レポート:意図せざる情実人事
意図せざる情実人事
1997年12月28日
多くの経営者が「人こそが我が社の宝だ」と言います。でも、そのように行動されていない方が多く見られます。従業員を言葉で期待させ、行動で裏切っているのです。これは、最初から何も言わないのと比べて、おそらくマイナスでしょう。
「情実人事なんて・・・」
やはり、多くの経営者が「私は情実人事などしない」と言います。情実人事とは、能力のない人を、能力以外の理由、たとえば毎年お歳暮を贈ってくれるなどという理由で引き立ててあげることです。確かにそういうことをする経営者はめったにいません。なぜなら、そのような情実人事は他の従業員の納得を得ることができません。それに、引き立ててあげたくなるほどの何かを受け取るようなこともなかなかないでしょうから。
もう一つの情実人事の形
情実人事にはもう一つの形があります。次のような手順で組織編成・責任分担を決めていく方法です。
- 我が社の部長は、A君とB君とC君、それにD君だ。
- A君はX部、B君はY部、C君はZ部にしよう。D君には新しく作るW部を任せよう。
- A君が部長だから、X部はここまでできそうだ。Y部はB君が部長だからこの程度に。
- D君にW部を任せるから、Z部がやっていたこの仕事はW部に移そう。
- Z部は仕事が減ったから、新しくこの仕事を開拓してもらおう。C君の得意な分野だし。
さて、このどこが情実人事なのでしょう。部長を決めたところでしょうか。いいえ違います。実は、人の適性に合わせて部の責任範囲を決めたことなのです。これにより、次の二つのことが起こります。これは、4人の部長にとってきわめて居心地の良い環境を与えますが、企業にとっては致命的な失敗になるのです。
- 自分にあった責任を負っているので、各部の部長としての最適任者が自分になる(4人は部長としては安泰)
- 各部長は、部長としてこれ以上新しい責任を負う必要がない(自己啓発が不要)
このような手順で発生する情実人事を、私は「意図せざる情実人事」と表現しました。部長を決めた経営者には情実人事をしたという認識はないでしょうが、周囲や本人に結果として起こることは、次の説明するように、情実人事と同じなのです。
情実人事に対する周囲の反応
多くの従業員は、自分の上司を最初に人間性で評価します。そして、新しい責任を負わない、向上心のない上司を軽蔑するようになります。また、従業員が求めるマネジメント能力は、必ずしもその組織の責任分担とは関係ありません。一般的なマネジメント能力なのです。そうすると、A部長よりマネジメント能力のまさるE課長の方が、より部長に適していると感じるのです。
課長たちも、自分が部長として能力を認められるためには、部長たちのような適性を身に付けなければならないのです。部長たちはとても尊敬できる人たちではありません。はたして課長たちは、部長たちのようになる努力をするでしょうか?(努力をする人がいるとすれば、次回紹介する『やる気のある人』です。)
さらに、お客様も同じようにその会社の責任者の人間性が、その会社に対する評価に大きく影響します。頼もしいE課長の上司がA部長であることを見て、「この会社はどういう会社なのだろう?」と不信感を募らせるかもしれません。
ところが、X部の責任分担はA部長の適性に合わせてありますから、社長であるあなたには、A部長がX部の部長として最適任であるとしか見えないのです。それはA部長本人も同じです。
では、どうするのか
会社としてこれから必要になる機能を洗い出すのは、経営戦略立案の一つです。その詳細はここでは省きます。
洗い出された機能をどのように分担するのかという視点は、機能別に分担する方法と、プロセス別に分担する方法があります。従来は機能別に分担する方法が一般的でした。BPRはそれを否定する考え方で、一連のビジネスプロセスを分担しないで一つの部署で完結させることで、効率の良いビジネスができるとしています。
さて、このような手順で各組織の責任範囲が決まっていくと、必ず4人の部長の適性だけではカバーできない部分が出てきます。それでも、それも含めて組織編成と責任分担を決めていくのです。そして、4人の部長の適性だけでカバーできない部分が、4人が自己啓発により獲得することを期待される能力なのです。
もしかすると、今の課長たちの中から足りない部分をより高いレベルで満たす人が出てくるかもしれません。部長としての適任者が交代する可能性が出てくるのです。それは、部長にとっては安穏とできない危機ですが、お客様にとっても、従業員にとっても、当然ながら会社にとっても、良い環境を手にすることができるのです。
魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1998-1-15