レポート:行き先をひとつ選ぶ

行き先をひとつ選ぶ

1998年6月13日


 「コックピット経営」というようなキーワードを眼にすることが急に増えてきました。「経営者はコックピットに座れ」というタイトルで発表したレポートは、ちょっと聞きかじったキーワードから自分で展開した内容だったつもりですが、「コックピット」という表現は二番煎じのようにも見えてしまいます。あわててタイトルを「操縦席」に変えた次第です。

 さて、本題へ。

行き先の選択肢

 経営のスピードが上がります。自家用飛行機を手に入れたわけです。同時に、経営環境も情報ネットワーク基盤の整備など高速化の準備ができてきました。自家用飛行機が発着できる飛行場が、世界各地に整備されてきたのです。
 どこへでも行けるのですが、さて、どこへ行きましょうか。

 今までは、ごく限られた範囲から行き先を選ぶ必要がありました。行き来に時間がかかるのですから、それほど遠くへはいけなかったのです。選択肢はわずかでした。ところが、スピードが上がって、行き来の時間が短くなると、選択肢はぐんと広がります。

 企業経営に話を戻せば、「どんな会社にするか」を過去の延長線上におく必要がなくなり、従来だったら実現不可能と思われたような急激な変化を計画することが可能になったのです。「隣が行くからうちも」という横並び意識も、全然意味がなくなってしまうのです。

残っている制約

 スピードを手に入れたと行っても、何でもできるわけではありません。

 考えてみてください。いくら高速化したところで、時間は1日24時間で有限です。お金も湧いてくるわけでなく、有限です。あっちもこっちも行きたいと考えると、高速で移動することだけで疲れてしまいます。行き先をひとつだけ選ぶ必要があるのです。そのこと自体は、今までと何も変わりがありません。

 このことは、無限であるかのように広がった選択肢の中から、たったひとつを選ぶという能力を求められていることを表します。今までは、花屋敷へ行くか、東京ディズニーランドへ行くかという幅の選択肢だったのが、長崎のハウステンボスでも、アメリカのディズニーワールドでも、エジプトでもブラジルでも行くことはで来るのです。「隣の人に負けないように」などと考える必要はなく、ひとつの自分だけの選択をするのです。

 再び企業経営に話を戻すと、この会社は何をするのか、この会社をどうするのかを、無限の選択肢の中からひとつだけ選ぶということになります。今までのような横並び意識は意味がありません。

高速経営で求められる能力

 スピードを手に入れると、そのスピードをコントロールする能力だけを伸ばせばよいと考える人もいます。たしかに、スピードが目的の場合はその通りでしょう。しかし、多くの企業はスピードそのものが目的ではありません。そこで求められる能力は、実は「○○をやるために、××へ行こう」と考えること、さらにいえば「○○をやりたい」という強い意志を持てる能力です。

 企業経営では、パソコンを使いこなし、電子メールやインターネットを駆使することが重要なのではありません。それは、単にスピードをコントロールできるというだけです。そんなことは、仮に苦手でも、誰かにやらせることもできるのです。むしろ重要なのは、「○○をやりたい」と強く意志を持てる能力、言い換えれば「夢を描く能力」ではないでしょうか。
 また、企業経営では人を動かす必要もあります。「夢を語る能力」も重要です。

 何と面白いことに、高速度経営という非人間的だと思えるようなマネジメントで重要なのが、「」というきわめて人間的な能力であるということなのです。


魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1998-6-13