一つ目の話です。経営の舵取りを自動車の運転に例えて「経営者は、後部座席に座るのではなく、運転席に座るべし」と言われます。しかし、どの経営者も後部座席で居眠りをしているつもりはありません。社長(あるいは事業部長)は当然、運転席に座ってハンドルを握っている、と誰もが思います。この例えば、経営者に問題を気付かせるためには適切ではないようです。
二つ目の話は飛行機の操縦に例えます。つまり、「経営者はコックピットに座れ」という訳です。次々と幹部が報告に訪れる社長室はまさにコックピットのような忙しさです。社長は当然、自分は機長としてコックピットに座っている、と誰もが思います。この例えも、経営者に問題に気付かせるためには適切ではないようです。
船は少し大きなものになると、ひとりでは操縦できませんでした。したがって、機関室には機関長が、通信のためには通信士が、またマストの上には見張りがいます。船長は、機関長と見張りからの報告を得て、船の行き先やスピードを判断して、機関長に指示を出して機関出力を調整させます。ブリッジにあるレバー(Full Ahead - Ahead - Half -...)はエンジンを操作するものではなく、機関長に機関出力を指示するものなのです。外部との通信も、通信士に指示を出してさせ、受けた通信の報告を聞きます。仮に機関室で火事が起きても、機関長から報告があるまではそれに気付かないでしょう。
船長は確かに舵を取っているかもしれませんが、現代の経営に求められる「舵取り」とは違います。これは、パワー競争の時代の操縦法です。

現代の船はこうではありません。まず、ブリッジにあるレバーでエンジンを操作することが出来ます。つまり、リモコンです。機関長がいなくても、船長が直接に操作できます。また、機関室の主要な情報はブリッジのパネルに表示されます。火事はもちろん、冷却水ポンプの異常停止でもアラームが鳴ります。見張りがいなくても、レーダーで周囲の状況がわかり、通信士に頼まなくても電話で誰とでも話が出来ます。機関長や通信士が要らないわけではありません。機関室や通信システムの維持管理のために彼らは必要ですが、仕事の内容が変わったのです。
このとき、船長は現代の経営に求められる「舵取り」をしています。これが、舵取り競争の時代に求められる経営スタイルです。経営者は少し多くの知識が必要になります。機関室や通信システムについて何も知らないではいられないのです。舵取り競争では、このような設備を持った船と、このような資質を持った船長が必要になります。

しばしばある問題の一つは、現場で起こっていることが経営者に伝わらないということです。経営者が直接に問題を調べることが出来ず、管理者からの報告が頼りでは具合が悪いのです。このままでは、経営者は間違った方向で全速前進を命じてしまうでしょう。
もう一つの問題は、命令が末端まで伝わらないということです。命令を出しても、管理者がその重要性を理解せず、命令の伝達が途切れてしまいます。あるいは、管理者が経営者から聞いたままの言葉で部下に伝えるだけで、方針を具体的な行動に落とし込めないという問題もあります。「品質第一」を社長から現場まで唱えても、何も行動できません。「品質第一」のために何をするかを、管理者は落とし込まなければならないのに、それができないのです。こういうことは、よくあることです。
そして第三の問題は、経営者の資質です。冒頭の自動車や飛行機の操縦に例えたとき、いずれも運転免許が必要であること、特に飛行機の機長になるには、知識と身体能力と厳しい訓練と経験の積み上げがなければコックピットに座れないことに着目するべきでした。経営者になるための訓練を受けていない経営者は、コックピットに座る資格がないのです。
「舵取り」のイメージはご理解いただけたでしょうか。次回は、経営者が舵取りできる組織を作るために、何をすれば良いのかを考えてみます。