レポート:役に立つ管理会計

<ERPパッケージの研究(2)>

役に立つ管理会計

1999年3月28日


 ERPパッケージの売り文句の一つが「リアルタイム経営」です。経営者にリアルタイムで経営情報を提供するのです。経営情報には、もちろん会計情報が含まれ、重要な位置を占めます。昨日までの損益が画面で照会できるのです。「日次決算」というキーワードも聞こえます。

月次決算の効果と問題点

 まず最初に、月次決算を年次決算と比較してみましょう。多くの大企業では月次決算が行われていると思われますが、中小・中堅企業ではまだ月次決算をしていない企業も多いでしょう。その理由は、大企業では経営者の手元にデータがないので、企業全体の状況を見るのに「会計」という数字に頼ることがどうしても必要だったからです。大企業では、中小・中堅企業より月次決算の必要性がずっと大きかったのです。
 年次決算では数字で企業の状況を見ることができるのは年に1回です。このことは、問題の発生に気付くのに最大1年、平均でも半年を要することになります。そこに月次決算を導入することにより、問題の発生に最大で1ヶ月、平均で半月で気付くようになります。

 これを数字にしてみましょう。次のようなモデルを考えます。
 月に1件の問題が発生するとします。その問題は1ヶ月につき百万円の損失をもたらすとします。それを年度末まで放置する場合と、月末ごとに解決する場合の比較です。
 問題を年度末まで放置する場合、1年間に発生する12件の問題が平均半年放置されます。損失の合計は72百万円です。一方で、それが月末ごとに解決される場合、1年間に発生する12件の問題は平均半月放置されるだけで、その損失の合計は6百万円です。年次決算から月次決算にかえることにより、損失を72百万円から6百万円に、つまり12分の1に減らすことができるのです。

 これだけの効果がある月次決算ですが、問題もあります。1ヶ月という間隔は長すぎるのではないかという問題です。

日次管理会計の幻想

 月に1回だけ管理会計の結果が見えるのではなく、毎日、少なくとも前日までの管理会計経過が見えるようになると、きっと新しい世界が開けるのではないかと、多くの経営者が考えます。でも、それは本当でしょうか。

 毎日、前日までの管理会計経過が見えるようになると、起こることは次のいずれかである可能性が高いのです。

 日次管理会計を有意義なものにするためには、月次管理会計とは違う管理方法・業務手順を導入する必要があるのです。

意味のある日次管理会計のために

(1)データの精度向上

 毎日のデータが即座に経営者に提供され、経営判断に活用されるのですから、そのデータは正確である必要があります。これまでの月次決算では、現場での翌日のチェック、経理・会計部門での月次のチェックによりデータの正確さを保証していました。
 日次管理会計では、データの正確さをその日のうちに保証しなければなりません。そのためには、インプットしたデータを使って、即座に数字を集計できることが必要です。たとえば、  ただし、いずれも入力ミスを見つけるためだけのチェックではありません。今日の売上がどうだったか、今日の生産がどうだったかを数値で見て、翌日の行動に反映させるための反省です。その過程で、入力ミスがあれば発見できるのです。発見し、訂正し、即座に経営者向けデータに反映されることにより、データの精度が向上します。
 この点で、ERPパッケージは強力なツールです。

(2)多次元分析の必要性

 日々の管理会計から提供される数値を、月次管理会計と同様のセグメント別あるいはその明細としての製品別の数値だけで見ているのでは、意味はほとんどないでしょう。一つの視点だけから発見できる変化がどれだけあるでしょうか。
 日々の変化から経営に役立つ情報を読みとるためには、「多次元分析」という考え方が必要です。多次元分析とは、様々な切り口でデータを整理して見せる方法で、様々な切り口とはたとえば次のようです。  これまで商品ラインでしか見ていなかったとしたら、それを商品群で集約したり、銘柄別の詳細を見たりします。あるいは、製品とは関係なく、顧客別にどうなっているか、それを製品別に見るとどうなるのか、といった違う切り口からの分析をするのです。
 このような見方をすれば、製品別という単純な切り口では発見することができなかった変化を発見し、素早く対応することができるのです。
 ERPパッケージは、一般的に必要な切り口はあらかじめ備えています。

(3)標準原価の導入

 日次管理会計のためには、標準原価による管理が必須になります。原価計算というと、その正確さを絶対条件だとする意見があります。「正確さ」とは、実績をどこまで反映するか、公平に各製品に配賦しているかということです。ところが、実際原価を毎日計算することは結構難しいことですし、その困難を克服したとしても得るものはほとんどありません。
 日次管理会計のためには標準原価が必須になります。標準原価とは、たとえば次のようなものです。(営業利益まで計算するために、売上原価以外の要素も含めました。)  これ以上に実際原価に近づけることは、意味がないと思われます。たとえば、給与計算が済むと単価が変わったり、たまたま仕損じが出ると原価が変動するというのは、情報として欠陥です。
 ただし、実際原価との乖離を分析する仕組みは必要です。日次管理会計といっても、月次で差異を把握する仕組みです。また、これに基づいて、翌期の標準原価を見直します。

(4)数値のばらつきへの対応

 最後に、日次で管理会計を見ていくときの問題として、数値のばらつきをいかに補正するかという点を上げておきます。売上数値は、月次で見れば緩やかな変化でも、日次で見ればばらついています。そのまま読むのでは、日々のばらつきに一喜一憂する結果になりまねません。
 まず、対策の一つとして、たとえば日別の売上(横軸が日、縦軸が売上高)を見るのではなく、月末までの目標売上に対する進捗を見る方法があります。横軸が日、縦軸が当月売上目標に対する進捗率です。この方法の欠点は、月初めに管理が甘くなる点です。
 もう一つの対策として、移動平均で見る方法があります。縦軸は、その日から過去1ヶ月間の売上高、および過去1週間の売上高にします。これにより、ばらつきが補正され、傾向が分かるようになります。

「日次決算」の誤解

 本レポートでは、「日次管理会計」という表現を使いました。同じような意味で「日次決算」という表現をする人もいます。この「日次決算」という表現は、誤解を招きやすいので注意が必要です。
 「決算」というのは財務会計の言葉ですから、この言葉からの印象は、毎日B/SとP/Lを作るかのようになります。そして、実際にそのことに意味のある業種もあるのです。一部の大手の量販店などでは、そのような管理が行われているようです。現金で仕入れて、現金で販売するような量販店では、確かに意味のある管理かもしれません。
 私のいう「日次管理会計」はそういうものではありません。現場の行動を定量化しようとするもので、財務会計的な正確さよりも、管理に貢献することだけを考えているものです。
 誤解のないように、念のため補足しておきます。


前のレポート次のレポート
魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 2001-1-27 リンク変更
1999-5-2 標準原価の考え方など一部改定
1999-8-11 誤字訂正