レポート:<役に立つ管理会計>活動基準原価計算(ABC)

<役に立つ管理会計>

活動基準原価計算(ABC)

1999年11月21日


 活動基準原価計算(Activity Based Costing/ABC)という考え方が、一時期はやりました。最近はブームを終え、かなり定着してきたようです。それでも、実際に運用している事例はそう多くはなく、未だに誤解も多くあるようです。

配賦計算への苦情

 従来は、間接費の配賦基準は生産量比や売上高比が用いられることが多くありました。例えば、営業固定費を売上高比で配賦する場合、次のようなクレームが起こります。
 このような意見は、どのような価値を持っているのでしょうか。このようなことを考える意味は何があるのでしょうか。ゆっくり読んでいただければ分かると思います。これらはすべて、考えても何の意味もないのです。どう転んだところで、会社が儲かるわけでも損するわけでもないからです。

 いってみれば、見せる意味のない数字なのです。

公平な配賦基準!?正確な配賦基準!?

 配賦基準が不公平だという苦情は多くありました。そこで、苦情が来ないように正確な配賦を試みた企業も多くあります。配賦基準はどんどん複雑になります。多くの管理者に理解不能になった配賦基準は、苦情を受けることが少なくなります。配賦計算は、コンピュータなしではとても処理できなくなります。でも、このような原価計算にどれだけの価値があるのでしょうか。

 原価計算の目的を確認しましょう。原価計算は、原価をコントロールするために行うのです。ところが、間接費は全体から見れば微々たるものでした。間接費は適当に配賦しておけば良かったのです。ところが、その間接費が無視できない金額になってきました。だから不満が出てきたのです。不公平をなくせば問題は解決でしょうか。「原価をコントロールしたい」という望みは、忘れて良いものではありません。

ABCの狙い/ABCへの期待

 ABCが世の中に紹介され、かなりの皆さんが期待を寄せています。その期待の中に、「これで不公平をなくせる。これで正しい原価計算ができる」という意見があります。これは、ちょっとずれているのです。

 原価計算は、原価をコントロールするのが目的です。不公平をなくすこと、正しい原価計算をすることは、原価をコントロールすることとどれだけ関係があるでしょうか。「正しく計算できなければ、コントロールすることはできない」という意見は、一見正鵠を射ているように見えます。では、不公平のない、正しい原価計算の結果を見て、あなた自身がどのような判断をし、指示を出せるかを考えてみてください。不公平のない、正しい原価計算には何の価値もないことに気付くはずです。

 ABCの狙いは、間接費を減らすことを可能にすることにあります。正しい原価計算をすることによってそうなるのではなく、ABCが直接に、原価をコントロール可能にするのです。つまりこういうことです。
 例えば、製造現場の製品切り替え作業があります。これは間接コストです。製品切り替え作業のコストを、できるだけ減らしたいと、工場長は考えています。そこで、ABCを適用しました。
 製品切り替えコストを、製品切り替え回数で配賦するようにしたのです。各製造現場では製品切り替えを減らそうとしました。これが効果の一つです。製品切り替え回数で製品切り替えコストを配賦するので、各製造現場は製品切り替えを減らそうとするのです。ABCによって、製品切り替え1回あたりのコストが計算されます。ある時ふと気付くのですが、製品切り替えコストは下がっていないのです。製品切り替え回数は減ったのですが、製品切り替えの要員が減ったわけでなく、製品切り替え作業全体のコストが変わらなければ、製品切り替え1回あたりのコストが上昇して、全体としてはコストダウンになりません。各製造現場がそれに気付きます。製造現場は、製品切り替えコストを減らすように要求します。回数が減っているのだから、人数を減らしても対応可能だからです。
 そこで、製品切り替え作業の要員を減らし、一部を配置転換します。製品切り替え回数が半分になっていれば、要員の半分を減らせる計算です。製品切り替え作業全体のコストが下がります。工場全体から見ても、製造現場から見ても、コストが下がったのです。

ABCでできること

 前の事例を続けます。
 工場長はやがて気付きました。製品切り替え回数を減らしたために、製造ロットが大きくなり、在庫が増えてしまったのです。これは、好ましいことではありません。そこで、在庫を増やしてしまうABCに問題があるのではないかと考えました。
 問題は、製品切り替え回数で配賦しているために起こっています。製品切り替えのコストを減らすことと、在庫を増やさないことを同時に実現する方法はないでしょうか。その方法は、製品切り替え作業時間で配賦することにより実現できます。製品切り替え作業時間を短縮することができれば、当然ながらコストが下がり、同時に、製造ロットを大きくする必要もなくなります。
 工場長は、製品切り替え作業時間でコストを配賦する方法に変更しました。工場長は、二つの選択肢を得ました。製品切り替えコストの削減分をコストに反映させることと、製品切り替え作業時間の短縮により切り替えの頻度を増やし、在庫を削減する方法です。

 このように、ABCは改善活動を測り、改善を支援することができます。原材料以外の多くのコストを扱うことができると思います。そのことは、サービス業への原価計算の導入など、これまでより1ランク上の経営を実現します。


前のレポート次のレポート
魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1999-11-21