レポート:自己実現を理解しよう

自己実現を理解しよう

1998年9月22日


 マズローの「欲求段階説」というのがあります。人間の欲求は、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、自我の欲求、自己実現の欲求という5段階があるというのです。そして、下位の欲求(生理的欲求から)が充たされるとその欲求は弱くなり、代わって上位の欲求が強くなるのだそうです。ただし、自己実現の欲求だけは、充たされても弱くならないということです。

欲求段階説と文化

 欲求段階説の順番(生理的欲求→安全の欲求→社会的欲求→自我の欲求→自己実現の欲求)は、アメリカの文化が前提だという説もあります。日本では「安全の欲求」が一番上なのだそうです。(ステファン・P・ロビンス『組織行動のマネジメント』)

 確かに、生理的欲求は最初であることは、文化とはあまり関係ないように思います。しかし、日本人の場合は、その次に「社会的欲求」が現れるようです。「社会的欲求」とは、「仲間になりたい」「仲間に入れて欲しい」という欲求ですが、日本人はしばしばそのために自らの安全を二の次にしてしまいます。地下鉄サリン事件の犯人も、そういうことではないでしょうか。仲間外れにされないためなら、自らの安全も省みないのです。

 そして、日本人がその次に考えるのは、「安全」でしょう。それは、生命の安全だけでなく、身分や地位を守ることも含めています。(マズローの考えた「安全」には含まれないかもしれませんが。)そして、日本人は、安全のためなら何でもするのです。証拠隠滅でも、粉飾決算でも、背任でも。そして、このあたりが日本で成功した人たちの限界なのです。

社員の動機付けのために

 従業員に一生懸命仕事をしてもらうことは、どの企業にとっても重要な課題です。こういう問題を「動機付け」といいます。

 「動機」のもとを「欲求」とする説があります。「欲求を満たすために、仕事をする」という考え方です。これがすべてではないかもしれませんが、重要なポイントの一つであることは間違いないでしょう。その欲求を誤って解釈することは、誤った動機付けをもたらします。

 前述のように、3段階の欲求段階(生理的欲求、社会的欲求、安全の欲求)だけしか経験していない人たちが、最近の若い人を誤解することはありそうな話です。彼らは、若者の行動を見て「結局は金が問題なのだろう」などと解釈します。そういう解釈があたっていない場合も、あるように思うのです。

自己実現人

 自己実現の欲求により行動する人たちを「自己実現人」といいます。彼らは、単純に「金のため」に働くのではありません。賞を狙っているわけでもありません。純粋に、その仕事がすきで、その仕事を通じて自己を実現するために働いています。
 たとえば、亡くなった黒沢明監督などがそういう人たちです。

 さて、自己実現人はどこにいるでしょうか。もともと、アメリカにおいてさえ、自己実現人はそれほど多くはありません。でも、アメリカ企業には自己実現人が結構いるように思いますが、日本の企業にはいるのでしょうか?特に大企業には。
 一方、若いうちに自己実現の域に達する人たちがいます。たとえば、独身で働いている女性で、そこそこの実績を上げた人たちは、大企業の部長たちよりよほど自信にあふれ、金や人の目を恐れることなく仕事をしているように思います。彼女たちは、会社を恐れてはいません。盲目的に上司に従うことはありません。そして、実際に会社を離れたとしても、しっかりと生きていくことができます。大企業の部長たちが、会社を離れると無力で、実際に会社を離れてしまうと、どこかの会社が拾ってくれないかと考えるのとは対称的です。

 これからの経営者が、従業員のやる気を引き出すためには、「自己実現人」を良く理解し、彼らに機会を与え、育てていくことが必要でしょう。


魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1998-9-22