書評:フォーカス

書評

フォーカス

市場支配の絶対条件

アル・リース/島田陽介[訳]

1997年7月20日


 「フォーカス」という概念は、拡大志向でマネジメントを見てきた人々には、きわめて理解が難しいようだ。「範囲を絞る」ということを思い浮かべられないケースと、間違った絞り方をするケースがある。筆者の周囲からケースを紹介しよう。

(1)ソフトウェア開発ツールへの適応

 ソフトウェア開発の分野では、新しい言語が流行したり、新しい開発ツールが脚光を浴びる例がある。筆者の知るある企業は、かつてはCOBOLによるメインフレーム用のソフトウェアだけを開発していたが、その後の状況変化で次のような言語やツールを導入した。

db-MAGICパソコン向け
CAPSELオフコン向け
PowerBuilderパソコンLAN向け
NATURALメインフレームのオンライン向け
VisualBasicパソコン向け

 この他に、近い将来に導入が検討されると予想される言語・ツールとして、Javaや何らかのデータウェアハウスがある。一方で、これらの中ですでに廃棄されたのはCAPSELだけである。問題なのは、この企業が総勢60名、開発部は30名にすぎないことである。

 この企業は、事業規模は拡大よりは、むしろ縮小傾向にある。当然ながら、ツールによっては1〜2名の要員だけで細々と続けている状況である。

 一時期はC言語にも手を出そうとしていたこともある。悲しいのは、このように手を広げることを「多能工化」と勘違いしてるらしいという点だ。つまり、問題意識を持つというより、向上心に燃えてこの「つまみ食い」を繰り返しているのである。

(2)市場のターゲットを絞る

 こういう絞り方をした企業がある。その会社は、ある一部上場企業の子会社なのだが、「親会社に集中する」としたのだ。その代わり、親会社の仕事のうち、関係ありそうなものはすべてカバーするという。

 本書を読んだ私は、この戦略を「田舎のよろず屋戦略」と呼び、批判している。「関係ありそうなものはすべてカバーする」という戦略は、マーケットを閉鎖した環境におかない限り成立しないが、現実にはそのようなことは不可能だ。オープンな環境にいる顧客は、一企業とはいってもさまざまなニーズを持っているし、ニーズをより高く満たす技術が世の中にあることも知っている。また、子会社であるこの企業がそのすべてに高いレベルで対応することが不可能であることも知っている。

 この話も、悲しいオチがついている。その親会社のトップは「うちはお宅がカバーする分野に使う金を半分にしたい」と言っている。つまり、その企業は事業を縮小するという選択を、意図しないでしてしまったことになるのだ。

本書から学べること

 本書は、きわめて特徴的な内容を持って、経営判断の本質を理解させる。つまり、「フォーカス」という点にあらゆる章を割いているが、「フォーカス」こそが経営判断の本質なのだ。

 経営資源が無限にはないことは、すべての経営者が理解している。そして、「重点を絞って、そこに集中投資する」と発言はする。しかし、そのことを周囲から理解されることはめったにないし、実際に企業が「重点に絞る」ことに成功した例はまれである。「重点を絞る」ということが、具体的に何をすることなのかということを、本書はしつこいぐらいに丁寧に主張している。

 おそらく、本書を読んでも、実際に「重点を絞る」ということに成功する経営者は、それほど多くは現れないだろう。それでも、経営者には強く、本書を推薦する。なぜなら、現場はフォーカスを絞ることの魅力を理解することができる。それがパワーアップにつながることを、普段から顧客に接する現場では経験から理解できるのだ。一方で、経営者がフォーカスを知らない、問題意識さえ持っていないとしたら、現場や顧客にとっての経営者の存在意義がなくなってしまうのだ。そういうことにならないためには、少なくとも現場より早く、「フォーカス」についての問題意識を持つことが経営者にとって必要なのだ。


魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1997-7-20