レポート:製造原価情報の価値

<ERPパッケージの研究(2)>

製造原価情報の価値

1999年4月25日


 私たちは、製造業にとっての原価管理は重要であると当然のように思っています。そして、変動費原価の差異分析や製品別損益計算を行い、顧客別・地域別に収益性を分析したりします。

製造原価の内訳

 重要だと思われている製造原価の内訳を見てみましょう。業種によって多少は重点が違いますが、おおむね次のような項目に分けられるでしょう。
費   目
変動費購入原材料費/購入部品費
自家製原材料費/内製部品費
副産物
ユーティリティー費(電力、用水など)
包装資材費
荷造工賃
固定費直接固定費直接労務費
直接経費
配賦固定費減価償却費
工程間接費
工場間接費

製造原価による意思決定

 製造原価情報を見て、どのような意思決定が可能なのか、考えてみましょう。
 まず、変動費についてはいくつかの意味がありそうです。ここに数量情報があれば、収率(歩留まり)を把握することができます。また、予定原価(予算原価・目標原価など)に対する差異分析を行うこともできます。差異の原因は、収率かもしれないし、原材料・部品の価格にあるかもしれません。
 問題は固定費です。固定費は、稼働率が下がると原価が上がるという特性があります。これに対してどういう意思決定をするのでしょうか。単純に「稼働率を上げよう」という意思決定は、在庫を積み増すだけになります。稼働率を上げるためには、売上を増やさなければならないのです。
 また、固定費の配賦も問題です。配賦基準は正しいでしょうか。いえ、そもそも正しい配賦基準などあり得るのでしょうか。例えば売上比や生産量比で配賦する場合、しばしば起こるのが、生産量が多いが利幅の少ない製品に多くの固定費が配賦される現象です。そのような製品は、いわゆる主力商品です。一方、生産量が少ない製品は収益源になっているように見えます。これは特殊品と呼ばれているはずです。主力商品よりも特殊品が収益源に見えますが、かといって主力商品を減らして特殊品へとシフトしようとすると、たいていがうまく行きません。そのことを多くの経営者が知っています。儲かっている製品を増やすと儲からなくなるということは、この「儲かる」という情報は正しいのかという疑問が生まれます。

収益性分析

 固定費の問題は、もう一つ大きな問題を持っています。
 収益性分析という業務があります。商品別、顧客別、地域別など多様な切り口で、収益性を分析する業務です。これにより、自社の強みを明確にし、その強みに資源を集中しようとする狙いです。
 たとえば、4月に出荷のピークがある顧客Aと、9月にピークがある顧客Bがあるとしましょう。4月は生産のピークと重なっています。しばしば生産能力の問題で、顧客Aからの受注をお断りするような事態が発生してしまう時期です。一方、9月は比較的暇な時期です。顧客Bは自社の稼働率を維持してくれる大切な顧客です。では、原価計算はどのような情報を提供してくれるでしょうか。顧客Aは固定費が低い時期の顧客なので、多くの利益をもたらしてくれる大切な顧客です。一方、顧客Bは固定費が高い時期の顧客なので、利益をもたらしてくれない不良顧客です。固定費が高い時期なので、何らかの対応が必要でしょうか。「そうだ。単価を上げてもらおう」という意思決定がなされます。明らかに誤った意思決定です。

経営者は何を求めるべきか

 そもそも、原価計算は財務会計でも必要です。財務会計は、本来は株主への情報公開のための会計ですが、日本など一部の国では税制の影響を大きく受けています。税制では、製品勘定にしかるべき固定費を計上することを求めています。製造原価計算に固定費配賦という処理があるのは、主としてこの理由だと思われます。その計算結果を、原価管理や収益性分析に使おうとするから、無理があるのです。

 経営者には、どのような情報を見たいのかを明確にする責任があります。それは簡単なことではないようです。では、何のために情報を見たいのかを明確にすることはできるでしょうか。これならできそうですね。それを明確にすることができれば、経理のプロや販売のプロ、生産のプロは何らかの数字を出してくれると期待できます。でも、それは簡単には信用しないようが良いのです。製造原価に対する誤解は、生産のプロでも同じです。

 ERPは、経営者の見るべき情報について、ある程度の方向を示してくれます。ところが、それは答えではありません。経営コンサルタントに聞けば、やはり何らかの解決策を示してくれるでしょう。ERPやコンサルタントが示してくれた方向が正しいのかどうか、それを検証する責任は経営者にあるのです。


前のレポート次のレポート
魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 2001-1-27 語句訂正