JRのICカード 今後の展望

 この数年間、JR各社では自動改札機に財布ごとタッチするだけで乗車決済できるICカードのシステムが急速に普及してきた。そしてJR各社で行われているこれらのサービスが相互利用できるシステムも整備されつつある。

 ところで最近、JR東日本のウェブサイトを見て驚いた。それは2009年3月から首都圏でSuicaを利用できるエリアを拡張するというものだった。詳細はJR東日本のサイトを見ていただきたいのだが、何しろ房総半島は館山・安房鴨川に至るまで、そして常磐線は福島県のいわきまでが首都圏Suicaエリアになってしまうのである。そして仙台Suicaエリアも福島県の矢吹(郡山より南)まで拡張されるのである。

 しかしこれは、さすがに拡張し過ぎではないだろうか?そしてそれゆえに、多くの問題点や矛盾も生むと思う。

≪@首都圏Suicaエリアの過拡張に関する問題点≫

 例えばこれまで甲府から新宿経由でいわきまでを利用した場合、乗車券は344.5キロで5,780円であるが、きっぷの有効期間は3日間で当然ながら途中下車もできた。東京をまたいでの旅となれば、新宿や上野での途中下車もありうるだろう。しかし新しい制度ではこの区間内が東京近郊区間内に含まれてしまうため、乗車券の有効期間も当日限りで途中下車も無効になってしまうのである。
 また周遊きっぷも場合によっては、要件を満たしているのに購入できないという矛盾も生み出してしまう。例えば東京ゾーンでいわきから水戸線経由でゾーン入りする場合や千葉県佐原から松岸・東金・勝浦・館山経由の乗車券でゾーン入りする場合などである。いずれも新しい制度では、実際の乗車経路に関わらず最短経路の運賃で計算されるため、周遊きっぷの発券要件である片道200km以上の乗車券が発券できない事態になってしまう。
 この他にも、改正後の矛盾を追及すれば枚挙にいとまが無いのは推して知るべしであろう。

 ではなぜ、このような矛盾が生じたのか。それはJR東日本が、「首都圏Suicaエリア」=「東京近郊区間」という認識で諸制度を制定している点にあると思う。(実際には久留里線などもあり、「首都圏Suicaエリア」⊂「東京近郊区間」という構図にさえなってしまうのだが。)
 JR東海のToicaの例にならうように、理想は「首都圏Suicaエリア」⊃「東京近郊区間」という構図にすべきだと思う。つまり、現在の東京近郊区間をこれ以上拡張すべきではない。そもそも先述の矛盾も東京近郊区間を拡張してしまったゆえに発生したものである。もっとも一度拡げてしまった東京近郊区間を以前の範囲に戻すわけにはいかないだろうが。

 そうなれば、SuicaなどのICカードを利用した場合と、従来の紙のきっぷを利用した場合とで、運賃計算制度を変えることも必要になってくるだろう。つまり、カード利用か紙のきっぷかによって途中下車の可否や、運賃が異なる場合も出てくるということである。これは致し方ないのであるが、JR東海の例やモバイルSuica新幹線、さらには首都圏グリーン車の事前・車内料金の制度が実際に施行されていることを考えれば、さほど抵抗はないと思う。

 いずれにしても、ユーザーにとって利用しやすい選択肢を与えることは大切である。先述の甲府→いわきの例にしても利用者がSuicaを使うか(最短経路で運賃計算できるが途中下車はできない)、紙のきっぷを使うか(有効期間や途中下車のメリットはあるが、実際経路での運賃計算となる)を選べるような制度であってほしいと思う。

≪A縮まってゆくエリア間の距離≫

 次にエリアの拡大が、異なる2エリア間の距離を短くしてしまう結果となる点について論じたい。現在は全く認められていない「エリアをまたがっての利用」というものを、将来的に可能にできる手立てを講じる必要性である。現状では、乗車経路と最短経路に関して運賃計算のルールがあるため、簡単にエリアをまたぐことはできないのは確かにうなづける。

 2009年3月のSuicaエリア拡張により、首都圏エリアは常磐線いわきまで、また仙台エリアは福島県の矢吹(東北本線)・原ノ町(常磐線)にまで拡張される。このエリア間の距離は黒磯〜矢吹間で40.1km、いわき〜原ノ町間が77.5kmである。

 これまでの経緯もそうであったが、そもそも年月の経過と共にSuicaの利用範囲は必然的に広がっていくものである。例えば水戸地区でSuicaが使えるようになれば、そこの利用者の行動範囲すべてでSuicaを使えるようにして欲しいという要望は当然出てくる。そして、それに応えて利用エリアを拡張する…。
 その繰り返しの結果が、いわきまで利用範囲を拡張することになったのだろう。
 やがては東海道線の熱海・函南のように、首都圏エリアと仙台エリアの境界駅が隣り合う事態も起こりうるであろう。そうなったときに問題となるのは、JR側のシステムゆえに利便性の格差が生じてしまうという点である。つまり、境界付近の利用者にとってはSuicaのある駅(首都圏SuicaのA駅〜仙台SuicaのB駅)を日常的に利用するにもかかわらず、その恩恵を受けられないという点である。すでに隣り合っている熱海〜函南間は後述することにして、この問題の解決策としては2つの案が考えられる。

 1つ目は、首都圏Suicaと仙台Suicaの両エリアをドッキングさせることだが、さすがにこれは現実的ではないだろう。なぜならば、ドッキング拡張に伴って東京近郊区間までも拡張してしまったら、仙台駅は東京近郊区間内の駅という、常識ではとても考えられないことが起こってしまうからである。

 そこで2つ目の提案として、エリアを限定して首都圏と仙台をまたいで利用できる区間を設けてみるということをあげたい。つまり、両エリアの境目となる福島県付近の相互各駅を利用する場合に限り、エリアをまたいで利用できるようなシステムである。あくまでも区間内の全駅でSuica対応となったときの話だが、例えば東北本線の宇都宮〜郡山間が全駅Suica対応となったときに、同区間内を利用する場合に限り首都圏・仙台エリアをまたいでのSuica利用を可能とするのである。

 同じことが首都圏SuicaとToicaエリア、Toicaと関西ICOCAエリア、そして関西ICOCAと山陽ICOCAエリア間でも考えられるだろう。すでに現時点で、いずれの場合もエリア間の最短距離が50kmに満たない。やがて境界となる全ての駅がIC対応となれば、首都圏・仙台と同様に区間限定でエリアをまたげるような制度を設けてみるのはどうか。もっともJR2社間で調整しなければならない場合もあるが。

 特に首都圏SuicaとToicaエリアをまたぐ熱海〜沼津間ではSuicaグリーン車のシステムもあり、より一層の利便性向上が求められている。例えば同区間を含め、Suicaグリーン券で通して乗車できる範囲内(沼津〜熱海〜東京(都区内含む)・房総方面、湘南新宿ラインから高崎線・宇都宮線内)に限定してToica・Suicaをまたいで利用できるようにしてみてはどうだろうか。併せて沼津より西のToicaエリア(静岡あたり)からも熱海までであればToica・Suicaをまたいでの利用を可能にしてもよいと思う。

≪Bまとめ 今後の展望≫

 今後もICカードの普及は進んでゆくだろう。やがては地方のワンマン列車でも車内でICカード決済(乗車時にタッチ、下車時にもタッチして運賃決済)ができるようにもなってくると思う。大切なのはJR各社間でICカード利用時における、独自の運賃計算の統一ルールを今から検討することではないだろうか。

 もっとも途中下車一切不可、乗車日当日限り有効というのは、ICカード利用時の大原則だと思う。したがって当日中の移動が困難な範囲にまで、ICカードの利用可能エリアを広げるのには一考を促したいものである。