八角形要素を使った新平面タンクモデル氾濫流シミュレーションプログラムの開発
(06.11.1;07.10.24;11.6;11.7)鶴巻有一郎著
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まえがき(06.11.1)
筆者が伊勢湾台風高潮災害(1959年9月26日:死者4700人、行方不明401人)で低地の海岸から、高地に駆け上がる広範な氾濫流を再現計算したのは1970代の後半のことである、それは、 鶴巻有一郎,奥田朗,神月隆一,“平面流れとして取り扱った氾濫シミュレーションについて”,第25回水理講演会論文集,1981年2月,pp.249-256に発表し、その論文は、本HPでも掲載している(リンク先np 15)。その後、学会は有限要素法を用いた方法等に進み、近年は地下街への氾濫流なども扱われているようである。
しかしながら、解析手法は、簡便であり、分かり易いことが、入門者にとっては必要不可欠なことであると筆者は考えている。また、数値シミュレーションを解説した書籍は多々存在するが、理論式を階差方程式に持ち込む場合の考え方を明確に示した資料は少ないように思われる。すなわち、顧客・大先生方は、基本方程式はチェックするものの、実際に扱われている階差式までは興味がなさそうである。しかし、実際は、その部分が最も重要な力学要素の取り扱いのように思っているが、今日までそのことを問う方にめぐり合ったことが無い。もっとも、シミュレ−ションプログラムのコードを見れば一目瞭然ではあるが、なぜ、そのように変形しているのかである。そこには、開発技術者のノウハウが詰まっているのである。
本稿は、「VBA動画」の一環として、ゴルフボールが池に落下したときの「波紋」解析の一手法として、小生らが開発した「平面タンクモデル」を使用して見ようと考え、改めて、前記論文を読んでみた。その結果、論文には書かれていない「数値計算法の考え方」のノウハウを紹介すると同時に、「平面タンクモデル」のグリッドを八角形要素に変更した場合の「新平面タンクモデル氾濫流シミュレーションプログラム」についての紹介とVBAによる「八角形要素を使った新平面タンクモデル氾濫流シミュレーションプログラム」を作成し、ここに示すこととする。
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目次
1)「平面流れとして取り扱った氾濫シミュレーションについて」(06.11.1)
2)数値計算法の考え方(06.11.1)
3)「八角形要素を使った新平面タンクモデル氾濫流シミュレーションプログラム」(06.11.1)
後書き(06.11.1)
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わがモデルを「ポンドモデル」ではなく「平面タンクモデル」と言ってください!(07.10.24)![]()
1)「平面流れとして取り扱った氾濫シミュレーションについて」
皆様には、標記の論文(PDFにて掲載:リンク先np 15)に目を通して頂いたものとして、話を進める。ここでの、基本式は圧力管路流の剛体方程式が採用させ、各グリッドを一つのタンクに見立て、タンク間の中心間を結ぶ連通管で構成されている。このため、下図の四方向の流量の連続方程式と

(1)
とそれぞれのタンク間の運動方程式
(2)
からなっている。この式は、本HPの「圧力管路流・サージタンクの水位変動を解析する理論」(リンク先:np42m5)にも掲載されている通りである。また、タンク間の連通管の幅は
(3)
であると仮定し、隣接グリッド間のBを比較、その小なるものを採用し、断面積を
(4)
であると扱っている。また、損失水頭には擬似等流状態を想定し
(5)
の形を取っている。これが、基本方程式であるがそれを、実際どのように階差方程式に持ち込んでいるかは論文には記していない。
2)数値計算法の考え方
一般的には式(2)から、
(6)
の如き階差式を連想しよう、しかし、このような、階差式は、本HPの「圧力管路流・サージタンクの水位変動を解析する理論」(リンク先:np42m5)のように、各タンクに十分なる水深を有する場合の、計算値を不安定にすることの無い場合に採用されている。しかしながら、氾濫流のように比較的浅い水深と空のグリッドへの流量を伝播させる場合、上式の加速度項を主体に扱った解法ではなく損失水頭項を主体とする次の考え方を導入することで解の安定が図られる。
すなわち、式(2)から
(7)
である。ここで、Q1>0の場合とQ1<0の場合の式(7)を考えてみる。なお、時間項t、t−1を取り入れ、かつ、

と置く。まず、Q1,t>0の場合の式(7)は

Q1,t>0,A>0を考慮し
(8)
を得る。一方、Q1,t<0の場合の式(7)は

Q1,t<0,A>0を考慮し
(9)
を得る。
ここでは、Q1,tの符号の判定はB+ Q1,t-1の符号の判定を代用し
B+ Q1,t-1>0のとき式(8)を
B+ Q1,t-1<0のとき式(9)を
採用する。同様に四方向の流量を定め、式(1)に代入することで解析する。(このように、基本式のみを眺めてもその本質を見たことにはならないのである。そこで扱う現象はどのようなものかで、シミュレーションの手法も変わるのである。)
また、氾濫流解析における定数と変数は
地形定数:Fi,j,Zi,j, ,L1,L2,α1,α2
変数: ht-1,i,j, Qt-1,1,Qt-1,2
であるが、演算は、全グリッドで行うのではなく貯留グリッド周辺間で行われるのである。すなわち、下表のようになる。
|
自己ブロック |
相手ブロック |
その他の条件 |
計算の必要性 |
|
水なし |
水なし |
|
パス |
|
水あり |
水あり |
|
計算 |
|
水あり |
水なし |
自己水位>相手地盤高 |
計算 |
|
自己水位<相手地盤高 |
パス |
||
|
水なし |
水あり |
自己地盤高>相手水位 |
パス |
|
自己地盤高<相手水位 |
計算 |
3)「八角形要素を使った新平面タンクモデル氾濫流シミュレーションプログラム」
VBAを用いた新平面タンクモデル氾濫流シミュレーションを作成するに当たり、ここでは、二つの点を改良した。それは、等間隔で計測されたグリッド標高を平均化することと、隣接四方向グリッド間の流量の授受を、八角形要素の仮想形状による八方向の流量の授受に変更した点である。
まず、グリッド標高の平均化は下図の通りである。

次に、四辺の流量授受から八角形流量授受への変更の概念図は下図の通りである。


このように八方向の流量授受を取り入れると比較的スムースな拡散現象を表すことが出来よう。まず、式(1)は次のように書き換えられる。
(9)
隣接間の幅は八角形のため、四辺形の半分となり
(10)
である。連通管の断面積は
(11)
である。運動方程式は式(2)と下記の式(12)からなる。
(12)
プログラムはシート4とシート2がデータの入力箇所である。シート2はグリッド交点の標高データである。シート1のボタンが演算開始であり、グリッドの平均化標高が色分け表示される。下記の図は横6.6km、縦6kmを100m間隔でグリッドした地形の平均地盤高図である。最高標高と最低標高間を6段階の色に分けている。高いところから低いところに向かって、濃い緑、明るい緑、薄い緑、薄い黄色、ベージュ、灰色の順である。

また、シート3には、平均化された標高の値を記している。演算条件としてのシート4の入力項は
四辺グリッドの一辺長:L(m)=100m
計算時間間隔:DT(sec)=1
四辺グリッドの面積:F(m2)=10000
氾濫原のマニングの粗度係数:n=0.03
グリッドの行数:60
グリッドの列数:66
破堤ブロックの行列:(59,32)
破堤ブロックの外海潮位=4m一定
破堤幅:L/2=50m
である。
演算結果は、シート1に10分間隔の氾濫水深を色分け表示される。水深1m以上を赤、1mから0.5m間がピンク、0.5mから0.3m間が青、0.3mから0.1m間がスカイブルーの色分け図である。なお、30cm以上は床上浸水にあたる。

一時間後の10cm以上の浸水域図 二時間後の浸水域図
各グリッドの演算結果は、シート5に水深を、シート6にQ1を, シート7にQ1Cを, シート8にQ2を, シート9にQ2Cを, シート10に演算対象地域のインデックスを記している。
この氾濫解析ソフトのダウンロードは移動しましたここをクリックください。
hanran4.xls 333KB
後書き (2006.11.11)
ここで作成した新平面タンクモデルは、氾濫原内の流動の基本形である各グリッド間の流動について作成されている。しかしながら、実用にあたっては、さらに、小河川内の流下伝播現象、連続盛土堤による流動の阻止・越流・カルバート内の流れ等を含める必要がある。小河川内の流下伝播についても、平面タンクモデルは対応するので、その追加プログラムはそう難しいものではない。さらに、連続盛土堤の設定も各タンク間に設定すればよいから、対応は容易であろう。そのような物を付け加えると同時に、時々刻々変動する流れのエネルギーを算出したいものである。氾濫災害による被害評価には最大水深と湛水時間の要素と単位幅当たりの流れのエネルギーの要素がある。流れのエネルギーの要素こそが死者行方不明者発生に関連する要素であり、これまで、筆者が論じてきたことである。それが、小生が1970年代の後半に作ったモデルであった。
わがモデルを「ポンドモデル」ではなく「平面タンクモデル」と言ってください!
(07.10.24;11.6:11.7)
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小生らがこの氾濫流解析モデルを開発した当時、流出解析モデルに菅原正巳先生の「タンクモデル」はすでに知られていた。しかし、我々は、水力発電に用いられるサージタンクを地形上に敷き詰めたタンク群と連通管群をイメージして「平面タンクモデル(Bi-dimensional Tank Model)」と名付けている。
先日、氾濫流解析文献のWeb検索をしていると、小生らの論文を参考文献に引用し、京都市内の地下街を含む氾濫流解析に適用している文献を見つけたので紹介すると同時に、本HPに散在する関連文のリンク先をまとめ、かつ、当時の思い出を少し付け加えてみたい。
その文献とは
深草 新,戸田圭一,宇野伸宏:都市水害に起因する道路交通障害についてー京都市域を対象としてー,自然災害科学,J.JSNDS 26-2 pp.177-188 ,2007
http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/jsnds/download.cgi?ssk_26_2_177.pdf
この文献では小生らの手法を「ポンドモデル」と言っているようである。しかし、開発者自身は当初から「平面タンクモデル(Bi-dimensional Tank Model)」とわが論文の中で宣言しているのだが・・。
小生らが、「平面タンクモデル」を開発する以前の氾濫流解析手法は、地形の高低差を考慮し地形上に仮想河道をあらかじめ設定し、断面間隔に切断して連続した池を設定したモデルとしていた方々がおられた。すなわち、水の授受を、仮想設定流動方向の連続した「池」に流量の連続方程式のみを用いて伝播させていたのである。池(ポンド)への流入量と流出量のみを扱うのであるから(または、越流のみを扱う)そのモデルをポンドモデルと称していたのである。しかし、小生らのモデルはそのような考え方と全く異なることは、読者にはすでにご理解いただけよう。すなわち、運動方程式が関与していること、さらに、地形を細分化し、流動方向をあらかじめ設定していないことである。この扱いによって流動は、もしかりに低地から湛水しはじめても、高地に浸水し平面的な流動を起こすモデルを作ることができるのである。
お役人の誰が、旧態モデルのポンドモデルに敬意を称し、わがモデルをそのように名付けたかは知らないが、土木研究所が氾濫流解析に関与するようになったのは小生らのモデルが各設計会社に普及し、かつ、小生らの論文が公開された後であったような気がする。そして、小生らのモデルの呼び名は二転三転さまざまに呼ばれていたようである。その当時、いやな思いをしていたが、甲と乙の関係では無関心を装っているしかないのである。
そして、わが論文を引用してくれた論文は26年後の2007年になって、上記の論文が初めてなのである、しかし、その呼び名は誰かが付けた呼び名をそのまま採用している様である。(わが論文の中を読んでください明確に「この水理モデルを平面タンクモデルと名付ける」と記しております)
以前の官側(発注者)は、問題を設計コンサルタントに相談し、コンサルタントの対策案を検討後に発注していた。しかし、コンサルタントのノウハウで作られた理論やプログラムまで官側の物であるとし、プログラムを同業他社に無料配布し、さらに、その手法を開発した者が名付けたモデル命名をも尊重せずに、何ら相談もなくご都合次第でたびたび改名するしだいであった。当時、受注側の立場はそのような状態に何ら異議を唱えられる状態ではなかったのである。そのような状態の中、開発者として記録を残す必要があると考えわが論文を土木学会水理講演会論文集に公表したのである。
とにかく、引用されたのは、本HP が少しずつ関係者に知れ渡ってきたためなのだろうか、そうであれば嬉しいのですが・・・
もし、われらの論文を引用される方が今後おられましたら、「平面タンクモデル(Bi-dimensional Tank Model)」と呼んでください。
なお、本HPに散在する氾濫流に関する記述箇所は次の通りですので、これにも目を通してください。
関連文
11)ハザード・マップ(氾濫浸水図)で十分か?NO;カトリーナ:ニューオーリンズ高潮(2005.8)災害に関連して