| 正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限 及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。 「プロバイダ責任法」といわれていますが、 実際にはプロバイダーの責任を制限しているものですから、 「プロバイダ責任制限法」とも呼ばれています。 |
| (趣旨) 第一条 この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。 |
他人の権利を侵害する情報でなければ対象外です。 「権利の侵害」の例 (1) 他人を誹謗・中傷するような情報「名誉毀損など」 (2) 他人のプライバシーを侵害するような情報 (3) 他人の著作権、商標権を侵害するような情報 (4) その他特定個人の民事上の権利を侵害するような情報 対象外 (1) わいせつな情報 (2) 青少年の健全な育成にとって望ましくないような情報 (3) 法令に反するものではないが有害な情報 出会系サイト オークションサイトを通じて被害にあった場合、「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった」といえるかどうかが問題とされているようですが、情報の流通それ自体で権利の侵害が発生することが必要ではないかと思われます。 |
| (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 |
|
「特定電気通信」とは、インターネットのウェブページ、掲示板など「不特定」の者に対して情報を送信する形態で行われる電気通信のこと。「特定」の者によって受信されることを目的とする通信は含まないことになります。 メール送信など「特定」の者に対する送信はスパムメールであろうと含まれません。(全てのメールは送信者が受信者をわざわざ指定している、「特定」の者に対する送信ととらえられているので)。 P2Pのファイル交換は、1対1の通信ですから、「特定」の者に対する送信ではありますが、WinMXをめぐる裁判では、ファイルが不特定の者によって受信されうる状態におかれたことをとらえて、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であると判断されています(東京地裁平成17年6月24日判決、判例時報1928号78頁)。 では、IDとパスワードがないと入れないような掲示板は「特定」の者に対する送信を予定しているので対象外となるのかどうか? |
|
「特定電気通信設備」とは、特定電気通信による他人の権利を侵害する情報の流通が問題になる場合に、その情報の不特定の者に向けた送信のために用いられる設備のこと。 |
|
営利、非営利を問いません。電気通信事業者だけでなく、大学、地方公共団体、電子掲示板を管理する個人等も本法律の対象となります。 |
|
| (損害賠償責任の制限) 第三条 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、 当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者「以下この条において「関係役務提供者」という。」は、 これによって生じた損害については、 権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、 次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。 ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。 |
| 「送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合」 特定電気通信役務提供者が技術的に削除等の措置を講ずることができない場合には責任を負いません。問題となる情報の流通を防止するため関係ない情報の流通を大量に遮断するしかない場合も削除等の措置を講ずることができない場合に含まれます。 |
|
|
| 情報の流通を知らない | 責任を負わない | |
| 情報の流通を知っている | 権利侵害について現実の認識がある | 責任を負う |
| 通常の注意を払っていれば認識すること ができたと認められる場合 |
責任を負う | |
| 問題とされる流通を知っていたことが前提とされているので、過失の前提の注意義務としてのプロバイダー等の常時監視義務は明確に否定されているという見解もあります。 何が「相当の理由」なのかは必ずしも明確ではありません。 |
|
| 送信を防止する措置は、表現行為に対する重大な制約となりうるものであるため、必要最小限のものであることが求められます。プロバイダーにとっては何でも削除していいということではないので注意が必要です。 |
必要な限度を超える場合の例
|
|
| 一定の場合には責任を問われないことを明確にすることで特定電気通信役務提供者の対応が過度に慎重にならないようにしている一方で発信者の表現の自由に配慮しています。 特定電気通信役務提供者が作為責任を負わない要件として、「その情報の流通により他人の権利を侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」とするだけでなく、表現者側に正当防衛等の違法性の阻却事由をうかがわせる事情がなかったことも含めることとし、「権利が不当に侵害されている」と規定しています。何が「相当の理由」なのかは必ずしも明確ではありません。 JASRACの管理する楽曲の違法アップロード、通常は明らかにされないタレントのプライバシー情報の掲載などは普通人の基準から考えてもこの条項にあたると考えられます。では政治家の電話番号はどうなんでしょう? |
|
| 侵害された者から (1) 当該権利を侵害したとする情報(侵害情報) (2) 侵害されたとする権利 (3) 侵害されたとする理由 を示して、送信防止措置を講ずるよう申出があること ↓ 申出を受けて、特定電気通信役務提供者は、発信者に対して、送信防止措置に同意するかどうかを照会する。 ↓ 発信者が照会を受けてから7日以内に反論がなされない場合には、特定電気通信役務提供者による必要最小限度の送信防止措置については、特定電気通信役務提供者は発信者に対して損害賠償責任を負わない。 特定電気通信役務提供者が削除等の措置を講じた場合の損害賠償責任の制限については、発信者が不法行為等の請求原因事実を立証した後に、特定電気通信役務提供者の側で抗弁として本法律所定の要件を主張・立証することになる。 特定電気通信役務提供者が他人の権利を侵害する情報を放置した場合であって、本法律による責任の制限に該当しないときでも、直ちに責任があるとされるのではなく、不法行為の要件などを充たす必要がある。 発信者が照会を受けてから7日を経過するまでの間の権利を侵害されたと主張する者に対する責任や、発信者から反論があって措置を採らなかった場合の権利を侵害されたと主張する者に対する責任については、不法行為等の要件を充たすかどうかで判断される。 |
送信防止措置を採った場合の発信者に対する損害賠償責任
↑ どれか一つでもあてはまれば発信者との関係では責任を負わない 照会を受けてから7日以内に「同意しない」旨の意思表示があった場合、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある」かどうかの判断をせざるを得ない。 |
| (発信者情報の開示請求等) 第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、 次の各号のいずれにも該当するときに限り、 当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、 当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。 |
| 発信者情報は、発信者のプライバシーおよび匿名表現の自由、通信の秘密によって保護されるべき情報であるので、正当な理由なく、発信者の意思に反して開示されることはあってはなりません。 一方、被害者にとってみれば情報を取得できなければ加害者の特定はできないことが多く、警告も出せず、訴訟もおこせないケースがありました。 本条項は、一定の要件が充たされる場合に限り、正当業務行為として特定電気通信役務提供者に課せられた守秘義務が解除され、開示請求者の請求に応じて発信者情報の開示に応じるべき義務が発生する旨を規定しています。 開示を請求する者は、発信者が開示に同意しない場合であっても、要件をみたす場合には、特定電気通信役務提供者に対し、裁判上または裁判外において、発信者情報の開示を請求することができます。 ある掲示板の主宰者がIPアドレス・タイムスタンプを開示してくれたとしても、さらにそのIPアドレスから発信者の利用したプロバイダを探し、当該プロバイダに開示請求することも認められると考えられます。 開示請求権が認められた結果、裁判所での門前払いということはなくなることが期待されています。 判決において開示請求が認容された場合には、その確定判決にもとづいて強制執行を行うことも可能ですし、裁判前に仮処分を行うことも考えられます。ただ、仮処分の場合、疎明は本案レベル(正式裁判なみに立証しないとだめだということ)、保証金の額(仮処分の場合、申し立てた者が保証金を納める必要がある)も高めに設定されると予想されます。 開示請求訴訟を受けた特定電気通信役務提供者は、発信者の利益を代弁することは考えられず、自己の故意または重過失があることの認定を避ける弁論だけをすることになるのでしょうか。 |
|
| 「明らか」とは、権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味します。「疑いを差し込む余地のないほど明らかだ」「外形的に明らかだ」ということを証明する必要があります。 発信者が開示に反対している場合、開示関係役務提供者において開示を請求した者の権利が違法に侵害されたことが「明らかである」と判断できるかどうかは微妙。 JASRACが管理しているような楽曲であれば明らかといえる場合もありますが、他の著作物の場合、類似しているかどうかの判断が困難ですし、誰が著作権者なのか簡単には調査できません。 |
|
| 具体例 (1) 損害賠償請求権の行使 (2) 謝罪広告等の名誉回復措置の請求 (3) 一般民事上、著作権法上の差止請求 (4) 発信者に対する削除要求 当てはまらない場合 (1) 不当な自力救済を目的とする開示請求権の濫用のおそれがある場合 (2) 賠償金の支払い等により損害賠償請求を行う必要性自体が 消滅している場合 (3) 行為の違法性を除く不法行為の要件を明らかに欠いており、 損害賠償請求を行うことが事実上不可能と認められる場合 |
|
| 原則として発信者に当該開示請求に関する意見を聞かなくてはなりません。 意見聴取にあたって権利を侵害されたと主張する者の情報をどこまで発信者に開示するのか? 開示請求があったことについて発信者の意見を聴く ↓ 発 信 者 ↓ ↓ 同意 不同意 ↓ ↓ 開示しても問題なし 「侵害が明らか」かつ「正当な理由」の判断を迫られる |
|
|
| 発信者の情報は目的の範囲内(その情報にもとづいて内容証明を送るとか訴訟を提起するとか)でのみ使用することができます。 |
|
| 開示関係役務提供者が開示請求に応じなかったことで、開示を請求した者に生じた損害については、事後的にその判断が誤っていたことが明らかになったとしても、故意または重過失による場合を除き、損害賠償責任を負わない(軽過失は免責される)。 判断当時、開示関係役務提供者が「侵害が明らか」ではなかったと判断したことが、後日になって客観的に仕方がなかったことであると判断される場合には故意または重過失とは判断されない。 裁判外において安易な開示を行うことがないよう慎重な判断を促す規定。 発信者が開示に同意しているにもかかわらず開示関係役務提供者が開示しない場合に、被害者側に権利の侵害が発生していることの認識・認容があるならば、故意があると判断される場合があります。 |
| 附則 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 |
| 本法律は、平成13年11月30日公布されました。 施行は平成14年5月27日です。 |