甲子園物語

第4回は、和田毅投手(浜田)をテーマに書いていきます。

 もう野球を辞めてしまおう、そう思った事もあるだろう。しかし、彼は戻ってくる事が出来ました。
 晴れの甲子園の舞台に。涙に暮れたあの場所に・・・。

 平成9年の夏。浜田は秋田商と対戦し、9回表を終わって3−1とリードしていたが、1勝の夢は目前になって逃げてしまう。
 連打を浴び、目の前に転がったバントの打球を、和田投手が悪送球。バックアップに入った大地本選手の
三塁への送球も逸れ、同点にされる。
 ここでアウトカウントのない浜田は、2人を敬遠して満塁策を取る。
 プロの投手でも2人続けて四球を故意に投げると、なかなかストライクが入らないという。当時、和田投手はまだ2年生。しかも、直前にしてしまった、自らのミスを悔いながらの敬遠はあまりにも酷だった。結局、続く打者には1球もストライクが入らないまま試合終了。
 九分九厘の勝利が見えただけに、涙が止まらなかった。
 「この悔しさをバネに、再び甲子園へ・・・」。この言葉を叶えることは、そう簡単ではなかった。
 逆に、一度絶望の淵に立つことになる。サヨナラ押し出しよりも辛かったのではないでしょうか。

 しかし、岩国高校との初戦の試合中、和田投手の体調に異変が起こる。
 なんと、利き腕である左腕上腕部の筋肉断裂したのだ。全治一年という診断。「間に合わないかもしれない」という思いが頭をよぎる。

 それでも諦めなかった。まず、上半身のトレーニングから始め、徐々に走りこみも行った。
 浜田は、春季県大会で優勝。中国大会もベスト4まで進出する。
 和田投手がボールを握られるようになったのは、5月から。もちろん、中国大会では無理をせず、打つ方でチームを引っ張っていった。
 この事を雑誌で知った私は、「出来れば投げて欲しいけれど、せめてサヨナラ負けの悔しさを晴らすことが出来たらいいな・・・」と思っておりました。

 夏の県大会、和田投手の背番号は、16番。
 浜田は準々決勝まで全てコールド勝ち。準決勝も、コールドになってもおかしくないような大差をつけて、決勝へ。
 決勝の相手は三刀屋。くしくも、春の県大会と同じ顔合わせになる。
 この大会初めて先制されるが、自慢の打線が爆発して逆転。和田投手も、本塁打を浴びながら要所を締めて優勝。エース復活といってもいい活躍だった。

 浜田にとって、甲子園で1勝する事は大きな意味がある。まず、あの悪夢のサヨナラの借りを返すこと。そして、島根県勢で続いている、9年連続初戦敗退の不名誉な記録を消すことにもなる。
 2回戦からの登場で、相手は、プロ注目のバッテリーを擁する新発田農。
 苦戦するかなと思ったが、相手のミスにつけこみ、逆転に成功。和田投手も立ちあがりこそ調子が良くなかったが、尻上がりに取り戻し、追加点を与えない見事な投球を見せる。
 9回は、さすがに「去年の事が頭をよぎった」と言うが、冷静に3アウト目を取った姿を見ると、もう前年とは全然違うなということを認識しました。

 3回戦の相手は帝京。新聞の前評判は当然、先入観なしで評価する私までも、帝京が有利だと思っていました。
 しかし、蓋を開けてみれば全く逆の試合展開。8回、和田投手は本塁打を打たれたが、悪かったのはここだけ。
 前年は自分達が押し出しで負けたが、ここは押し出しで決勝点。何とも因縁めいていた結末で、なんと、ベスト8入りを決めた。
 勝利が決まった瞬間、力強いガッツポーズが見えた。

 準々決勝の相手は、豊田大谷。
 初回に1点先制したが、直後に古木選手に打たれて3失点し、逆転を許してしまう。しかし、両投手とも粘り、互いに譲らないまま、豊田大谷の2点リードで9回を迎える。
 しかし、2アウトから四球をきっかけに二塁打とセンター前ヒットで同点に追いつく。そして、9回裏をしのいで延長戦に。
 延長10回裏、2つの四球で満塁にする。あの涙に濡れたあの日と同じシーン。迎える打者は、打撃が好調な四番の前田選手。
 前田選手は、「押し出しでもいいから、何としても決める」と思っていたらしい。しかし、2球続けてストライクが来たのでビックリして、打つ事に専念したという。
 結局、サヨナラヒットを打たれて負けてしまったが、前田選手も証言したように、強気に攻めた結果のサヨナラだけに、涙もないし、悔いもなかった。
 笑顔で、相手投手の上田(かんだ)投手に「頑張って」と声をかけることも出来た。

 その後早稲田大学に進学し、大学日本一も経験。そして2003年ダイエーに入団。
 今までとは違った輝かしい野球生活を送っている。

 自分だったら絶対逃げ出していたであろう試練に立ち向かい、見事に立ち直る事が出来た和田投手には、頭が下がります。
 あれだけの苦労をしていながら「苦労したんだ」という表情を見せず、今の野球人生を楽しんでいる姿にも脱帽です。
 そして、これからも元気な姿が見られる事を祈っています。