レポート:<必要なれど十分にあらず> 役に立つ原価計算

<必要なれど十分にあらず>

役に立つ原価計算

2002年12月30日


 情報システムをうまく使えているかどうかは、情報システムによって限界を超えることができたかどうかで分かる。

 情報システムを使っても、使わないときと大して変わっていないという例は少なくない。情報システムのメリットが、微妙な計算でようやくプラスになるケースだ。「5年で元が取れる」というように。
 ビジネス上の利益を狙うにしろ、省力化を狙うにしろ、1年で元が取れないようなら、その企画は不十分だ。計算ができないケースはある。そういうときは、計算できる数字だけでは不十分になる。あるいは、情報システム部門からは大幅な売上増や間接部門の要員削減を目標として掲げられないときもある。しかし、経営レベルでは限界を超えることを目標とすべきである。

 これまで、情報システムによって多くの成功を生んだ企画が2つある。ひとつは給与計算、もうひとつは経理処理である。そろばんの時代に比べ、時間を短縮し、要員を削減できた。その幅は大きかったはずだ。(著者は、そろばんによる給与計算も経理処理も見たことがないので、推定である。)

 限界を超えられるかもしれない例として、今回は原価管理をあげる。原価管理で際立った成果をあげることは、実はそう簡単ではない。「管理をする」ということ自体が仕事を増やすからだ。そこで、ひとつの前提を置く。原価管理で自社独自の工夫をこらしていること、その結果として教科書どおりの原価管理から外れてしまっていることだ。そういう事例は多いと思う。
 導入する原価管理そのものは教科書どおりのものでなければならない。原価管理が成果をあげるための必要条件だ。それが購買、生産管理、在庫管理と連携することによって、仕事をなるべく増やさずに原価管理を実現し、しかもそれが成長のための道具になるのだ。

 原価を次のように分解して、管理を考える。現実には、この中から重点を選んで適用すればよい。

購入原材料・部品の価格

 財務会計での扱いは教科書にあるが、管理目的には不十分だ。
 そして独自の工夫の例をあげると、たとえば
 それに対して、管理会計の教科書は簡単だ。標準価格を事前に決めておき、入庫都度、価格の標準との差異を把握する。そして、「価格差異×入庫数量」で数値化する。購入した時点で、高く買ったら損失、安く変えれば利益だ。
 財務会計では、それらを製造に供したときに製造原価に計上し、販売したときに売上原価にする。しかし、高い(安い)原料を買ったら、それを売る前、使う前に損益への影響は分かっている。分からないのは財務会計的なタイミングだけだ。変動に対してアクションをとるなら、変動は早く分かったほうがよい。
 価格変動の結果として製品原価がどう影響を受けたのかを見ることは、これだけではできない。しかし、それはあとで述べる原単位・収率・部品表があれば、価格変動幅に単位製品あたりの使用量を乗じて単純に計算できる。しかも、事前に予測することができる。管理目的には十分だ。

 さて、管理目的のために仕事は増えたか?増えたのは標準価格を事前に決める作業だ。価格を管理したい重要な原材料・部品について、年に1回それを決めればよい。

原単位・収率・部品表

 製品を製造するのにどれだけの原材料・部品を使用するのか。あるいは所定の原料からどれだけの製品をとることができるのか。それは生産管理の基本的な管理項目で、その基準に沿って原材料・部品を手配する。
 独自の工夫をすると、生産管理目的の原単位・収率・部品表とは別に、原価管理用の原単位・収率・部品表を作成・管理する。管理の粗さ(管理会計用は粗い)、管轄部署(管理会計用は会計部門)、更新のタイミング(管理会計用は予算編成時)が違うからだ。しかし、そのやり方はむやみに管理を複雑にする。

 それに対して、管理会計の教科書には生産管理用と原価管理用の区別は書かれていない。管理会計の教科書だから生産管理に触れていないわけではない。管理の粗さ、更新のタイミングも同じでよいし、管轄部署は製造部門でよい。標準原価積み上げのタイミングだけは、会計部門がコントロールするべきかもしれない。

製造部門の経費

 経費を費目別に分け、どの製品にどれだけ配賦をするかを細かく考えている例がある。これはほとんど意味がない。経費は単純な予算・実績比較が基本だ。
 経費の中には、生産量の変動の影響を受ける部分がある。その部分だけは、予算・実績対比のときに予算を変数にする意味があるかもしれない。

 配賦計算を細かくすることには、管理面では何の価値もない。逆に、配賦処理をすることによって物事を分かりにくくする。

製造設備の操業度

 単位生産量あたりの固定費は、生産量が変わると変動する。生産量が増減すると数字が大きく動くので、原価管理に関心がある人は思わず注目してしまう。

 この固定費の変動は操業度の影響である。製造設備の操業度は、利益に大きく影響する。しかし、その変動にいちいち一喜一憂することは、二つの意味で誤っている。
 ひとつは、製造設備の操業度は製造設備のライフサイクルの中でつじつまが合っていれば良いことがある。一時的に良くても悪くても、たとえば5年間という設備のライフサイクルの中で計画に沿っていなければならないし、計画に沿えばよいのだ。
 もうひとつは、操業度を独立に管理できないことがある。操業度が低いからと言って、販売量と無関係に生産量を増やせば、在庫が増える。原価は下がったように見えるが、企業にとってはキャッシュを減らしてしまう点で問題だ。

 操業度が重要でないわけではない。短期的に見てはいけないということだ。
 教科書には、製造原価のうち加工費(原材料・部品費以外の経費)を加工時間で製造指図に配賦する(加工時間あたりの標準単価を決めて製造指図に賦課する)方法が紹介されている。この方法により、原価管理に操業度の定量的な管理を含めることができる。操業度と経費がそれぞれ管理できる。


 原価管理が精緻であることと、成果をあげられることはほとんど無関係だ。精緻な原価管理は手間がかかる。成果をあげる原価管理に手間がかかるとは限らない。生産管理や購買業務と密接に連携した原価管理は、ほとんど手間はかからない。それで教科書どおりに変化を把握できてアクションが取れれば、きっと成果が上がるはずだ。
 とにかく、教科書にない余計なことをしないことが大切だ。独自の工夫は、階段をひとつ上がってからにしよう。


前のレポート次のレポート
魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 2002-12-30 /149