たとえば「在庫管理」は、昔から情報システムの大きなテーマだった。普通は倉庫で受注するわけではないので、倉庫にいるかのように在庫を見ながら受注したいと思う。情報システムの利用者は、正確な在庫情報の提供を強く要求し、情報システム部門やソフトウェアベンダーはそれに応えた。そして、入出庫を都度正確に登録することさえできれば、リアルタイムで現在の在庫情報を提供できるようになった。
そのことに意義はあるが、それでいくら儲かるのか?倉庫に電話をして在庫の有無を確かめる時間が節約できた?その代わり、面倒な入出庫登録が増えている。受注が増えたわけではない。コストが大きく減ったわけでもない。現在の在庫情報の価値は、実はそう大きくはないらしい。
次に、未来の在庫を予想したいという要求が出てきた。現在の在庫が分かっていて、これからの入庫計画が分かっていて、すでに登録した受注から出庫計画も分かっている。差し引きすれば、未来の在庫が分かるはずだ。実は、これは簡単そうに見えてそうではない。入出庫には多様なパターンがある。通常の入庫(生産や仕入れ)や出庫(顧客への出荷や他の倉庫への転送)の他に、返品や返品に対応した代替品の出荷、2個セットに包装し直したり、荷崩れした品を包みなおしたり、袋が破れて廃棄したり、等々。また、その計画には変更や取り消しもある。
これも実現できるようになった。それは、全社業務をカバーするERPの得意技である。これにより、すでに受けている受注を前提にして、現在の在庫で新たな受注を受けられるのかどうかが分かる。計画されている入庫を前提として、今の緊急出荷が今後の出荷計画に支障がないかどうかを判断することもできる。また、出荷計画に支障があることが早く分かれば、それから生産計画を変更したり仕入を追加するという対応もできる。
この、最後の下線部が重要だ。これができるかどうかにより、売上が変わる。売れる商品を生産する(仕入れる)ことができれば、業績が変わる。在庫管理ができるようになった企業は、早くこの段階へ進むべきだ。それが、「情報システムを活用する」ということだ。
この段階に進んだ企業には、新しい課題がある。受注に応じた入庫ができ、かつ、それができないときはできないと即座に分かるなら、「受注」という業務に調整機能がいらなくなる。商品やマーケットに関する専門知識が必要な場面がほとんどなくなる。受注担当者の守備範囲は格段に広がる。さらに、受注は生産や倉庫管理、配送とシステム内で密接に連携する。その仕事はまさに「ロジスティクスセンター」であり、ロジスティクスを統合することにより大幅なコストダウンも可能だ。それはSCM(サプライチェーン・マネジメント)と呼んでも良いだろう。
このように、情報システムは壁を取り払う。これまでの限界を超えることを助ける。それが、情報システムが「道具」といわれる理由だ。