平成14年1月28日に施行された電気通信役務利用放送法により自前の回線を持たない放送事業者も電気通信事業者から回線を賃借することで放送事業を行えることとなりました。
しかしながら従来の有線テレビジョン放送法のもとで放送を行っていた事業者と新たに電気通信役務利用放送法により放送を行う事業者とでは地上波を再送信する場合の取扱いが大きく異なることになりました。

 まず、従来の有線テレビジョン放送法では原則として自前のケーブルを持つことが前提となっていましたが、運用として回線を借り受けて有線テレビジョン事業を行うことができるようになっていました。電気通信役務利用放送法の施行により、施行後に回線を借り受けて放送を行う事業者については有線テレビジョン放送法ではなく、電気通信役務利用放送法が適用されることになっています。
 従来の有線テレビジョン放送法の下でも電気通信役務利用放送法の下でも事業者が地上波を再送信するには、再送信の同意を得ることが条件とされています(有線テレビジョン放送法13条2項、電気通信役務利用放送法12条)。
 
 しかしながら、有線テレビジョン放送法では難視聴区域については、再送信義務が課せられており(有線テレビジョン放送法13条1項)、また、有線テレビジョン放送法では、再送信が得られない場合の総務大臣の同意をすべき旨の裁定をすることができる旨規定が設けられていました(有線テレビジョン放送法13条5項)。したがって、総務大臣の裁定によって再送信を行うことができるという法律上の根拠があったため、地上波放送局が有線テレビジョン放送事業者に対して再送信の同意をしないという事態は実際には避けることができたと考えられます。

 なお、再送信の同意が得られなければ、地上波テレビ事業者の著作隣接権(著作権法99条1項、有線放送権)を侵害します。また有線テレビジョン放送法上、有線テレビジョン放送事業者に再送信義務が課せられている場合に実演家の許諾が必要か否かについては、学説が分かれていますが実務上は実演家団体の許諾を得ているようです。

 電気通信役務利用放送法では、有線テレビジョン放送法と同様、地上波の再送信を行うためには再送信の同意を得ることが必要であるとされていますが(電気通信役務利用放送法12条)、難視聴区域における再送信義務の規定や総務大臣による裁定の規定は設けられていません。
 再送信義務を課すことは電気通信役務利用放送事業者にとっては負担を課すという側面もあります。しかしながら、従来の有線テレビジョン放送法と同様の形態で行われる地上ケーブルを賃借する形での電気通信役務利用放送を新規に行う場合、難視聴区域で放送を行うということが当然予想されます。通信衛星を利用したりインターネットを利用したりする場合でなく従来の有線テレビジョン放送と外形的にも内容的にも変わらない場合でも、電気通信役務利用放送事業者は地上波事業者から再送信の同意を得なければなりませんが、この同意はあくまで民民のものであり、最終的に総務大臣の裁定はありません。したがって、再送信の同意が得られないまま放置される難視聴区域が発生することも当然予想されます。

 この点、平成13年6月21日第151回国会衆議院総務委員会で、横光委員と鍋倉参考人との間で以下のとおりの質疑応答があります。これをみると再送信の同意が得られないことなど総務省は全く想定していないようにも思えます。

○鍋倉政府参考人
 ちょっと言葉が足りなかったのかもしれませんが、みずから設備を設置して許可を受けて事業を行う従来のCATV事業者もありますでしょうし、それから、規制緩和になりまして、回線を利用してやることもできるようになるということで、選択の幅が広がるということでございまして、そういう趣旨を申し上げました。

○横光委員
 いや、ですから、そういう状況になりますと、登録制度でこれから事業を展開しようとする事業者が恐らくふえてくるだろうと私は予測しているわけですよ。そうなりますと、受信障害地域、難視聴地域ですね、ここではこの登録事業者が新制度によってサービスを開始することはもちろんできるわけですよね。それはそうでしょう。
 そうなりますと、私がちょっと懸念するのは、いわゆる登録事業者には再送信義務がない。そうすると、難視聴地域では、もしこれまでの許可事業者と違って登録事業者が中心になってくると、いわゆる受信者の利益というものが損なわれる可能性をちょっと心配しているんですが、そういうことはあり得ないんでしょうか。

○鍋倉政府参考人
 そもそもCATVの発祥がその地域の難視聴解消ということから始まったというのは、先生も御承知のとおりでございます。仮に、受信障害発生地域において登録事業者がいろいろ事業を行う場合に、その基本になりますその地域のテレビの再送信というものを行わないというのは、やはりそこの地域における視聴者のニーズを踏まえますと、余り考えられないのではないかなというふうに基本的に考えております。

○横光委員
 わかりました。そういった懸念はない、私の杞憂であるということでございます。ぜひそうなってほしいと思います。

 また、電気通信役務利用放送法附則4条では、従来の有線テレビジョン放送法の下で再送信同意を得ていた回線を賃借する形での事業者(電気通信役務利用放送法に該当する事業者)は、役務法施行後3年間、引き続き有線テレビジョン放送法の適用があり、また級友線テレビジョン放送法上の再送信同意を得ていれば、役務法に基づく登録を行った後、役務法12条の再送信同意を得たものとみなされます。
新たに電気通信役務利用放送を行おうとする事業者は再送信同意を総務大臣の裁定の担保がないまま地上波の事業者と交渉しなければならないことと比べると、電気通信役務利用放送法施行前に有線テレビジョン放送法の下で事業を行っていた事業者と新たに参入しようとする事業者との間では、その放送形態が全く同じであるにもかかわらず再送信を行うための負担が違いすぎています。一種の参入障壁となっていると思われます。
今後、電気通信事業者から回線を借りる形でのCATV事業について従来以上の負担を課すことは問題点も多いと思われます。