レポート:表出化の困難性

表出化の困難性

1998年8月21日


 「表出化」とは、ナレッジを抽出し、人に分かる形にすることです。「暗黙知」を「形式知」に変換するわけです。これは、きわめて難しいプロセスだといわれています。

操作マニュアル

 「操作マニュアルは分かりにくい」とよく言われます。その理由の一つは、暗黙知を表現できていないからだろうと思います。

 操作マニュアルを書く人は、そのモノを作った人や、作った人に教わりながら十分に使った人です。つまり、操作アニュアルを書く前に相当の暗黙知を持っている人です。つまり、操作マニュアルを書く人は、書く時点ですでに「書くまでもないこと」をたくさん持ってしまっているのですが、その中にはそのモノを理解するために必要な情報がたくさん含まれています。

技術標準

 技術レベルを標準化しようという意図で、「技術標準」「標準規定」などを作ることがあります。そういうとき、どこまで書いていいのか分からないことがあります。書き出すときりがないし、書かないと分からないだろうし・・・。

 ある技術について、今は自分が一番よく知っているとします。標準化するということで、それを他の人でもできるようにするわけですが、どうすればそれができるのかを説明していこうとするわけです。そうすると、知っていなければならないことは膨大です。「今なら自分が一番」という人にとって、さまざまな知識が「つながって」いるのです。何でも書こうとすると、それらを全部書き出すはめになります。

質問と解答

 分からないことを質問すると、丁寧に分かりやすく教えてくれる人がいます。そういう人たちは、形式知だけでなく暗黙知も伝えようとしているのだと思います。

 質問によって、伝えるべき情報の範囲は相当に絞られています。教えてくれる人は、その絞られた範囲について説明していきます。相手の顔を見ながら、分かっていないようなら言い方を変え、もう少し細かいところまで説明していきます。暗黙知をも伝えようと努力し、実際に暗黙知は伝わっていきます。

教わった人が書き出す

 そこで一つの提案です。暗黙知を形式知に変換する作業は、暗黙知を手に入れた人が行ったらいかがでしょう。

 「質問と解答」で書いたように、このやりとりは範囲が絞られています。このことは、暗黙知を切り出すことを容易にします。すべての知識がつながっているという状態を脱皮できます。それに、教わった人は「書くまでもないこと」をまだあまり持っていないはずです。どこからどこまで説明すれば理解できるかを、身を持って証明しています。

 教わった人が書き出すということは、教えてくれたことへの恩返しでもあります。よく知っている人が書き出すと、知っている人ほど負担が大きいということになりますが、教わった人が書き出すのであればそういうこともありません。教えてあげることが負担ではなくなるのです。

 「教えてもらった人が書き出す」が私のお薦めです。


魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1998-8-23