発生し、破損の原因となるため、底床に溝(図1.2.10)を設け、自然吸気により、溝より下流の底床をキャビテーションから保護します。破損予測個所は、キャビテーションインデックス(シェンファー)の算出により判断できる如く記述されている。我々はチラタ地点への採用にあたり、水理模型実験にて現象を確認し、設置個所の選定と溝構造について検討を加え、設計・施工しました。その構造は、今日も有効に働いている。
図1.2.10は、トンネル洪水吐きに発生したキャビテイション現象によるトンネル破損事故である。図中の右上図は、エアレーターを持たないトンネル洪水吐きに発生した破損事故例であり、二線の上部領域が大破損、二線の間の領域が中破損、下が無破損例を縦軸にキャビテイションインデックス,横軸にトンネル洪水吐きの使用時間数を記したものである。この破損に対する対策工としてエアレーターが設けられた。エアレーターは、水路の下部に低いジャンプ台を設け、かつ、トンネル周辺部に溝を設けた構造になっている。流速によって、水面下の溝内の空気連行と圧力低下でトンネル水面上部の空気を自然注入し、下流壁面上に混入空気泡を拡散する(霧吹き器の逆の原理)。これにより、キャビテイション現象の発生が抑えられる例である。
従来から、流砂・水質による磨耗・腐食による損傷であると言われている事例であってもキャビテイション現象の検討を追加することは重要である。

![]()
1)水路におけるエアーの有効活用例
1.2) 水圧脈動対策としての気泡混入効果
1.3) 水路設計を変革するエアーチャンバー

![]()
論文「小径エアチューブまたは密閉型エアクッションサージチャンバーによる水圧鉄管路の減圧理論」の活用と意義
水力発電所建設における水路工事費削減策研究の一環として、密閉型エアクションサージチャンバー研究の紹介と、小径エアチューブを用いた標記論文の活用と意義をご紹介させていただきます。
1)1970年代、ノルウィーおよびUSAにおける密閉型エアクションサージチャンバー(図1、以下CACと称す)の建設(11地点)がある。この特徴は、地中に設けられる構造のため、ノルウィーにあっては、サージタンク建設のための“取り付け道路の省略効果”のために、USAにあっては、“国立公園内のサージタンクの地上構造景観対策”と、“取水口から発電所間を一直線に掘削するTBM採用による工事費削減効果”にありました。



2)筆者は、CACが地中構造であるため、サージタンク設置位置が従来の山の尾根から発電所近傍の自由な位置に変更可能であることから“水圧鉄管の鋼重減”に効果があると考えました。すなわち、貯水池からサージタンク間のコンクリート・トンネル長を長くし、サージタンクから水車間の鉄管の部分を短くすることで工事費を削減する狙いです。コンクリート・トンネルは、鉄管に比べ非常に安価な工事費ですみます。しかし、その研究結果(*1)は、圧縮空気漏気防止策としてCAC構造に鋼板を用いた場合、水圧鉄管の鋼重減に比べ従来方式よりも鋼重が増大する事が判り、予想に反する結果になりました。すなわち、地中岩盤の悪い地点への採用を拒む結果となりました。(ノルウィーでは岩盤良好のためCACは無巻き・ウォーターカーテン漏気対策を使用、USAは鋼板使用であるが、景観対策が目的)
3)そこで、サージタンクの規模縮小対策の一つである定常運転中の水路系の安定条件(Thomaの条件)の見直し研究(*2)を参考にCACの安定条件の見直し研究(*3)を行いました。その結果、規模の縮小が可能であることが明らかになりました。
4)しかし、規模を縮小した場合、サージタンクの本来の目的である水撃圧の吸収性が懸念され、CAC縮小における水撃圧実験研究(*4)を行いました。その結果、既設CAC構造物規模を1/30〜1/352以上に縮小しても水撃圧を吸収することが出来ることが明らかになりました。
5)一方、サージタンクには、水撃圧の短時間の吸収現象の後に発生する長周期のサージング現象があるためCACの位置の設定には、水撃圧値とサージング値が同値となる最適位置の設計が必要になります。すなわち、CAC設置の水圧鉄管の設計水圧としては、従来の如く
設計水圧 = 静水圧 + サージング + 水撃圧
です。
そこで、サージングの発生を抑え
設計水圧 = 静水圧 + サージング(ほぼ0に近い) + 水撃圧(ほぼ0に近い)
となる夢の構造体を目指す研究(*5)を行う必要がありました。
6)その結果、標記の論文(*5)の要点は、小径のエアチューブを水圧鉄管路に挿入することで水撃圧を抑え、かつ、ほぼ0に近いサージングを期待できる構造体であることを理論的に示唆したものです。
論文では、大振幅クッション性のCACの“サージング+水撃圧”とクッション性の微少な極小径エアチューブを水圧管路に挿入した場合の“水撃圧伝播速度減少に伴う発生水撃圧減少効果”の相違を示しています。(下記の図をクリックすると拡大します)
7)水圧鉄管路の究極のコスト削減策の机上の研究は、完成の域に達しつつあるように思われますが、実証試験を通じて明らかにしなければならない点が多々あります。
8)実証試験は、極小径エアチューブを水圧管路に挿入した場合を対象とし、その効果の確認、構造、配置、経済性の研究検討となります。また、この試験を通じ、経済的なCACへの確認も必要と考えます。
9)期待される効果
・ 新設発電所にあっては、水圧鉄管の鋼重減によるコスト削減、サージタンクの設置不要、景観保全、取水口から発電所間を一直線に掘削するTBMの採用、取り付け道路の短縮、CO2の削減(粗鋼1tonあたり2.2t-c)
・ 既設鉄管路にあっては、小径エアチューブを取り付けることで、設計水圧減少に伴い
鋼板厚さに余裕を生じ、数十年以上取替時期を延命することかできる(0.05mm/年)
参考文献
1)鶴巻有一郎:密閉型エアクッションサージチャンバーを用いた水力技術の最近の傾向,電力土木,No.235,pp.92-100,NOV.1991.
2)鶴巻有一郎:水力発電所圧力水路系圧力変動の安定性と応答性に関する研究,土木学会論文集,第423号/U-14,pp.43-52,1990年11月.
3)鶴巻有一郎:密閉型エアクッションサージチャンバーの安定性,土木学会論文集,第456号/U-21,pp.29-36,1992年11月.
4)Tsurumaki,Y., Shigemitsu,S., Itakura,M.:Reflectivity of waterhammer in closed air-cushion surge chambers, Conference papers of Modelling , Testing & Monitoring for Hydro Powerplants, HYDROPOWER & DAMS, IHA, IAHR, UNESCO, LAUSANNE SWITZERLAND, pp.31-39, July 1996.
5)鶴巻有一郎,傳田篤:小径エアチューブまたは密閉型エアクッションサージチャンバーによる水圧鉄管路の減圧理論,土木学会論文集,第712号/U-60,pp.87-96,2002年8月
![]()
図1.2.11は、従来型サージタンク形式の水路系と、1970年代にノルウィーとUSAに建設された密閉型エアクッションサージチャンバー形式の水路系の相違を示す。図中のグラフは、負荷遮断時の水撃圧変動を示しており、そのピーク発生までの所要時間数から水撃圧が密閉型エアクッションサージチャンバーで反射することを確認した記録である。密閉型エアクッションサージチャンバーは、高圧空気塊(水頭500mのものもある)の大貯留槽(直径10〜20m、長さ100〜250m)である。この密閉型エアクッションサージチャンバーの縮小化の研究(鶴巻 )がある。

![]()
図1.2.12は、密閉満管水路の端部に圧縮空気を入れ先端に小径のバルブ付きノズルを設け、かつ、水路中間部に密閉型エアクッションサージチャンバーを設けた実験水路において、水撃圧を発生させ、それを解析した例(鶴巻))である。ここでの水撃圧の発生メカニズムは、ノズルから圧縮空気が噴出し、空気から水への噴出に変化する際に発生するものである。
この様な例は、下水道のマンホールの蓋の飛散現象にも見ることが出来ます。すなわち、マンホール蓋下面に貯留する空気塊が小径から徐々に噴出し、水面が蓋下面に達した場合に水撃圧を発生し、蓋を飛散させるケースにあたります。なお、マンホール蓋飛散の原因は様々であり、「下水道の水理」を参照ください。なお、鶴巻の実験装置の管端部は、水撃圧発生によってマンホール蓋のように開放・飛散させるものではなく、固定している点が異なる。

![]()
2.1)開水路の問題例
![]()
2.1.1) 低周波数騒音を引き起こした水路系の共鳴(機器;流入堅坑の負圧)
図1.2.8は、放水路トンネル内に発生した低周波騒音の例である。放水路内を開水路流での流れの状態時に微小な流量変動で、水面が周期的に微小に盛り上がる水路において、空気を伝播する圧力波が、竪坑高さと水路長間で共振する場合に発生する珍しい現象も見られる。この対策は、共振周期をはずす位置に開水路空間を仕切るカーテン設ける案がある。一方、満管流にあっても水路系が分岐する場合の共振検討、および、水槽面積に関連する微小振動安定理論解析検討は水路設計の基本となっている。(鶴巻の研究)

![]()
2.2)開水路と圧力水路が共存する問題例
2.2.1) 段波とエアーハンマー現象から生まれた逆勾配多鋼管消波工
図1.2.6は、ヘッドタンクに発生する段波が、トンネル内に進入し、エアハンマーが発生する現象を動圧力センサーで捕らえている(鶴巻ら(1992レポート))。この場合、被り水深の数倍の圧力変動が見られた。対策工としては、水路出口部にカーテンを設けることでエアハンマーの発生を無くした。

図1.2.7は、前記の実験結果がヒントとなり、傾斜型円管透過性防波堤の研究(鶴巻(1995))が成された。すなわち、エアハンマーを円管内で発生させることで波浪エネルギーの瞬間解放を行う防波堤の開発研究である。
![]()
2.2.2) 放流冷却水の白濁混入エアーへのクレーム
図1.2.9は、火力・原子力発電所から海域へ放出される冷却水に空気泡が混入する現象が生じ、海域に放流の痕跡をはっきり現す場合がある。これは、海域の波浪が発電所に影響するのを防止するために、堰を設けている場合、堰の下流に落下する水束と水面の混合によって気泡が混入する現象である。一方、冷却水の放流温度を低下させる深層水の自然注入に関する密度変化を扱った”鶴巻ら”の研究がある。

![]()
2.3)圧力水路の例
2.3.1) 用水送水管の危機(A工業用水路)
図1.2.13は、河川から山頂の水槽への送水管に発生した水撃圧現象の例である。
その発生メカニズムは次のようである。ポンプ停止に伴い、停止後も送水管内の流量が慣性力で送水されるため、ワンウェーサージタンクから流量が補給され、サージタンク水位が低下する。この低下高が、河川堤防上の送水管天端標高以下に低下したため、管上のエア弁が自動開放し、管内に空気を注入する。それが、相当達した後に送水管内の流れは逆流を始める。ワンウェーサージタンクは逆流開始と同時に自動閉鎖するが、河川堤防上の送水管内部に貯留したエアをエア弁から排出しながら充水を始める。水面がエア弁に達し噴出空気から水に変換する時点にエア弁が自動急閉鎖するため水撃圧が発生する。対策は、タンク容量の見直しが必要であるが、応急対策として逆流開始までの時間、サージタンク水位が河川堤防上の送水管天端標高まで低下する時間内に予備弁の閉鎖で対応した。逆流開始までの時間は剛体式の運動方程式の積分から得られる。

![]() |
図16.2 ポンプ停止直後の慣性力送水状態


![]()
2.3.2) 混入空気塊の挙動(K.P/S)
圧力導水路トンネルの中間地点から渓流取水量を流入させる場合に空気泡除去装置が有効に作用せず、空気塊が貯留した後、流量変化に伴い、空気塊が中間竪坑に噴出、越水した事故した事例がある。水路概念を図1.2.1に示す。

この対策案は、図1.2.2 に示すごとく、空気泡除去装置の効果を高めると同時に、空気塊の噴出を徐々に脱気するカーテン・脱気孔の付加、流入水路の段波を抑えるカーテン付加案の提示、さらに、空気塊の中間竪坑に瞬間浮上させない構造を提示した。すなわち、このカーテン付加によって、圧力下の空気塊が一気に大気圧へ脱気する際の水面の盛り上がり、残留気泡による水の単位体積当り重量の減少に伴う水位上昇を抑える効果を示した。なお、水理模型実験による貯留空気塊の形成は、水路勾配の変化点から始まり、空気塊の浮上力と流水抵抗がバランスするまで発達するのが見られる。しかし、人為的に水路の動水勾配線に変化を与えると、水路天端を高速で移動すのが観測される。すなわち、水路勾配の変化点を持たない水平水路における場合の貯留空気位置を定めることは困難であり、脱気孔設置による対策は困難であることを示した。

他の事故に圧力導水路トンネルの取水口部のマンホール蓋を飛散させる事故がある。これは、取水口部に発生する流入渦による空気泡の持込により、トンネル内に空気塊に発達貯留後、マンホールから噴出し、蓋を飛散させる事故がある。図1.2.3 に示す。この場合の応急的な対策としては、流入部の発生渦の水面に浮き板で被うことで空気連行が抑制される。

![]()
2.3.3) 水束が水面に突入するときの混入空気量
導水路の中間に流入させる渓流取水の場合、渓流取水量の内部の空気泡を脱気させる装置として、図1.2.3に示す遠心力装置と水平気泡除去室がある。混入空気泡に関する研究は、跳水時の混入空気量(Qa)と水量(Q)比を流入前のフルード数(F)の関係で表し、求めたKalinske(1943)の実験結果(図1.2.4参照)がある。一方、フランスのドフィネ水理研究所の発表した45度斜坑における空気泡流入長の限界長さ(Lc=KFR1;ここにK=20, R1=流入前径深)の研究(満管部の平均流速は60cm/s以下の場合に適用)がある。鶴巻ら(1970レポート)では、このLc内の任意の長さLdにおける混入空気率を実験により求めKalinskeの式との関連を付けた。なお、式中の添え字2は、満管流部の諸元を示す。
追記:鶴巻ら(1970)の資料を再検討し、新たな式の提案を本HP の「水理模型実験・2)気泡の流れを含む水理模型実験例」に記しているので参照されたし。(06.2.1)

↑目次
![]()
2.3.4) エアーハンマーの圧力と周期強制源を持つ場合の応答
図1.2.5は、放水路サージタンク部に発生するエアハンマーを防止するためにカーテン・脱気孔の設置対策例である。エアハンマーとは空気塊が脱気するとき、水面下の管路壁面をたたく衝撃圧である。林ら(1970レポート)は、発電流量を大幅に繰り返し変化させる周期運転(AFC運転)におけるエアハンマーをカーテンなしの場合とカーテンを設け空気貯留室を持ち、かつ、カーテン高さを変えた場合の圧力変動をマノメーターで計測している。なお、中央大学林泰造先生は、エアハンマーの最大圧を最大被り水深の2倍となる理論解を(1956レポート)に示している。
一方、鶴巻(1995)は、エアハンマーの発生していない状態のAFC運転中の10発電所の導水路サージタンク水面最上昇高を実測し、かつ、剛体式による運動方程式と連続方程式から理論解を導き比較している。

![]()
2.3.5) 竪坑取水の安定化
図1.2.14は、水路部の竪坑に流量を落下させ場合、流況を安定化して流すために大気圧から注入管を設けその管の出口を、注入水束の上部背面とする例を示した。これにより、水束への混合気泡、空気連行による竪坑内部の給気量不足を解消し一定量の落下水量が維持される。

![]()
3) サージング・水撃圧の理論式と解、および、気泡混入時の波速
水力発電所の水路系の水理現象の検討に用いられる計算式を図1.2.16に示した。常微分方程式は、取水口からサージタンク間の運動方程式とタンク基部での連続式から成っており、水槽のサージング現象を扱う場合に用いられているものである。また、剛体方程式とも言われている。一方、サージタンクから水車間の検討には偏微分方程式の運動方程式と、管材の弾性膨張・収縮による連続式から成っている。この偏微分方程式は、近年、下水道管路の過渡水理現象解析に使用されているプライスマン法(仮想スロットモデル)と同じものである。図1.12.17に負荷遮断時の最上昇高(Z*=ダム水面からの高さ)と、そのサージング周期(T)を示した。これらは、剛体式から得られるものである。また、同図中のCは、サージタンクから水車間の伝播波速を表す。ここに、管材の弾性係数(E),管径(D),管厚(δ),水の体積弾性係数(K),水の単位体積当りの重量(W), 重力の加速度項(g)である。
一方、鶴巻60)は、圧力管内に長さ方向に細分割され変化しない空気塊(断面方向の変化を扱う)を封入したチューブ(材質を簡単化のために無視)を持つ場合の伝播波速の理論解を断熱方程式の導入により求めている。それが図1.2.18である。図中の条件における空気混合率における伝播波速を求めている。すなわち、定常圧(H)10mにおいて、空気を含まぬCは837m/sに対し、空気混合率が10%のCは53m/sと低下する。ここで、水撃圧を簡単に算出できる条件は、端部の閉鎖所要時間、すなわち、伝播波が発生点から反射面(例えばサージタンク水面)に到達し、さらに、発生点まで戻る所用時間前に閉鎖が終了する所要時間の極めて短時間の閉鎖の場合のみ、Joukowskyにより、図1.2.19のΔH=(C/g)Δvの如く求められている。ここで、Joukowskyの仮定が成り立つ場合と仮定して、マンホール蓋部に発生する水撃圧を求めてみよう。仮にマンホール蓋下面の水位上昇速度(Δv=0.3m/s)のときの水撃圧(ΔH)を空気を含まぬC=837m/sと、空気混合率が10%のC=53m/sについて求めると水撃圧は25.6mと1.6mになる。すなわち、空気泡を10%含むと水撃圧は極端に低下する。なお、図1.2.19には、ジット噴流が定常的に当る場合の力、また、開水路流の中の杭に掛かる定常流体力を記した。すなわち、水撃圧と定常的な力は全く異なるものであること、さらに、サージとも異なる現象であることを説明するための図である。また、図中に鉄の1cmは水の7.8cmの水頭とバランスするものであり、わずかな、水頭で浮上することを示した。
![]()