水理気象学(hydrometeorology)と可能最大降雨量(PMP:Probable Maximum Precipitation) (06.6.1;6.9;6.15;6.16;6.17;6.21;6.23) 鶴巻有一郎
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雲は、なぜ出来るのだろうか?、雲から雨への変化は?、雨の強度が、どうして、異なるのだろうか?、どうも、日本の河川関係者の多くがこのことを理解できていないように思うので、そのことを理解し、可能最大降雨量の考え方に迫ってみることとする。
なお、河川へ流れる水量の源である降雨形態、強度、継続時間等の気象学の内でも特に河川へ結びついた降雨の部門を、USAでは、hydrometeorology(水理気象学)といっている(文献3から)。一方、水文学(hydrology)は、hydrometeorologyや、流出過程を含む、広範な分野である。そして水文学の流れの部分が流体力学、水理学であり、実河川への対応が河川工学である。ここでは、水理気象学について、論ずることとする。
筆者が、海外プロジェクトに係わる技術者、確率論に飽き足らない技術者に贈る分野の一つでもある。

上図のコピー元:下記参考図書(6)のpp.81からであるが、さらなる元は、地学団体研究会編:気象U,新地学教育講座15,東海大学出版会,p.15,1977である。
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本日(06.6.14)、参考図書(9)の USAの水理気象レポートNo.55(HMR No.55)(1984)のまとめ(2.4.6節)が終了し、HPに掲載することが出来た。そこでWebを調べると、このレポートは1988にHMR No.55Aとして更新されていることが分かった。見直し作業が成され、3地域の変更がなされていた。しかし、技術的思考方法、本HPでの掲載図表は変わっておらず、本HPでの変更はない。興味のある方は、
http://www.weather.gov/oh/hdsc/studies/pmp.html
からレポートがダウンロードできるので、PMPをより詳しく学んでいただきたい。レポートの入手が簡便に行えるUSAが羨ましい。
追記(06.6.23)
http://www.bom.gov.au/hydro/has/
から
Bureau of Meteorology (2003) The Estimation of Probable Maximum Precipitation in Australia: Generalised Short-Duration Method, Bureau of Meteorology, Melbourne, Australia, June 2003, (39pp).
のレポートのダウンロードができる
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参考図書
1)Ven Te Chow,David R.Maidment,Larry W.Mays
”APPLIED HYDROLOGY”,McGRAW-HILL
2)近藤純正著:水環境の気象学、朝倉書店
3)野満隆治原著、瀬野錦蔵補訂:改訂増補 新河川学、樺n人書館刊
4)矢野勝正著:洪水特論,理工図書
5)岸保勘三郎著:数値予報新講、地人書館
6)室田明編著:河川工学、技報堂出版
7)奥田毅、真室哲雄:基礎物理学上巻、内田老鶴圃
8)M.R.Kennedy: THE ESTIMATION OF PROBABLE MAXIMUM PRECIPITATION IN AUSTRALIA ― PAST AND CURRENT PRACTICE, Bureau of Meteorology, Department of Science AND Technology, pp.26-52
9)J.F.Miller,E.M.Hansen,D.D.Fenn: Probable Maximum Precipitation Estimates-United States Between the Continental Divide and the 103rd, Meridian,
U.S.DEPATMENT OF INTERIOR, BUREAU OF RECLAMATION, HYDROMETEOROLOGICAL REPORT NO.55,1984
10)土木研究所資料:日本の主要地点における可能最大日雨量−湿度補正法による推定結果−、土研資料第1392号,昭和53年7月.
11)裏戸勉、中村昭、長谷川修:可能最大日雨量の試算、土木技術資料20−8(1978),pp15−20.
12)吉岡和徳:最大可能降水量の一推定法、土木技術資料17−8(1975),pp47−48.
13) D.H.PILGRRIM, F.I.E.AUST: Estimation of Large and Extreme Design Flood, The Institution of Engineers,. Australia. Civil Engineering Transactions, 1986
14) Donald W.Newton: Realistic Assessment of Maximum Flood Potentials,ASCE,905-918
15)Kuniyoshi Takeuchi, Kazuhito Tsuchiya: On the Number of Data Necessary to Estimate a Design Flood, 6th Congress Asian and Pacific Regional Division, IAHR, Kyoto Japan, 20-22 July 1988. pp.261-268.
16)吉野正敏著:気候学、地人書館
17)小倉義光:大気の科学、日本放送出版協会
18)高橋浩一郎:天気予報の科学、日本放送出版協会
19)日本気象学会編:気象科学事典、東京書籍
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1)物理現象(06.6.1)
1.1)水蒸気(water vapor) (06.6.1)
1.2)密度(density)と蒸気圧(vapor pressure)(06.6.1)
1.3)静的大気柱における水蒸気(Water Vapor in a Static Atmospheric Column)(06.6.1)
1.4)可降水量(Precipitable water)(06.6.1)
1.5)雷雨セル・モデル(Thunderstorm Cell Model)(06.6.1)
1.6)簡単な地形モデル(06.6.1)
1.7)まとめと、実際の雲のスケールと降雨最大記録(06.6.1)
1.8) 気象学入門のための用語と現象 (06.6.9)
2)可能最大降雨量(Probable Maximum Precipitation :PMP)(06.6.1)
2.1)PMPの定義(06.6.1)
2.2)PMPにたいする信憑性(06.6.1)
2.3)統計学的手法の問題点指摘(06.6.1)
2.4)PMPの推定方法(06.6.1;6.15)
2.4.1)参考図書(3)「改訂増補 新河川学」から(06.6.1)
2.4.2)参考図書(11)「土木技術資料20−8」から(06.6.1)
2.4.3)参考図書(10)「土研資料第1392号」から(06.6.1)
2.4.5)参考図書(1)”APPLIED HYDROLOGY”から(06.6.1)
2.4.7) 2.4.6節のまとめを終えて(06.6.16)
2.5)既往最大降雨量記録に対するPMPの倍率(κ)(06.6.1)
2.6) 統計確率値にたいするPMPの倍率(06.6.1)
2.7)Generalized PMP(06.6.1)
2.8) PMPの算出結果分布図集と関連図集(06.6.1)
3)例題集 ()作業中
あとがき (06.6.21)
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1)物理現象(06.6.1)
気象観測値として一般に地上で計測されている項目は気温T(℃またはK),気圧p(hPa),相対湿度Rh,風速V(m/s)である。これらの値をつかって、雨となる空気の持つエネルギーを把握する。
1.1)水蒸気(water vapor) (06.6.1)
空気の移動上昇現象にあって、空中に含む水蒸気の量の一部が雨に変換するのであるが、水蒸気が凝結し雲を形成し、雲粒が集まって雨になる。すなわち、水蒸気の流れのエネルギー・バランスの式が降雨の総量変化を捉えることとなる。式はReynolds transport equationから次のようである。
(1)
ここに、c.v.: control volume; c.s.: control surface
q=ρw/ρ (2)
q:比湿(specific humidity);ρw:水蒸気の密度;ρ:湿潤空気の密度(普通の空気の密度のこと(kg/m3))V:気体の流速
であり、これらの、ファクターが今後の考察の重要項になる。まず、地上の観測値とそれらファクターを関係付ける必要があるのである。
1.2)密度(density)と蒸気圧(vapor pressure)(06.6.1)
湿潤空気の密度ρ(kg/m3)は湿潤空気の圧力p(hPa)と水蒸気の圧力e(water vapor pressure)(hPa)と気温T(℃)の関係で表される。(本HP:打ち水:式(6.1))
(3)
すなわち、p,Tは観測値を適用できるが、水蒸気の圧力eを知る必要がある。観測値のRh=相対湿度(relative humidity)は水蒸気の圧力eとes=飽和蒸気圧(saturated vapor pressure)(hPa)の関係で表され、
Rh=e/es (4)
e=Rh es (5)
の関係がある。水蒸気の圧力は温度によって、一定の限度(es)があって、それを飽和蒸気圧といい
(6)
の関係がある。よって、観測温度T(℃)を式(6)に代入、es=飽和蒸気圧(hPa)を求め、さらにRh=相対湿度の観測値とesの関係式(5)から、水蒸気の圧力eが求められる。よって、式(3)から湿潤空気の密度ρが得られることとなる。なお、式(6)は文献(1)(Raudkivi,1979)からのものであり、文献(2)ではTetensの近似式(本HP:打ち水:式(6.6))を記している。
次に、式(2)の水蒸気の密度ρwを求めることとする。
Daltonの法則から、水蒸気圧(e)は、
e=ρwRT (7)
である。ここに、R:比気体定数;注意ここでのT: 温度(K) であり、 K=273.15+℃の関係がある。しかし、Rが未定である。一方、湿潤空気の圧力(p)から水蒸気圧(e)を引いた値は乾燥空気の圧力であって、
p−e=ρdRdT (8)
ρd=(p−e)/(RdT) (9)
と表される。ここに、ρd:乾燥空気の密度(kg/m3);Rd:乾燥空気の気体定数=287J/kgK=287 m2/s2 K;T(K);1J=1Nm=107erg=1kgm2/s2;1hPa =100kg/ms2である。すなわち、式(9)の右辺項は既知数で演算され、乾燥空気の密度ρdが求められる。単位を示すと次のとおり
[ρd(kg/m3)=(p−e)(100kg/ms2)/(287 m2/s2 K)T(K)]
また、
ρ=ρw+ρd (10)
であるから、
ρw=ρ−ρd (11)
の関係から水蒸気の密度ρwが求められる。(例題1に計算例を示す)
以上で式(2)の関係は求められるのであるが、他の関係についても以下に示す。
p=ρRdTv (12)
は、湿潤空気の状態方程式であって、式(8)と同形式である。ここに、Tv:仮温度(virtual temperature)と言い、
Tv=(1+0.608q)T (13)
である。ここでのTの単位は(K)である。このため、式(12)は
p=ρRd(1+0.608q)T (14)
であるから、比湿qについてまとめると
1+0.608q=p/(ρRd T)
q={−1+ p/(ρRd T)}/0.608 (15)
となり、式(2)は式(15)、(3)から決定される。また、ボイル・シャールの法則から
p=ρRT (16)
であるから、式(14)と比較することで
R= Rd(1+0.608q) (17)
の関連がある。
また、文献(1)では、
R=Rd/0.622 (18)
であり、式(8)から、
p=ρdRdT+e
=ρdRdT+ρwRT
=[ρd+(ρw/0.622)] RdT (19)
また、
q=0.622e/p (20)
としている。しかし、文献(2)では、
ρw=0.2167(e/T) ;e:hPa ; T(K) (21)
r=ρw/ρd= 0.622e/(p−e)=0.622(e/p)/{1-(e/p)} (22)
ここにr:混合比(mixing ratio)
q=ρw/ρ=ρw/(ρw+ρd)=r/(r+1)
=0.622e/(p−0.378e)=0.622(e/p)/{1−0.378(e/p)} (23)
としており、式(23)と式(20)が多少異なっている。しかし、文献(5)では、式(23)の近似解として、式(20)を記している。
また、飽和水蒸気圧の温度変化率の式に文献(1)は
(24)
T(℃)を掲載しているが、文献(2)では、
(25)
ここにRw:水蒸気の気体定数=461.5(J/(kgK))=461.5(m2/s2 K)、ι:蒸発の潜熱=2.5x10^6−2400T(J/kg)=2.5x10^6−2400T(m2/s2)
を掲載している。
また、文献(2)は、露点Td=(dew point)について次のように述べている。
湿潤空気が冷却されて飽和に達する温度を露点と言う。なお、0℃以下のときに、氷の面にたいして飽和のときを霜点(frost point)という。霜点は、露点より高温である。通常の気象データでは、とくに断らなければ、0℃以下であっても水の面に対して飽和になる露点で示される。
露点に達すると凝結が始まるのであるが、この水蒸気の相の変化について、文献(5)は、下図のシリンダー内の気体を圧縮する場合の変化を例に説明しているので紹介する。
図aは、シリンダーを圧縮し始めるとO点から C点へと変化する。これは、Boyleの法則であって、温度一定のとき、pv=const. であり、直角双曲線となる。水蒸気を有する場合(図b)は、O点からA点に達したとき、凝結が起こり、水が発生する。AからB点間は、水蒸気と水の共存状態であり、このときの水蒸気圧eを、飽和水蒸気圧esと言う。温度10℃の場合のes は、12.28mb=12.28hPaである。B点からC点間は全部が水に変化し、容積はほとんど変化しない。
なお、「理想気体または完全気体」の定義は、BoyleとCharleの二法則が完全に成り立つ仮想的な気体のことであって、現実的には、圧力を極端に低くとった希薄気体と考えられている。ここに、Boyleの法則とは、温度一定のとき、pv=const. であり、Charleの法則とは、一定圧力の下で、温度(t(℃))に気体の体積(v)は一次比例v=v0(1+αt)するとするものである(α=1/273)。
1.3) 静的大気柱における水蒸気(Water Vapor in a Static Atmospheric Column)(06.6.1)
理想気体にあっては、
p=ρRT (16)
[(kg/ms2)=(kg/m3)(m2/s2 K)(K)]
であり、高度変化に対し静力学の式は
(26)
[(kg/ms2)/(m)=(kg/m3)(m/s2)]
である。ここでは、文献(2)の関係式を用いて以下に論じてみよう。
式(26)のρに式(12)の ρ=p/(RdTv ) を代入すると
(27)
ここで、高度zによって地上気温Tsから一定の温度低下(α=6.5℃/km)を示すことから
TV=Ts−αz (28)
であり、これを微分することで
dTV=−αdz (29)
であるから、式(27)は

(30)
と書き換えられる。ここで、地上z=0での気圧をpsとして積分すると、式(30)は
(31)
ここにκ=g/(αRd)である。(例題2に計算例を示す。)
一方、文献(1)では、式(12)を用いず、式(16)に依っているため、κの中のRdをRとして記述しているのが、相違点である。
1.4)可降水量(Precipitable water)(06.6.1)
可降水量(Precipitable water)は、空気柱に含む水蒸気を全部凝結させたときの量である。まずこの問題から考えてみる。
文献(1)は、面積A(u)、高さdz間の空気量ρAdzに含まれる水の量はqρAdzであるから高さz1(m)からz2(m)の間の可降水量mp(kg)は
(32)
[mp(kg)=ρ(kg/m3)A(m2)Z(m)]
であり、さらに、分割間では
(33)
と記している。また、降雨高(降雨強度i(m))に変換するには
i=mp/(σwA) (34)
[(m)=(kg)/((kg/m3)(u))]
である。ここに、σw:水の密度(1kg/m3)である。
一方、文献(3)では、次のような内容に記されている。
水蒸気の密度をρw(kg/m3)とし、単位面積上から高さdzの気柱に含まれる水蒸気の量をdMと置くと、高度h(m)までの水蒸気量M(kg/m2)は次のようである。
(35)
[(kg/m2)=(kg/m3) (m)]
また、気圧p(hPa=100(kg/ms2))は上空の重さのことであるから、
dp=−ρgdz (36)
である。ここにρ=空気の密度(=湿潤空気=普通の空気のこと)(kg/m3)、g=重力の加速度(m/s