ソフトウェア契約は二つの形態に大別される。一つはソフトウェア開発に関する契約であり、もう一つはソフトウェア使用許諾契約である。ソフトウェア譲渡(売買)契約というものもあるが、その内容は実質的には使用許諾契約であることが多い。

厳密な意味でのソフトウェア譲渡(売買)とは、例えばソフトウェアの著作権者Aがその著作権を第三者Bに譲渡(売買)する場合をいう。著作権を譲渡したAは、さらに当該著作権を第三者Cに譲渡できない(仮に譲渡すれば、二重譲渡の問題は生じる)。

ソフトウェアとプログラムは、ほぼ同じような意味で使われることが多いが、プログラムについては著作権法上「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」と規定されている。ソフトウェアは、プログラムだけでなく関連資料等も含むものと解される。


ソフトウェア開発に関する契約

1. ソフトウェア開発委託契約
他人の委託に基づき、ソフトウェアの開発行為を請け負う契約。ソフトウェアの開発の全過程を請け負う場合と、過程の一部を請け負う場合がある。
開発受託者(請負人)は、請け負った範囲の開発を完成させる義務を負い、開発結果に対して責任を負う。

請負とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成させ、他方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約である(民法632)。仕事の完成を目的としている点で、労務の提供を目的とする雇用や、事務処理を目的とし必ずしも結果の完成を必要としない委任と区別される。

2. 時間制ソフトウェア開発委託契約(アワリーフィー、タイムチャージ)
時間制による開発委託契約であり、結果の完成は約束されず、契約で定まった時間数だけの開発行為を行えば、結果が完成しなくても契約は完了する。

3. ソフトウェア開発援助契約
ソフトの開発は委託者が行うが、そのうち通常、開発困難な部分につき、ソフト会社等の受託者から援助を受ける契約。開発遂行及び開発結果についての責任は委託者側にある。

4. 共同開発契約
プログラムの開発を共同で行う場合の契約。


ソフトウェア使用許諾契約(ソフトウェアライセンス契約)

1. 契約書方式
ソフトウェア使用許諾契約書を作成し、許諾者(ライセンサー)と被許諾者(ライセンシー)が署名または記名捺印して行う方式。

2. シュリンクラップ方式(シュリンクラップ契約)
プログラムのユーザーが、パッケージプログラムの包装を開いたり、プログラムを使用することによって、そのプログラム使用契約に同意するとみなすもの。
使用条件に記載してある事項を内容とした口頭契約と解する説もある。有効性については後述する。

3. クリックオン契約
インストールやダウンロードの際に「契約条件に同意した者に使用許諾する」旨の表示がされた上、「同意する」のボタンをクリックしなければインストールまたはダウンロードできない仕組みを採用した場合の使用許諾契約。



第二、ソフトウェア開発における問題(開発委託契約を中心として)


委託開発ソフトの形態

1. 自社から出向した者が作成したプログラム
2. 外部からの派遣社員が開発したプログラム(アウトソーシング)
3. 外部から開発を委託されたプログラム
4. 外部に開発を委託したプログラム(アウトソーシング)


著作権・著作者人格権の帰属

法人等の従業員が職務上作成するプログラムについては、法人等が著作者となる(著作権法15条2項)。
開発委託契約に基づき受託者によって開発されたプログラムの著作権は、受託者に原始的に帰属する(開発委託契約において委託者に著作権が帰属すると定めても無効である。但し、権利移転条項と解される余地もある)。したがって、委託者が当該プログラムの著作権を取得したい場合には、著作権を譲り受ける旨の規定を設ける必要がある。著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)および第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に規定されている権利は、これを特掲しなければ、譲渡を留保したものと推定されるので(著作権法第61条2項参照)、譲渡の対象として特掲しておかなければならない。

著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)は、著作者の一身専属権であるので、譲渡の対象とすることはできない。従って、委託者は、受託者との間で著作者人格権の不行使特約を設けなければ、将来、受託者から著作者人格権を行使されるおそれがある。

  自社から出向した者が出向先で職務上開発したプログラム 外部からの派遣社員が職務上開発したプログラム 外部から開発を委託されたプログラム 外部に開発を委託したプログラム
著作権および著作者人格権の帰属 出向先の職務行為の結果であり、同ソフトウェアは出向先の法人著作と考えられ、その著作権は出向先に帰属する(著作権法15条) 自社の職務行為の結果であり、自社の法人著作と考えられ、その著作権は自社に帰属する(著作権法15条) 開発受託者(自社) 開発受託者
対応   念のため、派遣社員との契約等で、著作権の帰属は会社であることを明示しておく。 著作権を委託者に譲渡するのか、委託者に使用許諾をするにとどめるのか決定する。
独占的に使用許諾を行うのかも決定する。
 著作権を譲渡する場合でもルーチン、モジュール、ノウ・ハウの権利を自社に留保する。
 受託者からプログラムの著作権を譲り受ける規定をおく。必要に応じて著作権の譲渡の登録をする。また、著作者人格権の不行使特約を設ける。


共同開発プログラム(著作権・著作者人格権の帰属)

共同開発者の共有となるのが原則。
共同著作権は、他の共有者の同意を得なければ行使も処分もできない
(著作権法65条1項2項)。
但し、著作権の保存行為、侵害差止請求などは単独でできる。
著作者人格権については、著作者全員の合意がなければ行使できない
(著作権法64条)。

共有の持ち分割合は、協議により定まらない場合には平等と推定される。
合意によって、分担開発した部分については、分担開発者の単独所有とし、両社が共同開発した部分のみを共有とすることも有効である。
また、他の共有者から当該プログラムに関する著作権の譲渡と、著作者人格権の不行使の合意を得ることも可能である。
  
権利関係を明確にするための条項
「開発の成果であるプログラムの全部または一部については、当事者は、各自自由に無償で使用できる。」
「開発の成果であるプログラムの全部または一部について、当事者は、その複製物を製作・販売し、第三者に著作物の使用を許諾することができる。」


機密保持

1. 社内の管理(秘密として管理し、不正競争防止法2条〜4条による
保護が与えられるようにすること)
関与する技術者及び従業員から秘密保持契約書を提出させる
関連資料に「機密」または「社外秘」等の表示をする
社内機密保持規則の制定及び実施

2. 共同開発の場合、開発参加の当事者がそれぞれ守秘義務を負うこととし、
さらに共同開発したプログラムの販売についてそれぞれ許される場合には、
販売に必要な範囲で守秘義務が免除されるようにすること。



第三、使用許諾契約における問題


ユーザーがソフトウェア(の複製物)を購入ないしリース・レンタルを受けた場合、
ユーザーは当該ソフトウェアを自由に使用できるかが問題となる。

著作権法上は、著作者に「使用権」は認められていない(法律上は、著作権者にはソフトの使用を禁止する権限はない)。「複製権」(著作権法21条)を中心とした著作権および著作者人格権が認められているだけである。また、ソフトウェアをコンピューター上で使用することは、メモリー上にプログラムをローディングするにもかかわらず、我が国においては「複製」と考えられていない(「その蓄積は瞬間的かつ過渡的なものであって、複製に該当しない」―著作権審議会第6小委員会中間報告)。したがって、原則からいえば、ソフトウェアをユーザーが使用することは自由であると考えられている。

なお、アメリカにおいては、メモリー上へのローディングも「複製」に該当すると考えられている。

「使用許諾」という形式をそのまま日本に持ち込んだため、我が国におけるソフトウェアのライセンスにかかわる考え方も論者によって多種多様であり、これに関する文献においても書いてあることが違っていることが多い。また、判例の蓄積がほとんどない。


使用許諾契約の場合、ユーザーがプログラムの所有権(著作権)を得たわけではないことは既に述べた。ユーザーがプログラムの複製物の所有者になる場合と、そうでない場合に分けられる。

著作権法47条の2
「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。」

ユーザーがプログラムの複製物(CD、FD、テープその他の媒体)の所有権を得た場合には、ユーザーは「プログラムの複製物の所有者」となる。ユーザーは、当該プログラムを利用するために必要な限度において当該著作物の複製または翻案をすることができるわけであるが、本条は任意規定と解されているので、当事者間で特約を設けユーザーの権利を制限することも可能である。
プログラムの複製物をリースする場合には、本条の適用はなく、利用形態は当事者間の契約により定まることになる。
したがって、使用許諾契約は、次の2つに分けることができる。


1. ソフトウェア使用許諾1(複製物の所有権譲渡を伴わないもの)
いわゆるレンタル(リース)契約(賃貸借契約)
著作権法47条の2は適用されない。

ユーザーの使用態様は契約によって定められる(複製物の所有権譲渡を伴わない場合、バックアップ用の複製物を作成すること、および自ら電子計算機において利用するために必要と認められる限度内の翻案は、法律上は許されないので、契約により定める必要がある)。
契約による定めがなくとも「特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用するために必要な改変」はすることができる(著作権法20条2項3号)。

ソフトウェアの特定、リース期間、指定機械での使用に限定、使用目的の限定、プログラムの複製の制限、期間経過後の複製物の処理、ソフトウェアの変更の制限・禁止・変更後の権利関係、期間中当該プログラムを利用して作成された新たなプログラムの著作権についての取り決め、免責条項、等に留意すること。

2. ソフトウェア使用許諾2(複製物の所有権譲渡とともに特約を付したもの)
売りきりのソフトウェアのうち、有効に特約が成立しているもの

原則として著作権法47条の2が適用されるが、特約によりユーザーの使用・複製態様が制限される。特約が無効な場合、著作権法47条の2がそのまま適用される。

HDへのインストールなどを伴わない場合(FD、CDから直接起動した場合)のプログラムの使用・複製・翻案・改変については、次の表になると思われる。ただ、現在、通常のアプリケーションは、HDへのインストールを伴うものが多いので、インストールを複製と考えると、異なる結果になると思われる。

  複製物の所有権 使用 複製 翻案 改変
個人 あり 47条の2
30条1項
47条の2
43条1号
20条2項3号
  なし(レンタル) 30条1項 43条1号 20条2項3号
法人 あり 47条の2 47条の2 20条2項3号
  なし(レンタル) 法律上は不可 法律上は不可 20条2項3号
複製を伴うと考えれば不可


シュリンクラップ契約の有効性

ソフトウェア使用許諾2の場合、原則として著作権法47条の2が適用されるが、特約として使用許諾契約が付される場合がある。契約書方式が採られている場合には、特約は有効とされる場合が多いが、シュリンクラップ契約方式により特約が付されている場合には、その有効性が問題となる。

ソフトウェアのパッケージを開封しただけで契約が成立するという形式を前提にすれば、無効だとする見解が有力である。

しかしながら、ユーザーがその内容に納得しソフトウェアの使用を継続すれば、使用許諾契約の内容のうち、公序良俗(民法90条)に反しない合理的な規定については、有効となると考える説もある。

ユーザー登録葉書に「ソフトの使用条件に同意する」旨記載してあり、ユーザーがそのまま葉書を返送した場合には、ユーザーの「承諾」があるので、メーカーとユーザーとの間で、使用許諾契約が成立すると考えられる。


クリックオン契約の有効性

クリックオン契約の場合、争いあるが、原則として有効と考えて良いと思われる。



第四、著作権侵害に対する対応


1. 差止請求(著作権法112条)

2 損害賠償請求(民法709条、著作権法114条)
侵害者が侵害行為により得た利益額が権利者の損害額と推定される
(著作権法114条1項)。

3 不当利得返還請求(民法703条)
損害賠償請求権が時効により消滅(3年)した場合でも、不当利得返還請求権が時効消滅(10年)していない場合がある。

4 刑事罰(著作権法119条1号)
故意犯を処罰、親告罪
告訴によって捜査機関に資料を収集させる