「貯留槽(ポンド)」と「平面タンクモデル」の力学的扱いの相違
鶴巻有一郎著(07.11.19)
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小生らの開発した氾濫流解析モデル名は1981年2月の発表論文の中で「平面タンクモデル」と名付けているが、それを、26年後の今年、初めて引用された論文は「ポンドモデル」として紹介している。小生らの開発手法を名付けるにあたって、「地形上に平面的に敷き詰めたサージタンク群の流動解析モデル」とでも名付けたかったが、それでは長すぎるので、短縮して「平面タンクモデル」の名称を付けたのである。すなわち、モデルを発想したときの基本概念は、発電水力工学で扱うサージタンクの機能からなのである。
しかし、「ポンドモデル」と最初に言われた方や、氾濫流を扱っておられる河川工学関係の多くの方々は、「貯留槽(ポンド)」、「サージタンク」と「調圧水槽」の力学的相違を明確に知らずに使用しているのでは無いかと思われる節がある。
「調圧水槽」については、洪水量の一部分を一時貯留する長大トンネルの地下調整池の構造図を見ると「竪坑(立坑)」の中に「調圧水槽」の文字がある。
http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/topics/etc/161022.html
http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/works/saigai/sonae/gaikaku/index.html
このため、「貯留槽(ポンド)」、「平面タンクモデル(サージタンク)」と「調圧水槽」の力学的相違について解説を加えることとする。
一言でいえば、「ポンド」は“流入量と流出量の差に支配された水たまり(池)の水位変動を持つ”のである。一方、“サージタンク水位は流れの動水勾配に支配されたポテンシャル水位を持ち、かつ、流入量と流出量の差に支配されている。さらに、サージタンク間の水位差はタンク間の流動の慣性力と損失水頭の和に等しい”のである。また、“調圧水槽は、発電水力工学の中ではサージタンクの和語のように使われているが、実際は、水車の閉鎖弁から発生する水撃圧を反射する目的ためのもの”である。このため、「調圧」なのである。すなわち、「調圧水槽」は、水撃圧を発生する水車やポンプ機器に隣接して設けられる竪坑のことであるのに対し、「サージタンク」は流量変化に伴う圧力管路内流体の慣性力を吸収するサージングのための竪坑に使用される言葉であるが、発電水力施設の場合、この水槽が併用されているのである。
それを図化し、基本方程式について説明すると次のようである。

「ポンド」は、流量の連続方程式からなるものであって、
(1)
で表される。すなわち、変数Qin;Qout;hの3項に対し、式が一個であるから、Qin;Qoutの2項が既知である場合のみ扱えるのである。ここに、Qin=流入量;Qout=流出量;F=水面積;h=水深;t=時間である。
一方、「サージタンク」は式(1)と、さらに下記の運動方程式
(2)
の二式からなるものである。ここに、z=地盤標高、添え字u=隣接タンクを表す、L=隣接タンク間の管路長、A=管路断面積である。αの設定に当たっては、速度水頭の項を考慮するかどうかの選択がある。筆者らの氾濫解析の論文や、本HPの八角形平面タンクモデルの記述においては、損失水頭の項のみを扱っているが、速度水頭項が影響すると思われる圧力導水路トンネル(連通管)の取り付け形状を有する場合について考察してみよう。すなわち、隣接タンクが貯水池であり、速度水頭と摩擦損失水頭を考慮する場合は
(3)
である。ここに、n=マニングの粗度係数、R=径深である。式(3)の右辺項には構造形状に応じて、流入、曲り等の損失水頭を付加すればよい。また、管路流の管路断面積(A)は定数項であるのは当然のことである。
「サージタンク」の場合は、変数Qin;Qout;hの3項に対し、式が二個であるから、Qoutのみが既知である必要がある。
ところで、開水路流の基本方程式を併記し、さらに、詳しく管路流と比較して見ることとしよう。開水路流の流量の連続方程式は
(4)
である。ここに、v=流速、△xは断面間の距離でありLに当たる。式(1)は単位時間内のある点の水平面積の水位上昇分(すなわち体積の変化量)はQinとQoutの差であるとしているのに対し、式(4)はある区間内の単位時間あたりの断面積の変化は、上下流間の流量の変化率に相当すると言っており、水位変化の点から見ればd(常微分)と∂(偏微分)の相違はあるものの全く同意の式であることが分かる。次に、開水路流の運動方程式は
(5)
(水面勾配)=(加速度勾配)+(速度水頭勾配)+(摩擦勾配)
である。ここに、θ=水路勾配である。緩勾配の一般的な水路にあってはcosθ≒1; sinθ≒tanθであるから式(2)との関係は
sinθ≒ tanθ=−(z−zu)/L (6)
である。よって、式(2)をLで割ると
(2)’
となり、式(5)と式(2)’はd(常微分)と∂(偏微分)の相違はあるものの全く同意の式であることが分かる。
d(常微分)と∂(偏微分)の相違は、圧力管路流と開水路流では断面積Aの扱いの相違があるためであって、圧力管路では定数、開水路流では変数であることによる。
「平面タンクモデル」ではAを定数とせず、隣接タンクの水深の平均値に隣接タンクの幅を掛け算したモデルを採用している。このAのモデル化はあるものの、式(5)と式(2)’は同意であることから、その氾濫流況は実際に近似するものになるのである。
「平面タンクモデル」と「ポンドモデル」の相違は以上のごとく全く別物なのである。先日、Webで「平面タンクモデル」を検索して見ると
福井県嶺南地域流域検討会ニュースNO.8(平成17年3月)
http://info.pref.fukui.jp/kasen/reinan-8/reinan-8%20shingikosshi.pdf
のなかに「平面タンクモデル」の語句が存在しているが、上記の如き相違を知った上で使用されていればいいのだが?また
高木朗義・武藤慎一・太田奈智代:応用経済モデルを用いた治水対策の経済評価,河川技術論文集,第7巻,2001.6,pp.423-428
http://www1.gifu-u.ac.jp/~a_takagi/paper_pdf/paper24.pdf
の記述では「氾濫解析には、開水路二次元型タンクモデル(平面タンクモデル)法を用いる。」と記されている。しかし、その手法の引用文献として
大都市における雨水整備研究会:大都市下水道事業の雨水整備に関する検討報告書その7−下水道雨水排水計画策定マニュアル−,pp.139-141,1997.
とあり、わがモデルは「開水路二次元型タンクモデル」などと呼ばれている様である?。また「ポンドモデル」について検索してみると
釧路開発建設部治水課○増田浩明、大束淳一、花巻雅人:釧路遊水地の流出特性について
http://www.hkd.mlit.go.jp/topics/gijyutu/pdf_files_h16/04anzen/aa-10.pdf
の中から抜粋すると
2 ) 既往の遊水地流出計算
釧路遊水地の貯留効果を考慮した流出計算は、昭和59 年の工事実施基本計画の改定にあたり、遊水地を水平貯留のポンドモデル( 一池モデル) で解析された。一池モデルは、遊水地への流入ハイドロを遊水地貯留量(H-V 関係)と出口の流出特性( H-Q関係) から逐次計算を行い、遊水地の貯水位と貯留量、下流への流出量の算出を行うものである。
と記しており、ポンドモデルの機能を正しく理解し、説明している文献もある。また
国土交通省、社団法人 国際建設技術協会: 建設技術移転指針 洪水ハザ―ドマップ・マニュアル概要版Summary of Flood Hazard Map Manual、平成15年3月
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/inter/keizai/gijyutu/pdf/flood_manual_j.pdf
のなかでは、
越流ポンドモデル
開水路ポンドモデル
氾濫ポンドモデル
の手法の名称が記載されているが、その内容については不明である。これらの種別について小生は知らないが、氾濫流を扱う場合、連続堤からの越流や、河川からの流入・流出の現象を扱うのは当然のことであり、手法として唱えるほどのことがあるのだろうかと思い、全く新しい概念のものだろうと期待している。おそらく、土木研究所資料の
末次忠司、桐生祝男、他1名:氾濫シミュレーション −氾濫原の合理的な土地利用を目指して−、土研資料、1983.2、1922号
吉本俊裕、須見徹太郎、他1名:開水路ポンドモデルによる氾濫解析、土研資料、1989年3月、2749号
末次忠司、海野仁、田中義人、小林裕明、栗城稔:氾濫シミュレーション・マニュアル(案) −シミュレーションの手引き及び新モデルの検証−、土研資料、1996年2月、3400号
を調べる必要があるのだろうが、小生の手元にはそれらの資料はない。読者の中にもし、それらの資料をお持ちの方がおられましたら、それらの、相違を教えていただければありがたい。
関連文
わがモデルを「ポンドモデル」ではなく「平面タンクモデル」と言ってください!
「引用」に当たっての「著作権」と「常識」
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