レポート:経営判断と「成りゆき」

経営判断と「成りゆき」

1997年8月16日


経営判断のない企業

 経営判断なしで企業が存続するケースがある。これは、経営判断の本質を理解するためには格好の教材である。というのは、経営判断の失敗で企業が危機に陥ったケースでは、判断の善し悪しを論じることはできても、「経営判断とは何なのか」という切り口からの理解は困難だ。
 経営判断なしで存続する企業とは、潤沢な資金がある企業である。それには二つのケースがあり、一つは過去の成功がもたらす資金を食いつぶして存続している企業、もう一つは大企業の子会社で、親会社が「潰すわけにはいかない」と覚悟を決めているケースである。

 さて、経営判断がないということは、経営を成り行きに任せるということである。そういう企業の行く末を考えてみよう。

成り行き任せの企業がたどる道

 ここでは潰れないことを前提とした。また、潰れないからと言って全従業員が左うちわでいるケースではやはり経営判断を理解するための役には立たないので、ここでは毎年若干の損失を出していることにしよう。何割かの従業員はそのことに問題意識を持ち、そこそこ一生懸命やっているとする。

 さて、このとき企業はどのような姿になるだろうか。企業が利益をあげるためには、少しでも仕事を増やしていかなければならない。現在の仕事と少しずれたところに顧客のニーズがあるとき、経営判断のない企業はいつもそれに手を出すのだ。「仕事の幅が広がっていく」というと良いことのように聞こえるかもしれない。でも、仕事の幅を広げることは、仕事に質を落とすことに他ならない。
 たとえばハンバーガー屋がおにぎりにも手を出したとしよう。その店はハンバーガーを作っていた従業員におにぎりの作り方を教え、設備を整え、そしておにぎりを売り始める。おにぎりに関しては、当然ながら彼はまだプロの域には達していない。一方でハンバーガーの方は前に比べて手薄になっている。その店に客は、前よりも味の落ちたハンバーガーと、まだ決してうまいとは言えないおにぎりのどちらかを選択せざるを得なくなるのだ。

 ハンバーガー屋がおにぎりも扱うようにあることを、「多角化」という。多角化が悪いことかというと、いつもそうだという訳ではない。ハンバーガーの質も量も落とさず、おにぎりを新たに導入できるときがあるのだ。市場が成長・拡大しているときである。そういう環境の時は、ハンバーガーを作っていた従業員におにぎりを教えるのではなく、最初からおにぎりを意識した従業員の採用や教育ができるのだ。
 お気づきだろうか。「多角化」は高度成長時代の発想だということに。そして、ここにこそ経営判断の本質が見えてくるのだ。

経営者よ!判断があなたの使命だ!

 もう一度確認すると、高度経済成長時代には多角化が成功した。このことは、経営判断の有無が問われなかったことを意味する。あなたの先輩が経営判断なしでうまく経営できていたとしても、それはあなたの参考にはならない。

 では、経営判断とは何か。それは、仕事の範囲をどこに絞るかという選択である。あるいは、何をより重視するかという選択である。経営判断の有無による発想の違いを整理してみよう。

 経営判断なしの場合経営判断ありの場合
新しい事業分野について新しい分野に進出したいが、暇そうなやつはいないか新しい分野に進出したいが、どの分野から撤退しようか
既存の事業分野についてどの分野も大事なお客様がいる。継続しなければならない自社の力をより強く発揮できる分野はどこだろう。そこに資源を集中したい
従業員の採用について仕事を広げるのだから、人を採用しよう事業規模が拡大するのではないから、従業員は増やさない
優秀な人材の扱いについて彼は優秀だから、この分野から外せない
彼がもう2〜3人いたら・・・
彼は優秀だから、重点分野に移そう
自社の事業ドメインについて我が社は総合××会社だ
(今のドメインをカバーする)
我が社は××専門会社だ
(今のドメインより絞り込む)
市場占有率についてライバル会社にまけないように頑張ろう強みを発揮できる分野に絞ろう
市場の範囲について今の市場でシェアを上げていこう狭い分野ででも世界に市場を広げよう

 企業は、人が意図的に作った集団であり、明確な目的を持ったものだ。企業を成り行きに任せることは、すなわち経営がないことを意味し、許されることではない。それは、顧客に対しても、従業員に対しても、株主に対しても、責任を果たしていないことになる。

 ところが、そういう経営者が実に多い。その理由は、すでに述べたように高度成長時代が長かったために、経営判断を「する」というレベルでさえ、お手本がなかなかないのだ。判断の質は次の課題だ。まずは「経営判断」に挑戦してみよう。


魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1997-8-15