レポート:<ERP 終わりのないプロジェクト> ITで成し遂げようとすること

<ERP 終わりのないプロジェクト>

ITで成し遂げようとすること

2005年9月24日


 明治大学の歌代助教授の講演を聴いて考えました。「何のためのITなのか?」
 そして、その大きなヒントを得た気がします。

 ITは道具です。道具なので、企業はそれを使って何らかの力をより大きくさせようと考えているはずです。それは何の力でしょうか?効率化、つまりオペレーション能力でしょうか?いや、それだけではないでしょう。歌代助教授が講演で提示したのは、ガバナンス力、イノベーション力、そしてオペレーション力の3つでした。

 かつて、ITと経営は乖離していました。情報システム部は個々の利用部門と業務効率化を検討しました。つまり、ボトムアップのITです。CIOは必要ありませんでした。経営者はITに興味を持ちませんでした。情報システム部門も、自らを特別な組織だと思っていました。利用部門の部門長の依頼を受け、要件を聞き、プログラムを書きます。プログラムを欲しいと言う利用部門と、プログラム作りを生き甲斐とするプログラマとの共同作業です。そして、確かに効率化は成し遂げられました。

 現在、ITは経営への貢献を求められています。それは効率化だけではありません。
 ひとつには、会社の隅々までの行動を経営者の目にさらすということです。「情報提供のスピード」とも言われるものがこれです。具体的には、レポートであり伝票照会です。その仕組みが、ガバナンス力を高めてくれるのです。
 もうひとつは、短期間・低コストで組織機能の追加・変更を可能にするということです。「変化への対応のスピード」とも言えます。具体的には、環境変化に対して組織や仕事の仕方を見直すときに、ITをボトルネックにしないということです。それは、イノベーション力を高められたという意味になります。

 もちろん、オペレーション力の向上にも貢献する必要があります。ただし、ガバナンス力やイノベーション力とバランスをとりながらという条件付きです。経営から見たオペレーション力は、単なる部内効率化ではありません。サプライチェーン全体とか、顧客対応プロセス全体とか、そういうレベルでの効率化です。複数の部門が協調して要件をまとめなければならないのです。
 ガバナンス力を犠牲にしてしまうケースはあると思います。具体的には、効率的ではあるが、その業務をブラックボックスにしてしまうようなアドオンシステムです。部門単位で効率化を追求すると、しばしばそういう落とし穴に落ちます。部門単位での検討は楽なので、気をつけないとこの落とし穴に簡単に何度でも落ちます。
 あるいは、イノベーションを犠牲にしてしまうケースもあります。具体的には、たとえば長期間使い続けないと元が取れないアドオンシステムです。5年で元を取るような合理化投資は、10年間は業務を変更できないという非常に重たい足枷になります。

 ここでもうひとつ問題があります。ガバナンス力やイノベーション力の向上は、現場の担当者たちにとっては「便利になった」という実感を伴いません。監視が厳しくなったような、変化に忙しく対応させられるような感じになります。自発的にそのような取り組みは起こらないでしょう。つまり、ガバナンス力やイノベーション力を高めることは、トップダウンでしかできないのです。だからCIOが必要なのです。
 ボトムアップのITはオペレーション力の向上に偏ります。結果として効率化は進むように思われます。事実、手作りシステムが実現した効率化に満足している会社は多いでしょう。しかし、実はそれは間違っているように思います。そこで成し遂げられた効率化は、部門内の効率化です。たとえば販売プロセスや購買プロセスです。だから、CIOは不要なのです。トップダウンの場合と違って、サプライチェーンの効率化というような全体最適志向の発想にはなりません。

 ERPを使ってみて、初めて「ガバナンス力」や「イノベーション力」を認識しました。現場からは「効率が犠牲になっている」という意見も出ます。しかし、それはやむをえないことなのかもしれません。


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魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 2005-9-25 /178

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